2014年03月26日

●「黒田総裁はなぜ増税を推奨したか」(EJ第3757号)

 2013年9月5日のことです。この時期はメディアでも「消
費税増税は実施されるのか否か」の議論がさかんになっていたの
です。「安倍首相が増税を見送る」という声もかなりあったから
です。そういうとき、黒田日銀総裁は、金融政策決定会合後の記
者会見で、消費増税について次の発言を行ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税率を引き上げても成長は続く。むしろ政府の財政規律が
 緩めば金融緩和の効果に悪影響がある。2013年度は駆け込
 み需要などで成長率を0.3 %ポイント程度押し上げる効果が
 あり、逆に、2014年度については、駆け込み需要の反動と
 消費税の負担増の影響で、0.7 %ポイント程度、成長を押し
 下げる効果がある。実質GDPの成長率では、2013年度は
 2.8 %、2014年度は1.3 %、さらに消費税率を10%
 に引き上げる2015年度は1.5 %とみている。
                     ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 この黒田発言には、何の根拠も示されておらず、単なる日銀の
期待値に過ぎないものです。それに増税は日銀マターではなく、
完全に日銀の越権行為であって、本来であれば口にすべきではな
いのです。それにもかかわらず、増税を後押ししたことは、この
人が財務省主計局出身のタックスマンであるからです。この黒田
発言に関して、中丸友一郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 (消費税増税は)毎年続く、恒久的な増税となる。それは恒久
 的な可処分所得の減少を意味する。したがって、2014年度
 の経済成長がプラスで、しかも1.3 %の成長を遂げるとみる
 根拠は極めて乏しい。2014年度は、おそらく良くて、ゼロ
 成長がせいぜいだろう。マイナス成長となる恐れも否定できな
 い。しかも、2015年度に、10%まで消費税率が引き上げ
 られれば、さらに恒久的に家計の可処分所得はGDP比1.2
 %分も削減される。そのような厳しい緊縮策のもとで2015
 年に経済成長率が前年度よりも加速し、1.5 %の成長を達成
 できる根拠はさらに薄弱である。     ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 この黒田発言を聞いて国民は「増税やむなし」と考えた人は多
いと思うのです。何しろ黒田氏が日銀総裁になってからは、円安
/株高が加速し、雰囲気としては景気が良くなってきているよう
に感じている人が多く、総裁の発言を信じたからです。
 さらに黒田総裁は、増税が先送りされた場合の事態についても
次のようにもいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税が先送りされた場合の国債への信認の影響を見通すの
 は難しく、国債価格が大幅に下落した場合の対応は非常に難し
 くなる。                ──黒田日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、伊藤元重東京大学教授のブラックスワン発言と同じ趣
旨の発言であり、増税先送り論者への牽制です。それはブラフ以
外のなにものでもないのです。
 むしろ増税が先送りされれば経済成長の落ち込みは回避され、
景気が持続し、所得税や法人税も増収になる可能性があります。
そうなれば、国債のリスクプレミアムは低下するはずであり、国
債の信認が低下することなどあり得ないのです。まさに財務省の
話法に基づく発言なのです。
 増税で潤うのは、財務省だけです。増税によって、財務官僚が
差配する資金量が増大し、彼らの支配力が拡大するからです。彼
らは財政再建など考えていないのです。あくまで省益の追求のみ
です。そのために財務官僚は、増税のためならあらゆるところに
手を打つはずであって、もちろん、黒田総裁のところにも増税容
認の発言をしてもらうよう手が打たれていたはずです。
 黒田総裁は、何に基づいて増税を計画通りに実施すべきと発言
したのかというと、それは2013年7〜9月GDP速報値(1
次速報値)です。安倍首相もこれを判断材料にしていることは確
かです。4〜6月期と7〜9月期のそれぞれの前期比成長率を比
較してみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
        実質GDP成長率   名目GDP成長率
  4〜6月期     0.9 %       1.1 %
  7〜9月期     0.5 %       0.4 %
―――――――――――――――――――――――――――――
 1〜3月期と4〜6月期の2期は、名目成長率が実質成長率を
上回っていたのです。しかし、7〜9月期は名目成長率が実質成
長率を下回っているのです。つまり、日本経済は7〜9月期に再
び名目成長率と実質成長率が、逆転するデフレの世界に戻ってし
まったことを意味します。
 7〜9月期は前期の4〜6月期に比べると、明らかに経済は減
速しているのです。それなのにどうして、安倍首相はこの数字を
基にして10月1日に増税を決めたのでしょうか。それは、はじ
めから、増税することを決めていたからです。
 それでは、添付ファイルの7〜9月期に何が経済に影響したの
かをみるグラフを見てください。「7〜9月期名目GDP成長率
の内訳(前年同期比)」です。
 グラフは、総需要の項目別前年同期比成長率で見たものですが
政府投資が21.2 %と爆発的に増えています。これは、いうま
でもなくアベノミクス第2の矢の貢献です。民間住宅投資も増え
ていますが、これは増税前の駆け込み需要と考えられます。
 輸入と輸出の伸びも高いですが、これは円安が要因です。問題
は輸入が輸出の増加率を上回り、純輸出の伸びが縮小しているの
です。民間消費や企業設備投資はあまり伸びておらず、本当に経
済が自立していないのです。 ──[消費税増税を考える/55]

≪画像および関連情報≫
 ●7〜9月のGDPは予想通り下方修正/小宮一慶氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内閣府が2013年12月9日に、2013年7〜9月期の
  GDP改定値を発表しました。物価変動を除いた実質値では
  年率換算で1.1 %(速報値1.9 %)。名目値では1.0
  %(速報値では1.6 %)と、いずれも下方修正となりまし
  た。これによって、次の10〜12月期のGDPはどのよう
  に動くのでしょうか。今回は、GDP改定値の分析と、次の
  四半期から2015年10月に控えている消費税増税の判断
  材料となる来年7〜9月期の成長率の動きについて考えてみ
  たいと思います。また、米国でも第3半期(7〜9月期)の
  GDPが改定されましたが、こちらは大幅な上方修正となり
  ました。コラム後半では、米国経済は今どこまで回復してき
  ているのかを分析します。なぜ、7〜9月のGDPは下方修
  正されたのか。冒頭でも触れましたが、7〜9月期GDP改
  定値は、実質・名目ともに若干下方修正されました。201
  3年12月2日付の日本経済新聞電子版の記事「7〜9月期
  GDP改定値、民間予測1.6 %増 下方修正の公算」によ
  ると、民間9社の予測中央値は実質で1.6 %ということで
  したから、エコノミストたちの予想通りに下方修正となった
  わけです。           http://nkbp.jp/1dejAlT
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典/中丸友一郎著『円安恐慌がやってくる!』
  /徳間書店刊

7〜9月期名目GDP成長率の内訳.jpg
7〜9月期名目GDP成長率の内訳
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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