室」での論文で、日本の国債金利は低いが、テールリスクに陥る
こともあるいっています。ところで、この「テールリスク」とは
何を意味しているのでしょうか。金融経済用語で調べると、次の
ように解説されています。
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テールリスクは、マーケットにおいて、確率は低いが発生する
と非常に巨大な損失をもたらすリスクのことをいう。確率分布
の端っこにあり、数10年〜数100年に一度起こるかどうか
のリスクのため、債務格付けなどでは考慮対象外とされる。
──金融経済用語集より/ http://bit.ly/1nrNcAE
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伊藤教授の論法では、日本にはGDPの2倍を超える巨額の公
的債務があり、本来ならば国債金利はもっと高くなるはずである
ということになります。なぜなら、日本よりもはるかに低い債務
比率で、欧州の多くの国は財政危機に陥っているからです。
しかし日本の国債金利は異常に低い──これは「ブラックスワ
ン・イベント」であるというのです。この教授は日本と債務危機
に陥った欧州各国との違いがわかっていないようです。菅政権の
とき、「日本もギリシャのようになる」といって騒ぎましたが、
この教授も同じ発想をしています。日本の長期金利が低いのは問
題があると伊藤教授は次のように述べています。
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日本の長期金利(長期国債利回り)が低いことは、日本の財政
への信認の強さのように解釈されることがあるが、かならずし
もそういってばかりいられない。株式のバブルが崩壊するとき
には、その直前まで本来有るべき水準より株価は高くなってい
る。為替レートも同じだ。今の国債市場がバブルであるかどう
かについてはいろいろな見方があるだろうが、国債金利暴騰と
いうテールリスクの存在を前提とすれば、国債金利があまりに
低くなることば歓迎すべきことではない。国債金利は低いが、
日本国債の債務不履行(デフォルト)リスクを反映するクレジ
ット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムが高いこと
は気になる。
──伊藤元重著/2014年9月4日の「経済教室」より
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伊藤教授は、「ブラックスワン」まで持ち出して、どうしても
日本で「金利暴騰」が起きることを強調したいようです。これを
避けるためには、消費税増税が必要であるというのです。
それにしても伊藤教授は、日本の公的債務は巨額であるといい
ますが、その裏側には、わが国の民間(企業と個人)が有してい
る債権を無視しています。日本では家計と企業の民間債権が公的
債務を上回っているのです。
もっと具体的にいうと、日本経済全体としては巨額の対外純債
権(債券、株式、外貨準備など)を有しているのです。東大教授
の伊藤元重氏がこの事実を知らないはずはないのです。2013
年9月4日の「経済教室」の論文は、国民向けに増税を予定通り
進めるのが正しい決断であることを啓蒙するのが目的であるもの
と思われます。
添付ファイルを見てください。これは2011年時点の世界各
国の対外純資産のグラフですが、日本の対外純資産は253.1
兆円であり、ダントツのトップです。日本は世界最大の債権国な
のです。これに対して米国は290兆円近い純債務があり、世界
一の借金国ということになります。
それに日本政府は国債というかたちで大きな借金を背負ってい
ますが、その大部分は日本の民間セクター(企業+個人=国民)
が持っているのです。ということは、日本国民は外貨資産を持つ
とともに、政府債務も持つ世界一の金持ち国民ということになり
ます。そんな国がほかにあるでしょうか。
その日本に対して、金利暴騰が起きると止められなくなるので
消費税増税が必要であるという珍妙な論説を広げる国立大学の高
名な教授がいる。その伊藤元重教授は典型的な御用学者でありな
がら、意外に強い非難は受けていないのです。しかし、彼の論説
を読むと、本当に経済学者なのかと思うことが多々あるのです。
元世界銀行エコノミストである中丸友一郎氏は、伊藤氏の「経
済教室」の論文に対して、「国債を政府債とみるのではなく、日
本経済全体の債務と同一視している」として、次のように述べて
います。
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国債を政府債とみるのではなく、日本経済全体の債務と同一視
している伊藤氏には、国債を増発させるような積極的な財政政
策の必要性など思いもよらないだろう。ここに日本で著名とさ
れている東大経済学部教授陣の決定的な誤りが存在している。
なにせ消費税引き上げの先送りさえ否定している始末だ。(中
略)結局、伊藤氏は、科学的根拠がなく、また客観的な基準を
示さず、金利暴騰リスクを煽り、財政への信認維持を説いてい
る。特に酷いのは、ブラック・スワン(黒鳥)という一種のメ
タファー(隠喩)を持ち出して、物事にはなんでもリスクがあ
り、その確率がゼロではない限り、いつかはその低い確率が顕
在化するなどと指摘して、「金利暴騰」リスクを正当化してい
ることだ。これでは、すべての経済事象をブラック・スワンと
称して、そのリスクの存在をこじつけられるだろう。
──中丸友一郎著
『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
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伊藤氏が政府に協力しようとして主張しているのか、本来のご
自身の経済の考え方なのかははっきりしないのですが、とちらに
せよ、その論説がおかしいのは確かなことです。もう一度「経済
教室」の伊藤論文を読み直していただきたいと思います。
──[消費税増税を考える/50]
≪画像および関連情報≫
●伊藤元重教授のコラムについて
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今日(2012年7月7日)の産経新聞の一面に例のどうし
ようもない教授のコラムが載っていた。読んでみると、この
先生、本当に大学の経済学の先生だろうかと疑問に思ってし
まう。海外の有名な経済学者の報告を勉強し、それを学生に
教えているだけで、実際の経済については、何もわかってい
ないのではないかと。まずは、読んでみてほしい。
http://bit.ly/1fZQhDV
日本の国債の金利が低いことに対して「イタリアやスペイン
の国債の多くは外国の金融機関が保有しているが、日本の国
債はその大半が国内の貯蓄資金によって支えられている。だ
から日本は大丈夫だという怪しい議論が横行している」と。
「怪しい議論」と言っておきながら、この後、みずからも怪
しい議論を展開している。「家計部門の貯蓄率が下がってい
るのには理由がある。高齢化が進んでいるからだ。人口に占
める高齢者の割合が増えるほど、家計全体でみた貯蓄率はさ
がってしまうのだ。」と書いているが、これは彼の分析結果
ではなく、誰かの論を持ってきたものだろう。高齢化が原因
というのはウソだ。デフレで景気が悪く可処分所得が減って
いるからだ。 http://bit.ly/1lFq8tr
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世界各国の対外純資産