押し圧力が必ず発生します。その規模は、どのくらいになるので
しょうか。
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消費税8%で経済の下押し圧力は9兆円に上がる
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この経済下押し圧力の9兆円については、増税賛成論者も認め
ています。経済がダウンすることは認めているのです。しかし、
政府の説明では、そのために5兆円規模の経済対策を実施するの
で大丈夫であるといっています。本当でしょうか。
新聞やテレビの報道も基本的には政府の方針に異を唱えていな
いのです。このマスコミ報道の政府寄り姿勢は、日本に深刻な事
態をもたらします。官僚は国益よりも省益を目指し、マスコミは
社会の木鐸であることを放棄し、自社利益を追及する──これら
は国が滅びる原因になります。
さて、9兆円の経済下押し圧力に対して5兆円の経済対策を実
施すれば、景気の落ち込みは4兆円に緩和される──これが政府
の論法ですが、経済が落ち込むことに変わりはないのです。
しかも、増税は4月1日から実施されますが、経済対策の効果
が効いてくるにはある程度時間がかかります。タイムラグがある
のです。被災地の復興も自治体のマンパワーが不足して復興予算
を使い切れず、基金化する有様です。
それにもっと大切なことがあります。それは、経済対策はすべ
て一時的──1年限りであるのに対し、消費税率引き上げは今後
恒久的に続くのです。つまり、9兆円の景気の押し下げ圧力は法
律が改正されない限り、恒久的に続くのです。つまり、2015
年以降は、消費税引き上げの負のインパクトだけが持続すること
になります。
それだけではありません。2015年10月には、8%の税率
が10%にさらに引き上げられるのです。この経済押し下げ圧力
は次の式により、6兆円になります。
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500兆円 × 60% × 2% = 6兆円
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しかし、2015年度にはおそらく経済が混乱し、税率10%
上げを実施するには、新たな経済対策が不可欠になるはずです。
そうでなければ、日本経済は大不況に突入する恐れがあるからで
す。そんなことになれば、何のための増税かわからなくなってし
まいます。そういう事態になれば、安倍首相は10%の税率上げ
は見送らざるを得なくなるものと思われます。
金融アナリストの植草一秀氏によると、2013年度の景気回
復を支えた13兆円の補正予算の効果が2014年度には剥落す
るうえ、増税による9兆円の負担が加わるので、2014年度は
約22兆円の超緊縮予算になってしまうとして、自著で次のよう
に述べています。
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日本経済はバブル崩壊始動後、4度目の上昇局面に差しかかっ
たのであるが、この景気回復初期に、安倍首相は10月1日、
消費税の税率を2014年4月に8%に引き上げる方針を発表
した。なんと言っても見落とせないことは、2014年度の緊
縮財政の規模が、増税等による9兆円の負担増にとどまらない
ことである。2013年度に流れ込んだ13兆円の補正予算効
果が剥落するため、2014年度の緊縮財政規模は22兆円に
達する。日本のGDPのほぼ4%にあたる史上空前の財政デフ
レ政策が予定されている。このまま2014年度に突入するの
であれば、これは「第三次政策逆噴射」が実行されることにほ
かならない。 ──植草一秀著
『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
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消費税増税によって景気が後退すると、所得税と法人税が落ち
込み、消費税率を引き上げて消費税収入が増えても、全体では税
収はかえって落ち込む可能性が高くなります。そのうえ歳出が5
兆円膨らむのですから、財政収支はさらに悪化します。どちらに
転んでもよいことはないのです。
デフレギャップが約43兆円もあるデフレ下の日本で、大増税
をすれば、その結果は火を見るよりも明らかです。あの「失われ
た20年」の原因になった1997年の消費税増税の痛い教訓か
ら何も学んでいないのです。
安倍首相は、増税決断の根拠を聞かれて、1997年当時より
も現在は企業業績が良いことと金融システムが安定しているから
だと答弁していますが、これは事実を見誤っているといわざるを
得ないのです。どうやら1997年の経済の落ち込みは増税のせ
いではなく、アジア通貨危機が原因と考えているらしいのですが
これは大間違いです。これについて、元世界銀行エコノミストの
中丸友一郎氏は次のように述べています。
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デフレギャップがまだ極めて大きい中で、財政再建を優先して
経済成長にブレーキをかけることは、実に愚かで危険な賭けと
いわざるをえない。雇用と経済成長を優先して、今後3年間程
度、財政刺激のアクセルを踏み続けるべきだったのだ。小出し
で一時的な景気対策を前提にアクセルを軽く踏みながら、思い
切ってブレーキを踏み込むというちぐはぐな経済政策の矛盾。
(中略)だが、(1997年に比べて)株価も地価も現在の方
がはるかに低水準にある。現在の経済規模(名目GDP)も約
43兆円も低下したままだ。失業率もはるかに悪い。好調なの
は国債価格と、そのコインの裏側としての国債利回りの歴史的
な低水準だけといっても過言ではない。 ──中丸友一郎著
『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
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──[消費税増税を考える/46]
≪画像および関連情報≫
●なぜ97年の歴史的大失敗の反省をしないのか
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内閣府と財務省は1997年の消費増税を行った後の深刻な
不況は増税が主因でなく、アジア通貨危機や金融危機が主因
だと分析した資料を2013年8月22日の公明党の会議で
配ったそうだ。1997年、橋本内閣の緊縮財政・消費税増
税とアジア通貨危機が重なり、日本はデフレに突入した。万
一、消費増税が来年4月から強行されたとしたら、97年の
失敗を繰り返すのは間違いない。あの失敗の反省は無いのだ
ろうか。97年の景気落ち込みの主因はアジア通貨危機であ
り消費税は関係ない、もしくはほとんど関係ないという説は
明らかな矛盾がある。デフレは16年後の今日まで続いてい
るがアジア通貨危機も金融危機もとっくに終わっているから
だ。実際あの通貨危機で、経済が大きく落ち込んだアジアの
国々は確かに存在する。タイ、韓国、インドネシア、フィリ
ピン、香港、マレーシア等である。しかし、それらすべての
国が1999年〜2001年までにすべて景気回復に成功し
ており、日本以外デフレに陥った国はない。それから考えて
も、97年の日本の景気悪化の主因がアジア通貨危機だとい
う主張には無理がある。 http://bit.ly/1dHHG6F
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中丸 友一郎氏