2014年03月12日

●「5兆円規模経済対策では足りない」(EJ第3748号)

 4月からの消費税引き上げ(5%→8%)によって、経済の下
押し圧力が必ず発生します。その規模は、どのくらいになるので
しょうか。
―――――――――――――――――――――――――――――
    消費税8%で経済の下押し圧力は9兆円に上がる
―――――――――――――――――――――――――――――
 この経済下押し圧力の9兆円については、増税賛成論者も認め
ています。経済がダウンすることは認めているのです。しかし、
政府の説明では、そのために5兆円規模の経済対策を実施するの
で大丈夫であるといっています。本当でしょうか。
 新聞やテレビの報道も基本的には政府の方針に異を唱えていな
いのです。このマスコミ報道の政府寄り姿勢は、日本に深刻な事
態をもたらします。官僚は国益よりも省益を目指し、マスコミは
社会の木鐸であることを放棄し、自社利益を追及する──これら
は国が滅びる原因になります。
 さて、9兆円の経済下押し圧力に対して5兆円の経済対策を実
施すれば、景気の落ち込みは4兆円に緩和される──これが政府
の論法ですが、経済が落ち込むことに変わりはないのです。
 しかも、増税は4月1日から実施されますが、経済対策の効果
が効いてくるにはある程度時間がかかります。タイムラグがある
のです。被災地の復興も自治体のマンパワーが不足して復興予算
を使い切れず、基金化する有様です。
 それにもっと大切なことがあります。それは、経済対策はすべ
て一時的──1年限りであるのに対し、消費税率引き上げは今後
恒久的に続くのです。つまり、9兆円の景気の押し下げ圧力は法
律が改正されない限り、恒久的に続くのです。つまり、2015
年以降は、消費税引き上げの負のインパクトだけが持続すること
になります。
 それだけではありません。2015年10月には、8%の税率
が10%にさらに引き上げられるのです。この経済押し下げ圧力
は次の式により、6兆円になります。
―――――――――――――――――――――――――――――
   500兆円 × 60% × 2% = 6兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、2015年度にはおそらく経済が混乱し、税率10%
上げを実施するには、新たな経済対策が不可欠になるはずです。
そうでなければ、日本経済は大不況に突入する恐れがあるからで
す。そんなことになれば、何のための増税かわからなくなってし
まいます。そういう事態になれば、安倍首相は10%の税率上げ
は見送らざるを得なくなるものと思われます。
 金融アナリストの植草一秀氏によると、2013年度の景気回
復を支えた13兆円の補正予算の効果が2014年度には剥落す
るうえ、増税による9兆円の負担が加わるので、2014年度は
約22兆円の超緊縮予算になってしまうとして、自著で次のよう
に述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本経済はバブル崩壊始動後、4度目の上昇局面に差しかかっ
 たのであるが、この景気回復初期に、安倍首相は10月1日、
 消費税の税率を2014年4月に8%に引き上げる方針を発表
 した。なんと言っても見落とせないことは、2014年度の緊
 縮財政の規模が、増税等による9兆円の負担増にとどまらない
 ことである。2013年度に流れ込んだ13兆円の補正予算効
 果が剥落するため、2014年度の緊縮財政規模は22兆円に
 達する。日本のGDPのほぼ4%にあたる史上空前の財政デフ
 レ政策が予定されている。このまま2014年度に突入するの
 であれば、これは「第三次政策逆噴射」が実行されることにほ
 かならない。               ──植草一秀著
     『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費税増税によって景気が後退すると、所得税と法人税が落ち
込み、消費税率を引き上げて消費税収入が増えても、全体では税
収はかえって落ち込む可能性が高くなります。そのうえ歳出が5
兆円膨らむのですから、財政収支はさらに悪化します。どちらに
転んでもよいことはないのです。
 デフレギャップが約43兆円もあるデフレ下の日本で、大増税
をすれば、その結果は火を見るよりも明らかです。あの「失われ
た20年」の原因になった1997年の消費税増税の痛い教訓か
ら何も学んでいないのです。
 安倍首相は、増税決断の根拠を聞かれて、1997年当時より
も現在は企業業績が良いことと金融システムが安定しているから
だと答弁していますが、これは事実を見誤っているといわざるを
得ないのです。どうやら1997年の経済の落ち込みは増税のせ
いではなく、アジア通貨危機が原因と考えているらしいのですが
これは大間違いです。これについて、元世界銀行エコノミストの
中丸友一郎氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 デフレギャップがまだ極めて大きい中で、財政再建を優先して
 経済成長にブレーキをかけることは、実に愚かで危険な賭けと
 いわざるをえない。雇用と経済成長を優先して、今後3年間程
 度、財政刺激のアクセルを踏み続けるべきだったのだ。小出し
 で一時的な景気対策を前提にアクセルを軽く踏みながら、思い
 切ってブレーキを踏み込むというちぐはぐな経済政策の矛盾。
 (中略)だが、(1997年に比べて)株価も地価も現在の方
 がはるかに低水準にある。現在の経済規模(名目GDP)も約
 43兆円も低下したままだ。失業率もはるかに悪い。好調なの
 は国債価格と、そのコインの裏側としての国債利回りの歴史的
 な低水準だけといっても過言ではない。  ──中丸友一郎著
          『円安恐慌がやってくる!』/徳間書店刊
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/46]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ97年の歴史的大失敗の反省をしないのか
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内閣府と財務省は1997年の消費増税を行った後の深刻な
  不況は増税が主因でなく、アジア通貨危機や金融危機が主因
  だと分析した資料を2013年8月22日の公明党の会議で
  配ったそうだ。1997年、橋本内閣の緊縮財政・消費税増
  税とアジア通貨危機が重なり、日本はデフレに突入した。万
  一、消費増税が来年4月から強行されたとしたら、97年の
  失敗を繰り返すのは間違いない。あの失敗の反省は無いのだ
  ろうか。97年の景気落ち込みの主因はアジア通貨危機であ
  り消費税は関係ない、もしくはほとんど関係ないという説は
  明らかな矛盾がある。デフレは16年後の今日まで続いてい
  るがアジア通貨危機も金融危機もとっくに終わっているから
  だ。実際あの通貨危機で、経済が大きく落ち込んだアジアの
  国々は確かに存在する。タイ、韓国、インドネシア、フィリ
  ピン、香港、マレーシア等である。しかし、それらすべての
  国が1999年〜2001年までにすべて景気回復に成功し
  ており、日本以外デフレに陥った国はない。それから考えて
  も、97年の日本の景気悪化の主因がアジア通貨危機だとい
  う主張には無理がある。      http://bit.ly/1dHHG6F
  ―――――――――――――――――――――――――――

中丸友一郎氏.jpg
中丸 友一郎氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がない ブログに表示されております。