税は5%を8%に引き上げる大増税であり、しかも、2015年
10月からは税率をさらに10%に引き上げることが予定されて
いるのです。
経済再生と消費税大増税は明らかに矛盾します。アベノミクス
はせっかく好調に走り出したのに、2014年4月から税率を8
%にすれば、それに急ブレーキをかけるに等しいからです。アク
セルとブレーキを同時に踏み込んで、アベノミクスならぬアベコ
ベミクスに転落する確率がきわめて高くなっています。
安倍首相が増税の決断をしたのは、短期的な経済成長の好調さ
と東京オリンピックの招致決定などに加えて、「こんな良い条件
が揃っているときに増税できなければ、日本は政府債務がGDP
の2倍以上ある国なのに、増税の決断ができない国であると海外
から思われるという首相の周りを取り巻く識者からの意見があっ
たからであると思われます。
ここで「こんな良い条件」とは、足元の経済の好調さと、直前
の参院選挙でも勝利して衆参のねじれが解消できたことを指して
います。しかし、そうであるからこそ、安倍首相は消費税増税を
思いとどまるべきであったと思うのです。なぜなら、安倍政権の
支持率の高さは、経済の好調さ──「円安/株高」が支えている
からです。
なぜ、やるべきでなかったかについて、考えてみることにしま
す。前回の消費税増税が行われた橋本内閣の1997年1〜3月
期は、名目GDPの水準は約522兆円(年換算)もあったので
す。これは、日本の潜在的名目GDP水準で、ほぼピーク時の名
目GDPであり、2013年4〜6月期の約479兆円よりも、
43兆円も高いのです。この43兆円分のGDPギャップがデフ
レギャップにほぼ相当するのです。この約43兆円の溝は、過去
のピーク時のGDP水準の8.2 %に相当します。デフレギャッ
プがそれだけあるということです。
アベノミクスが開始される直前の2012年10〜12月期の
名目GDP水準は約473兆円。それ以降、3四半期連続で経済
成長したが、2013年4〜6月期までGDPはたかだか約6兆
円増加しただけなのです。成長率で見ると、3四半期の間でたっ
た1.3 %しか成長していないのです。
このように1997年は日本経済は好調だったのです。しかし
3%の消費税の税率を2%上げただけなのに、経済は急落して日
本は長期不況に突入し、2014年の現在もいまだにデフレから
脱却できないでいるのです。
その1997年当時よりもはるかに厳しい現在の経済状況にお
いて、前回よりも1%多い3%もの税率を引き上げることの危険
がどれほどのものか、安倍首相自身が早晩身をもって知ることに
なると思います。
この約43兆円のデフレギャップを埋めるには、少なくとも経
済成長を3〜4年は継続する必要があります。これをクリアする
ことによって、やっと1997年当時のGDP水準に戻ることが
できるのです。これがデフレからの脱却であり、安倍政権の公約
であるはずですが、なぜ、この時期に経済成長に大ブレーキをか
ける大増税を決断したのか、理解に苦しみます。デフレ不況下の
消費税大増税は「狂気の沙汰」であるからです。
浜田宏一氏は、消費税を2倍にすると、社会的損失は4倍にな
るとして次のように警告しています。
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価格メカニズムはたとえばハンバーガーを生産して販売するの
にどれだけかかり、それに消費者がいくら払うかを媒介として
資源の配分を能率的にしようとするものである。ところが消費
者の払った10パーセントが政府の懐に入るとなると、消費者
のシグナルが生産者につながらなくなる。同様に、生産者のコ
ストも10パーセント増しでしか消費者に伝わらなくなる。こ
のように、税、たとえば消費税は、需要のシグナルと供給のシ
グナルとの間に楔を設けるのである。消費税の税率が2倍にな
ると、社会的な損失は2倍でなく、その2乗、つまり4倍とな
るのだ。 ──浜田宏一著/講談社刊
『アメリカは日本経済の復活を知っている』
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そもそもこの時期に消費税の増税をせざるを得ない状況になっ
たのは、次の5人の財務省の傀儡政治家のせいです。いずれも財
務大臣を経験しており、財務省に完全に洗脳されています。今回
の増税は官僚組織に軍資金を与えるだけに終わります。
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1.谷垣 禎一(自民党)
2.与謝野 馨(自民党/民主党)
3.藤井 裕久(民主党)
4.菅 直人(民主党)
5.野田 佳彦(民主党)
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日本では明治維新以来一貫して官僚主導政治が続いています。
かつては、この政治体制が機能して奇跡ともいうべき戦後復興を
成し遂げた功績もあるのですが、最近ではきわめて劣化し、官僚
組織は国益よりも省益を優先するようになっており、日本のさら
なる成長の足を引っ張っています。
民主党は、そういう官僚政治を打破して国民の手に政治を取り
戻そうとして、小沢一郎氏のリーダーシップによって政権交代を
成し遂げたものの、上記5人のなかの藤井裕久元財務相、菅直人
・野田佳彦元首相らの大勢の裏切りによって実現が阻まれ、逆に
官僚の手先になって、公約違反の消費税増税を敵である自民党と
組んでまで強行したのです。それによって、政権交代の恩人であ
る小沢一郎元代表を官僚と手を組んで謀略で離党させ、再起困難
な情勢に追い込んでいます。許すことのできない5人の戦犯政治
家です。 ──[消費税増税を考える/45]
≪画像および関連情報≫
●「社会保障の充実なき増税」/2013年9月13日
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安倍総理は2013年10月1日に会見を開き、消費税を現
行の5%から8%に引き上げることを、正式に発表した。総
理は会見で、「最後の最後まで考え抜き、熟慮した」「ほか
に道はない」と強調したが、果たして本当に、「熟慮」した
結果の決断なのか、「ほかに道はない」のかどうかは、甚だ
疑問である。一方で総理は、復興法人税の前倒しでの撤廃と
法人税の引下げについては、「検討」していくという。庶民
を増税で圧迫し、財界は法人税引下げで潤わせる。総理が掲
げる「経済の再生」と、真っ向から矛盾する結果を生むので
はないだろうか。9月17日に植草一秀氏(政治経済学者)
斎藤貴男氏(ジャーナリスト)、醍醐聰(東大名誉教授)、
鶴田廣己氏(関西大学教授)の4人の財政の専門家が政府の
拙速な増税への動きに対し、異議を申し立てる緊急アピール
を発表。昼過ぎから参議院議員会館で記者会見を行った。専
門家らは、そもそも「消費税」自体が、一部の大企業だけの
利益につながる愚策であると指摘する。この日取材に訪れた
報道関係者は、東京新聞、読売新聞など約10名のみ。また
明けて9月18日現在、この緊急アピールに関する報道は一
切行われていない。会見のすべてを報じたのは、IWJだけ
である。NHKや民放テレビはもとより、大手新聞が一斉に
「黙殺」した格好となり、この消費税増税の問題の根深さが
改めて浮き彫りとなっている。 http://bit.ly/1dBJHkD
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浜田 宏一イェール大学名誉教授