会保障に使う」といっていますが、法律にはどこにもそんなこと
は書いていないのです。おカネには色はついていないので、実際
には何に使われるかわからないのです。
実は財務省は野田政権にそのようにいうようアドバイスしたの
です。なぜなら、国民は「社会保障に使う」といわれると、「そ
れなら仕方がないか」と思ってしまうからです。それに社会保障
は、8%ぐらいの税率ではカバーできないことは明らかなので、
後から税率を上げるとき好都合だからです。
もうひとつ国民は、今回の増税を財政再建のためには仕方がな
いと漠然と考えています。日本の財政は最悪で、ギリシャのよう
にいつ破綻しても不思議はないということを国民は刷り込まれて
います。それは、財務省のプロパガンダのせいであることは、こ
れまでEJではさんざん書いてきています。
しかし、日本の財政が破綻しないことを一番よく知っているの
も財務省なのです。何しろ、借金の額だけを強調して、資産のこ
とは一切口にしないからです。もし、本当に財政危機であるなら
財務省は率先して経済成長に結びつく政策を進めるはずです。財
務省が何よりも関心があるのは、自らの「歳出権の拡大」なので
す。これについて、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は近著で次のよう
に述べています。
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なぜ財務省は増税にこだわるのか。
それは、みずからの権力を強めるためである。財務省の権力と
は、財政支出を差配する力であり、これを「歳出権」と呼ぶ。
歳出権とは、国会が政府に「この目的のために、いくらいくら
のおカネを使っていいですよ」という権限を与えることだ。個
々の項目への支出許可をまとめた一覧表が、予算である。つま
り予算は歳出権のかたまりだ。歳出権こそが予算の本質であり
財務省の権力の源なのである。 ──高橋洋一著
『財務省の逆襲/誰のための消費税増税たったのか』
東洋経済新報社刊
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実は今回の消費税増税は、周到な計画の下に4つの政権をまた
いで実現されたのです。4つの政権とは、自民党の麻生政権、政
権交代後の鳩山政権、菅政権、野田政権です。そのすべてに財務
省が深くかかわっています。
具体的には、それぞれの政権下の財務相に対して財務省が工作
したのです。麻生政権の与謝野財務相、鳩山政権の藤井財務相と
菅財務相、菅政権の野田財務相、野田政権の安住財務相の5人で
す。いずれも完全に財務省に洗脳され、消費税増税の実現にひた
走ったのです。
とくに菅政権のときに財務事務次官に就任した勝栄二郎事務次
官は、野党時代の自民党総裁谷垣禎一氏にも接近して、この増税
実現に全力を尽くしたのです。谷垣氏は、かつて財務相の経験が
あり、勝氏とは旧知の間柄です。
「増税翼賛会」というものがあります。マスコミや経済学者を
はじめとする識者たちによる増税賛成の論陣を張る一派のことで
す。彼らはテレビなどの経済番組に頻繁に出演し、経済誌に論文
を書いたりして、増税の正しいことを主張しています。
典型的な例があります。日本経済新聞社の記事です。日本経済
新聞社は経済紙としては一流であり、ビジネス関係者にとっては
必須の新聞です。このことは否定できませんが、その主張はきわ
めて時の政権寄りなのです。
2013年8月26日付の日本経済新聞の第1面に次の見出し
の記事が出たのです。
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内閣支持率上昇、68%/消費増税7割超が容認
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問題は「消費増税7割超が容認」の根拠です。それは次の世論
調査です。
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◎消費税率をいまの5%から2014年4月に8%、15年
10月に10%へ引き上げることについて・・・
●「予定通り引き上げるべきだ」・・・・・・・ 17%
●「引き上げるべきだが、時期や引き上げ幅は柔軟に考え
るべきだ」 ・・・・・・・・・・・・・・・ 55%
●「引き上げるべきではない」 ・・・・・・・ 24%
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「7割」という数字は、「予定通り引き上げるべきだ」と「引
き上げるべきだが、時期や引き上げ幅は柔軟に考えるべきだ」の
数字を足した72%に基づいています。しかし、条件付き賛成ま
でも「増税容認」としてしまうのはあまりにも乱暴です。見出し
しか見ない読者もたくさんいるからです。
2014年3月3日付の日本経済新聞夕刊にも問題のある見出
しがあるのです。読売、毎日、朝日の夕刊も同様です。
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◎設備投資4%増/10〜12月製造業もプラスに
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アベノミクスが成功するかどうかは企業の設備投資と個人消費
が伸びるかどうかです。この記事は設備投資が「4%」も伸びた
ことを伝えています。したがって、見出しだけ見ると、アベノミ
クスは効いていると考えます。
しかし、この数字にはカラクリがあります。この数字は「前年
比」なのです。設備投資は前年同時期と比べると伸びていますが
この半年間で見ると、減少しているのです。「前期比」で見ると
2四半期連続で減少しているのです。それに「前年」の2012
年後半は復興需要やエコカー減税が切れて、設備投資は大幅に下
がっていたのです。前期比を使わず、数字の低い前年比を使って
数字をカサ上げしたのです。 ──[消費税増税を考える/47]
≪画像および関連情報≫
●政府に迎合する記事を書く有力新聞
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財務省が2014年3月3日発表した2013年10〜12
月期の法人企業統計によると、金融機関を除く全産業の設備
投資は、9兆4393億円と前年同期に比べて4.0 %増え
た。増加は3四半期連続。自動車をはじめとする製造業の投
資が5四半期ぶりに増加に転じた。円安による輸出採算の好
転や底堅い消費を追い風に企業の収益も改善が続いている。
製造業の設備投資は前年同期比0.7 %増えた。増加への貢
献が最も大きかった業種は自動車などの輸送用機械業で、同
17.3 %増だった。国内や北米での自動車販売が好調だっ
たため、「新型車の生産や新技術の開発に向けた投資が増え
た」(財務省)という。建材の売れ行きがよかった金属製品
業の投資も同19.8 %増えた。非製造業は同5.7 %増。
円安を背景に外国人観光客が増えたことを映し、ホテルの改
修などが多かったようだ。一方で卸売・小売業は同6.4 %
減。13年に入ってからは今年4月の消費増税に備えた投資
の動きが目立っていたが、足元では一服感が出ている。
季節要因をならした設備投資(ソフトウエアを除く)は前期
比0.3 %減と、2四半期続けて前期を下回った。輸出の伸
び悩みなどから、国内での大型投資にはなお慎重な企業も多
いとみられる。 http://s.nikkei.com/1i6Urcl
【註】最後の4行に「前期比」の数値が紹介されている。経
済紙としての良心からであろうか。なお、読売、朝日、毎日
にはこの部分はない。
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企業の業績・設備投資/日本経済新聞