に対する反論を続けます。第3の論点を再現します。
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≪第3の論点≫
消費税率引き上げは物価を押し上げるので、インフレ的で
あり、デフレ脱却に寄与する。
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井堀教授は政府が物価上昇をインフレターゲットとして、「2
年後2%」の目標を設定していることについて、消費税引き上げ
は物価を押し上げるので、インフレ的政策だといっています。つ
まり、インフレになるので、デフレ脱却に寄与し、そこに矛盾は
ないじゃないかというのです。
実はインフレには次の2つがあり、いわゆる「良いインフレ」
と「悪いインフレ」があるのです。
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1.ディマンド・プル型インフレ ・・ 良いインフレ
2.コスト・プッシュ型インフレ ・・ 悪いインフレ
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需要が供給を上回れば、価格は上昇し、下回れば価格は下落す
る──経済学の大原則です。政府・日銀による経済政策に期待さ
れていることは、需要を増やして供給過剰の状態を脱却させるこ
とによって、物価を上昇させることです。
財政・金融政策による景気刺激で、需要が拡大して起こる物価
上昇が「ディマンド・プル型インフレ」、俗に「良いインフレ」
といわれています。しかし、原油価格の高騰などの供給コストの
上昇で起こる物価上昇は「コスト・プッシュ型インフレ」、俗に
「悪いインフレ」といわれています。
つまり、物価上昇は、需要の変化でも供給の変化でも起こりま
すが、その結果として起きる経済活動の水準が違うのです。需要
の拡大で物価の下落を止めると取引量は拡大しますが、供給の変
化では、取引量は前よりも減ってしまうのです。
消費税増税による物価上昇は明らかに供給側の変化によるもの
であり、「コスト・プッシュ型インフレ」です。このことは「日
曜討論」では、本田悦朗氏が井堀利宏教授に対して反論していま
す。井堀教授の「インフレに貢献する」とは、東大教授らしから
ぬ主張であり、詭弁そのものであるといえます。
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≪第4の論点≫
現時点での財政赤字の削減は将来の債務を抑制して、将来
世代の若者の利益になり得る。
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「財政再建はツケを次世代に回さないため」──財務省やこの
役所に支配されている学者の決まり文句です。しかし、これも詭
弁そのものであり、少しでも早く増税したいときにこの言葉を使
うのです。
1997年の消費税増税(3%→5%)の失敗で日本経済はデ
フレ不況に陥り、それ以来約17年間、ずっと不況のままなので
す。その間就職氷河期が続き、若者は就職さえ満足にできない時
代が続いたのです。これこそ次世代の若者にツケを回しているで
はないですか。
それに今回の増税は財政再建のためではなく、税率は8%と前
回よりも3%と多いのです。そしてさらに10%までの増税が法
律では決まっています。これによって、足元の景気は落ち込み、
雇用や成長が鈍化することは確実です。それに財政赤字はさらに
これによって拡大するはずです。若者にとって、何もよいことは
ないのです。
ここで勘違いしてはならないのは、日本には本来の意味では国
の債務は存在しないのです。なぜなら、既に述べたように日本は
世界一の債権国だからです。
それではGDPの200%を超える借金は何なのかということ
になりますが、それは「政府債」であり、貸主は日本国内の企業
と家計がほとんどなのです。このあたりのことを財務省は国民の
無知に付け込んで、騙しているのです。これについて、元世界銀
行エコノミストの中丸友一郎氏は、次のように述べています。
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財政の大幅赤字は、日本政府の赤字にほかならない。(対外)
債権大国の日本では、本来の意味での国の債務は存在しない。
単に、国内の政府債があるだけだ。それとて、同じく国内の企
業と家計がその政府債のほとんどを債権として保有している。
政府債務の利払いは、単に同政府債の国内の債権者・国債保有
者へ支払われる。そのような日本の政府債の存在が、日本経済
成長のための制約条件であるはずがない。その何よりの証拠が
0.5 %という超低金利水準の継続である。超低金利下では、
我が国はむしろ財政赤字を短期的に増やして、政府債務(日本
の民間債権)を当面増やすべきなのである。消費税率引き上げ
どころか、日本がデフレ不況から完全に脱却するために、私は
かなりの規模の個人消費減税を提案したい(もちろん法人税減
税もよいだろう)。 ──中丸友一郎著
『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
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何度もいうように現在の日本は財政再建を急ぐべきではないの
です。何としてもデフレから完全に脱却し、雇用の拡大を図るべ
きなのです。安倍政権は、消費税増税など絶対にやるべきではな
かったのです。しかし、やってしまったことは仕方がないので、
せめて10%引き上げは、安倍首相は財務省を敵に回しても絶対
にやってはならないことです。
そういう観点から考えると、伊藤元重、井堀利宏両東大教授の
国民を惑わす詭弁は絶対に許せないことです。それに同じく財務
省に尾を振る日本経済新聞による世論誘導も許してはならないの
です。 ──[消費税増税を考える/53]
≪画像および関連情報≫
●アベノミクスの正体と消費増税の問題点/TSR
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出足が好調であったことで強気になった安倍政権は、この機
会に一気呵成に消費税増税に踏み切ろうとマスコミを抱き込
み、その世論形成をめざしているようだが、連立与党内でさ
え増税反対や慎重論があり、目下、景況を睨みつつ、この実
施の時期を巡る論議が進められている。しかしその審議の実
態は、将来の世界や日本を遠望した、国家再興や税制の構造
はどうあるべきかの本質的な論議より、アメリカや官僚、財
界の意向を汲んだ小手先の政策と党利・党略、目先の人気維
持策、麻薬投与による景気浮揚策と、これを国会でいかにス
ムーズに通すかの策略論議でしかなく、真の民主(民衆)主
義政治の進め方である「正しい状況認識、判断、操作」とい
う手順を間違えているように感じられる。とはいえ国民の大
多数は、これまでのままの日本では未来に希望が持てないの
で、何とか良い日本に変えねばならないと考えており、国際
的には異次元の経済政策で危険な賭けと評される、タイトロ
ープを渡るようなアベノミクスだが、既にその「三本の矢」
は放たれてしまったのだし、そう再々短期間で政権が交代す
ることは好ましくないので、危ぶみつつも、何とか安倍首相
に成功させてもらわねばならないといった、淡い期待と命運
を掛けざるを得ない切実な心境にある。
http://bit.ly/1jkspZK
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井堀 利宏/伊藤 元重東京大学教授