わからない仕事といわれます。安倍首相は第1次政権では身体の
ことだけでなく、いろいろ壁にぶつかることが少なくなかったよ
うです。その最大の壁は財務省だったといいます。
内閣としてどれだけ仕事ができるかは、財務省という役所とど
う付き合うかにかかっているといわれます。なぜなら、財務省は
国の膨大なおカネを握っているからです。財務省は国の予算の差
配権を握っているので、あらゆる役所に大きな影響力を持ってお
り、敵対していると仕事にならないのです。
民主党が官僚機構の打破を掲げて選挙に勝利し、政権交代した
とたんに財務省に洗脳されたように見えるのは、財務省と対決し
て何もできないよりも、財務省と協調してひとつでも多くの仕事
をした方が内閣として得策と考えたのだろうと思います。もちろ
んこの考え方が違っていることはいうまでもないことです。
その点安倍氏の場合は、二度目の登板なので、ある程度事情が
分かっています。そのため、最初に手を打たないと駄目であると
思っていたのです。とくに今の日本は、経済の立て直しが急務で
あることがわかっていた安倍氏は、それには日銀総裁人事が鍵を
握ると考えたのです。
そういうわけで安倍氏は、早くから総裁候補を慎重に選び、腹
案をもったうえで首相に就任したのです。その日銀総裁候補者選
定の相談に乗ったのは複数いたでしょうが、イェール大学名誉教
授の浜田宏一氏が中心になっていたことは確かです。それは、浜
田氏が自著において、複数の日銀総裁候補を推薦している記述が
あることでわかります。現黒田東彦日銀総裁と岩田規久男日銀副
総裁に関する記述を抜き出してみます。
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◎金融論が専門で、日銀のデフレ志向の金融政策を長年批判し
続けたのが学習院大学の岩田規久男教授である。私は、徹底
した貨幣重視の論調を、いわば四面楚歌のなかで続けてこら
れた岩田氏の忍耐強い姿勢には尊敬の念でいっぱいである。
日本のミルトン・フリードマンが誰かといえば、間違いなく
彼だ。「法と経済学」でも大きな業績があり、次期日銀総裁
の有力候補に挙げられる人である。
◎円高が各産業にどれほどの負担をかけているのかについては
ハーバード大学のデール・ジョルゲンソン教授と慶応大学の
野村浩二准教授が詳細に研究し、論文を書いている。両教授
の研究が示しているのは、為替介入をしない口実に使う、財
務省国際局の「過去20年の実質為替レートはもっと高かっ
たから大丈夫だ」という主張が、まったくの間違いだという
ことだ。はるか昔に財務官だった黒田東彦氏(アジア開発銀
行総裁)は、「円高になると企業が苦しんで製品の価格を下
げるので、デフレがゆるやかに進行する」事実をデータで示
している。黒田氏も日銀総裁候補に挙げたい。
──浜田宏一著『アメリカは日本経済の復活を知っている』
講談社刊
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浜田教授による黒田東彦氏と岩田規久男氏の紹介記述を読むと
明らかに黒田氏よりも岩田規久男氏を強く推薦しているように思
えます。浜田氏の著書には岩田氏をめぐるエピソードが頻繁に出
てくるからです。とくに次の記述は印象に残ります。
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日本のミルトン・フリードマンが誰かといえば、それは間違
いなく岩田規久男氏である。 ──浜田宏一氏
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これでわかるように、現在の黒田日銀総裁と岩田日銀副総裁の
コンビは、明らかに今までの日銀のトップとは異なる政策の持ち
主なのです。安倍首相は首相になる前にあらかじめ日銀トップの
人事を胸に秘め、首相になるや否や、電光石火にそれを実施した
のです。財務省に一矢報いたといったのはそのことを指している
のです。
岩田規久男氏について少し書く必要があります。岩田氏は、当
時東大経済学部教授だった小宮隆太郎氏の門下生なのです。前日
銀総裁の白川方明氏も、もう一人の日銀副総裁である中曽宏氏も
小宮ゼミに属していたのです。浜田教授が白川氏のことを「教え
子」と呼んでいるのは、浜田氏が東大経済学部で教鞭をとってい
たとき、ひときわ、聡明さが光っていたのが白川氏であり、学問
の世界に残るよう声をかけたことがあるからです。
ところがミルトン・フリードマンを始祖とするシカゴ学派の本
拠地に留学したのは白川氏のほうであり、フリードマンの最後の
講義も受講したといわれています。それにもかかわらず、浜田教
授が、白川氏ではなく、岩田氏を「日本のフリードマン」と称賛
するのは、白川氏が若いときの自説を日銀理論に合わせて変えた
のに対し、岩田氏は現在「リフレ派」といわれる貨幣重視の論調
を、四面楚歌のなかでも変更せず、守り通していることを評価し
たのです。岩田規久男氏について、あるブログライターは次のよ
うに書いています。
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岩田新副総裁が日銀にもたらすのは金融政策に対する「自信」
だろう。よくも悪くも近年の日銀の金融政策は「金融政策の限
界」と「金融緩和の弊害」を強く意識した運営となっていた。
リフレ派の中心的人物だった岩田氏にはそのような迷いは感じ
られない。このあたりの雰囲気をみると筆者には岩田氏を「日
本のフリードマン」というより「日本のバーナンキ」と呼ぶほ
うが、ぴったり来るように感じられる。両者ともマネタリスト
的であり、金融政策の効果・限界を非常に高く評価し、一方で
その弊害を低く、かつある程度コントロール可能なものとみな
している。 http://bit.ly/1eH1Kqh
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──[消費税増税を考える/57]
≪画像および関連情報≫
●アベノミクス実体経済に波及/岩田規久男日銀副総裁
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日本銀行はこの2013年4月、2%の「物価安定の目標」
をできるだけ早期に実現するために民間に供給するお金(こ
のお金は現金と金融機関が日銀に預けている当座預金の合計
で、マネタリーベースと呼ばれる)の量を大幅に増やし続け
るというこれまでとは次元の異なる「量的・質的金融緩和」
を導入した。この政策は、次のような波及経路で、日本経済
を15年近く続くデフレから脱却させることを狙っており、
これまでのところ一定の成果があがっている。量的・質的金
融緩和は、国債や株式、外国為替を取引する投資家たちが予
想する将来のインフレ率(予想インフレ率)を引き上げるよ
うに作用する。インフレになると、現金や預金、利息が一定
の国債などの債券の購買力は減少する。そのため、インフレ
を予想した投資家たちは、手持ちの現金や預金で、あるいは
国債などの債券を売って得た資金で、インフレに強い株(株
式投資信託を含む)や土地・住宅(Jリートなどの不動産投
資信託を含む)、日本の金利よりも高いドルなどの外貨建て
資産を購入しようとする。その結果、株価が上昇し、円安・
外貨高になる。株高と外貨高により、株や外貨建て資産を持
っている家計の資産価値は増加する。資産価値が増加した家
計は消費を増やす。株価の上昇は家計の気分(マインド)を
明るくする。このマインドの改善も家計の消費を増やす要因
である。実際に、家計の消費は最近3四半期連続して増加し
続けている。 http://on-msn.com/1fcu2Wj
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日本のミルトン・フリードマン