す。しかし、彼らは国益ではなく、「省益」に基づいて経済運営
をしているのです。政治家はそれに乗っかっているだけです。
しかも彼らは、経済運営に失敗しても責任を取らず、そういう
ときは政治家に責任を取らせます。だから、明らかに経済成長の
阻害要因になる今回の消費税大増税(5%→10%)も安心して
やれる立場にあります。
安倍首相は、そういうことがわかっていないわけではないので
す。首相の本心としては、今回の消費税増税はやりたくなかった
と思います。しかし、これは、財務省に飼い馴らされた民主党政
権の時代から、谷垣禎一元自民党総裁などが協力して積み上げて
きたものであり、撤回はもとより、延期ですらも実施するには手
続き的に非常に困難であったのです。
しかし、安倍首相は、第2次政権では財務省に対して一矢報い
ています。それは、日銀総裁人事に関してリーダーシップを発揮
したことです。なぜなら、日銀が変わらないと、経済を活性化で
きないからです。どのように一矢報いたのかについては、後から
改めて述べるとして、首相を取り巻いている財務省支配の現状を
先に述べることにします。
2013年6月のことです。経済財政諮問会議で、次の「骨太
の方針」が出されたのです。
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今後10年間(2013年度から22年度)の平均で、名目
GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長を
実現する。 ──経済財政諮問会議骨太の方針
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実は、この目標からして財務省の意向に沿ったものなのです。
経済財政諮問会議は橋本行革によって2001年1月の中央省庁
再編によって設置された組織です。しかし、この諮問会議が多少
でも機能したのは小泉政権のときです。「骨太の方針」は小泉政
権のときにはじめて出されたのです。
その狙いは、予算編成の主導権を財務省から取り上げ、官邸自
ら予算の骨格を決めることです。しかし、これを実現するには、
首相の強いリーダーシップと経済を担当する大臣が予算編成の知
識と実務に長けていることが不可欠です。
これに危機感を感じたのは財務省です。そこで長い年数をかけ
て少しずつ主導権を取り戻したのです。これについて、元財務相
官僚の高橋洋一氏は次のように述べています。
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普通の人は「経済財政諮問会議は内閣府の組織のはず。それが
なぜ財務省の支配下にあるのか」と思うだろう。内閣府という
ところはじつは、財務省の植民地のような組織なのである。形
式上は内閣府が経済財政諮問会議の事務局を担当していても、
実際には財務省出身者や、財務省出身の上司に従う内閣府の職
員が、事務局を通じて会議を好きなように動かしている。そも
そもいまの内閣府の事務次官にしてから、財務省出身なのだ。
──高橋洋一著/東洋経済新報社刊
『財務省の逆襲/誰のための消費税増税だったのか』
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実は、上記の「骨太の方針」は、掲げても掲げなくてもどうで
もよい方針なのです。どうしてか。それは、あまりにも「低い」
目標であり、とても目標とはいえないものだからです。
データの入手可能な152ヶ国で、2000年から2008年
をみると、名目GDP成長率、実質GDP成長率のそれぞれの平
均で、名目3%以上の国は149ヶ国(98%)、実質2%以上
は129ヶ国(85%)なのです。
先進国でみると、日本の名目GDP成長率は、2000年以降
の平均伸び率は「マイナス0.4 %」であって、OECD34ヶ
国中最下位の34位なのです。これは実質的に財務省が仕切って
いる日本の経済運営がいかに稚拙でひどいものであるかを物語っ
ているのです。
日本の経済成長率が低い原因を白川時代までの日銀や財務省は
人口減少のせいにしようとしています。しかし、世界には日本の
ように人口が減少している国は11ヶ国ありますが、日本以外の
すべての国で名目成長率3%をクリアしているのです。
それに仮に日本が目標通り「名目GDP成長率3%」を実現し
ても、OECD34ヶ国の順位が最下位から32位に上がるだけ
のことで、それがいかに低い目標であるかがわかると思います。
それに今まで通りの経済運営では、その低い目標ですら達成でき
ないことになります。なぜなら、日本の名目GDP成長率は20
00年以降、2010年をのぞき、高い年でも1%台で、1%以
下のマイナスになることもしばしばだからです。
それにこの数値目標は、野田政権時代の2012年8月の「経
済財政の中長期試算」の数字と同じなのです。こういう数字を出
す財務省も財務省ですが、それを受け入れる安倍政権にも問題が
あります。異次元の金融緩和を続けていることでもあり、10年
目標なのですから、なぜ、「名目GDP成長率4%」という高い
目標を掲げないのでしょうか。
この「4%」の目標については、財務省は絶対に認めないはず
です。これについては改めて述べますが、もし、名目成長率4%
がクリアされ、それが何年も続くと、プライマリー収支が改善さ
れ、増税する必要がまったくなくなってしまうからです。
財務省は、増税が必要な状況を維持したいのです。財政再建が
必要である状況のままにしておきたいのです。なぜなら、経済が
大幅に改善してしまうと、増税できなくなるので、そうならない
ように成長率目標を低くコントロールしているのです。財務省が
国益のためでなく、省益を目標にしているというのはそのことを
指しています。財務省はそのためにさまざまな面でいろいろな工
作をしているのです。このことを知るには少し経済について勉強
する必要があります。 ──[消費税増税を考える/56]
≪画像および関連情報≫
●日本の経済社会をどこに導こうとしているのか/森永卓郎氏
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名目経済成長率と長期金利は、財政再建に当たって、どうい
う意味をもってくるのだろうか。まず、プライマリーバラン
スがプラスマイナスゼロだと仮定して、話を進めてみよう。
その場合、政府は、いま支払う支出のために、新しく借金を
する必要がない。とはいえ、借金の返済もできないので、過
去の借金は残っている。そして、借金には金利が付くので、
その分だけ借金の残高は増えていくわけだ。もし、金利が3
%ならば、借金は年に3%ずつ増えていくことになる。とこ
ろが、このとき、名目経済成長率が3%以上伸びていたらど
うか。GDPが拡大するので、GDP全体に占める借金の比
率は下がっていくことになる。借金の重みが少なくなってい
くわけだ。たとえてみれば、同じ100万円の借金をしても
年収500万円ならば相当きつい財政状態だが、年収が50
00万円の人にとってはたいしたことではないというのと同
じ理屈である。こうして、経済全体のパイを大きくしていけ
ば、あとはプライマリーバランスを黒字化しさえすれば、借
金の返済も楽である。もちろん、逆に名目経済成長率が金利
を下回れば、経済全体に占める借金の比率は高まり、借金が
重くのしかかってくることになる。このように、名目成長率
と長期金利の関係をどう予測するかが、財政再建を考える上
で、非常に重要な問題になってくるのだ。
http://nkbp.jp/1ggSYjR
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嘉悦大学教授/高橋 洋一氏