2014年03月20日

●「財政均衡主義は間違っていないか」(EJ第3754号)

 2013年8月18日のNHK「日曜討論」において、東京大
学教授の井堀利宏氏が主張する第1の論点を再現します。
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  ≪第1の論点≫
  消費税率の引き上げは、日本の景気状況とは切り離して少
  しでも早く実施すべきである。
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 驚くべき乱暴な発言です。税金の税率を上げるということ、と
くに消費税の税率を上げるということは、すべての国民の生活に
影響を与える重大事です。しかし、井堀氏は、国の財政のためな
ら、そんなことに関係なく消費税の税率を上げるべきだといって
いるのです。そういう観点から、井堀氏は消費増税法案の「景気
弾力条項」などは無意味なものと述べています。
 井堀氏のこの発言について、中丸友一郎氏は、次のように厳し
く批判しています。
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 これはまさに財政均衡優先主義にほかならない。経済を成長さ
 せ、豊かな日本経済を蘇生させる前に、財政収支均衡をまず最
 優先させるべきとの主張にすぎない。ケインズが主張したよう
 に、増税すべきときとは好況のときである。不況下で増税すれ
 ば景気が落ち込み、税収はかえって落ち込む。景気と切り離し
 て消費税率を引き上げるというのは無謀であり、危険極まりな
 い。                  ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政均衡主義とは何でしょうか。
 簡単にいうと、歳入と歳出を同じにして、なるべく新たな国債
を発行しないようにする財政運営のことです。これは国の財政を
家計にたとえるのと同じ手法です。
 いつの頃からか国として何かをしようとすると「財源はありま
すか」と聞くことが流行っています。この考え方は、国の財政を
家計と同一視する考え方からきています。国の財政も家計と同じ
ように入ってくるおカネ(歳入)の範囲内で何かを行うというこ
とが常識化されようとしています。
 しかし、これは大間違いなのです。国の財政と家計は似て非な
るものだからです。国の場合は、不況のときは財政出動しなけれ
ばならないし、減税もする必要があるからです。しかし、個人と
違って、国は永遠に続くと考えられているので、借金があっても
必ず返すことはできるからです。
 日本の財務省は「財政均衡主義」に立って財政運営をしている
のです。ですから、景気が回復してさらに伸びようとするときに
緊縮財政を行い、今まで何度も、うんざりするくらい成長の芽を
摘んできたのです。
 この財政均衡主義を憲法で決めている国があります。それはド
イツです。昨年の6月のことですが、ドイツの「ドイツ経済研究
所」が驚くべきレポートを発表したのです。1999年以降ドイ
ツでは、国内インフラの投資額が足りず、それが経済成長率を押
し下げているという発表です。
 ドイツのベルリンの一般道は、速度制限が時速10キロに下げ
られてしまっているのです。バイク以下の速度です。どうしてそ
うなったのかというと、ベルリンでは一般道の傷みがひどく、バ
ス路線を変更せざるを得ない状況に陥っています。
 ドイツの有名な高速道路アウトバーンでも、最も交通量の多い
A1号のライン橋付近では、速度が60キロに制限されてしまっ
ているのです。橋に亀裂が見つかっており、危険だからです。そ
れ以外にも橋梁の危険な場所は多くなっており、完全通行禁止に
なるのは時間の問題だそうです。
 ドイツ連邦政府及び州政府は、原則として歳入と歳出を均衡さ
せなければならないことになっています。ドイツは財政均衡主義
を憲法に書いているからです。リーマンショック後の09年には
ドイツは憲法を改訂し、債務ブレーキ条項を追加しています。
 日本はドイツほどではありませんが、財務省はことあるごとに
財政均衡主義を貫こうとするのです。
 続いて、井堀利宏氏が主張する第2の論点を再現します。
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 ≪第2の論点≫
 もし増税で日本の景気が落ち込むようなことになれば金融緩
 和や財政政策で対応できる。
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 これは現在日本政府がやろうとしている対応です。しかし、中
丸氏は、アベノミクスは失敗に終わるとみています。なぜなら、
8%の消費税引き上げだけで、9兆円の経済引き下げ圧力がかか
るのです。それを5兆円程度の1年限りの財政刺激政策でカバー
できるはずがないからです。
 さらに中丸氏は、金融政策では、紐を引っ張ること(金融引き
締め)は可能だが、紐を押すこと(金融緩和)は難しく、とくに
ゼロ金利下では困難であるといっています。それは英国の失敗を
見ればあきらかであると述べています。井堀氏の第2の論点に対
する中丸氏の反論は次の通りです。
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 消費税率引き上げによる景気後退が金融緩和で相殺できるとの
 期待は、ほぼ確実に裏切られるだろう。予想インフレ率が上昇
 して、実質金利が低下したり、実質為替が下落することは起こ
 りうる。しかし、だからといって金融緩和によって設備投資や
 輸出が増え、消費税増税による大幅な景気落ち込みを相殺でき
 るとするのは現実的ではない。金融緩和をしても銀行に超過準
 備が積み上がるだけで、企業や家計向けの貸し出しにつながら
 ない可能性が大である。   ──中丸友一郎著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/52]

≪画像および関連情報≫
 ●「財政均衡主義という魔物」/三橋貴明氏ブログ
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  ドイツの場合、災害時などには例外が認められるが、それに
  しても2016年以降のドイツ連邦政府は、対GDP比でわ
  ずか0.35%の国債発行しかできなくなる。結果的に、イ
  ンフラの老朽化に歯止めがかからなくなり、国民経済が衰退
  化しても構わないのだろうか。メンテナンスコストの削減で
  老朽化するインフラの問題に、日々、悩まされているはずの
  ドイツのグロシェック交通相までもが、基本法(憲法)で決
  めた以上は、その条件でやっていくのがドイツ人気質だ」と
  語っている。決められたルールが「経世済民」に優先する。
  奇妙としか言いようがない。さらに酷いことに、ドイツは財
  政均衡主義をEU諸国(イギリスとチェコを除く)に押し付
  けようとしている。EU諸国は新財政協定により、近い将来
  財政均衡主義を憲法に書かなければならないのだ。要するに
  財政均衡主義あるいは「小さな政府至上主義」という魔物に
  襲われているのは、別に日本に限らない、という話だ。現在
  の「(デフレ期の)財政均衡主義」に関する日本国民の悩み
  苦しみ、そして戦いは実は世界的な問題でもあるのである。
  もっとも日本の「財政均衡主義」も異常で、特に96年以降
  という中期で見ると、ドイツ以上に公共投資の削減を進めて
  きている。一般政府の固定資本形成の推移を見ると、対96
  年比では、ドイツですら「若干のプラス」であるにも関わら
  ず、日本は半減状態である。    http://bit.ly/1gE5PZ6
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井堀利宏東京大学教授.jpg
井堀 利宏東京大学教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは、いつも読ませていただいています。
ありがとうございます。

応援してます!


Posted by 匿名性病検査 at 2014年03月22日 21:21
個人はいつかは死ぬので、生きている間に借金を返したほうがいいよなぁ〜。
極々あたりまえな考えですよね。
でも、企業や国家は永遠なので、その尺度で測れない。
日本人は真面目なので、そこが理解できないのかも
Posted by さすけ at 2016年08月20日 18:48
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