2014年03月07日

●「量的金融緩和は確実に効いている」(EJ第3745号)

 昨日のEJで、「流動性の罠」に陥ると、マネタリーベースを
いくら増やしてもマネーサプライ(マネーストック)は反応しな
いことを示すグラフについて説明しました。
 ところが、これに対する反論があるのです。あのグラフは一種
のレトリックであるというのです。グラフは、マネタリーベース
とマネーサプライ(マネーストック)を比較しているのですが、
規模が違うものを同じスケールで比較しているというのです。
 マネタリーベースとは、日銀が量的金融緩和策などで金融機関
の日銀当座預金に積み上げる「超過準備」の総額のことであり、
マネーサプライ(マネーストック)は、民間の銀行預金の現在高
と市中に流通する現金の総額です。当然ですが、マネタリーベー
スよりもマネーサプライ(マネーストック)の方が総量としては
圧倒的に多いのです。実際の数字で示すと、2013年12月時
点では次のようになっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネタリーベース         ・・・  193兆円
 マネーサプライ(マネーストック)・・・・ 1174兆円
―――――――――――――――――――――――――――――
 これで見ると、マネーサプライ(マネーストック)は、マネタ
リーベースの約6倍の規模であることがわかります。したがって
この2つの指標を同じスケールでグラフにすると、どうしてもマ
ネーサプライ(マネーストック)の方の動きがよく見えないのは
当然のことです。
 添付ファイルを見てください。2つのグラフのうち、【グラフ
1】は昨日のEJに添付したスケールを調整していないグラフで
あり、スケールを調整したものが【グラフ2】です。これを見る
と、マネタリーベースとマネーサプライ(マネーストック)は相
関していることがわかります。
 実はこの指摘をしたのは『アベノミクスを阻む「7人の敵」』
(イーストプレス刊)の著者の上念司氏であり、グラフの製作者
は三菱UFJモルガン・スタンレー証券・景気循環研究所長の嶋
中雄二氏です。
 嶋中氏はこのグラフについて次のようにコメントしています。
ちなみに、このレポートは、2012年7月11日付けであり、
民主党野田政権のときのものです。福井・白川日銀総裁時代の金
融緩和もちゃんと効いているというのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いずれにしても、日銀が日銀当座預金と日銀券を供給して、貸
 し出しに全く影響しないことなどあり得ない。そのことは【グ
 ラフ1】を見れば明瞭にわかる。なるほど、マネタリーベース
 でマネーストック(M3)を割った信用乗数の値が低下してい
 るが、伸び率に直して見るとマネタリーベースの前年比を10
 %増やせば、マネーストックの前年比が1%伸びるという安定
 的な関係が1990年以降、今日まで一貫して続いている。
           ──「嶋中雄二の景気サイクル最前線」
                   http://bit.ly/1kpnoTC
―――――――――――――――――――――――――――――
 嶋中雄二氏によると、量的金融緩和がどのように波及していく
かについては、まず為替に影響を与え、続いて株価に作用が出て
しかる後にインフレ期待の高まりに比例して長期金利が上がり、
住宅需要や実需の資金需要が出てくるといっています。
 このように中央銀行が量的金融緩和をすれば、そのやった分だ
けは、確実に経済に影響を及ぼし、効いてくるということが嶋中
氏のレポートでわかります。日銀当座預金に無駄に「ブタ積み」
されるわけではないのです。
 ところで、金利はゼロでも銀行の民間(企業+個人)への貸し
出しは一向に増えず、民間は借りようとしないので、日銀がいく
ら超過準備を積み上げても無駄であるという指摘について、浜田
宏一氏はそれは二重の意味で間違っているといっています。
 第1は、デフレ下では、たとえ金利はゼロであっても実質の利
子率はゼロではなく、民間としては借り入れの決断がしにくいと
いうことです。
 デフレの世の中では、金利はゼロでも物に対して貨幣の価値が
上がっているので、借り手は物価下落分まで含めて多くを返さな
ければならなくなっており、借り手としてはなかなか借りられな
いのです。この借り手の負担のことを「実質利子率」といい、そ
の値はゼロではないのです。
 第2は、おカネはジャブジャブあるのに借り手がいないわけで
はなく、金利がゼロなら借りたいが、借りたくても手が出ない事
情があるのです。
 銀行としてはおカネを貸す以上、確実に返してもらう必要があ
るので、担保を取ることになります。しかし、デフレ下では資産
価値が下落し、担保価値が下がってしまうので、担保を提供でき
ず、借りたくても借り入れができないのです。
 政策当局としては、もし貸出金が増えないなら、その実態を把
握し、貸し出しが増える政策をとる必要があります。そのさい、
超過準備は増やさなければならないのです。これについて、バー
ナンキ前FRB議長も次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 貨幣が経済にうまく効くためには、貸し出しがうまく行われ、
 スムーズな借り入れができるようにならなければならないが、
 貨幣量を増やすことも必要だ。  ──浜田宏一著/講談社刊
         『アメリカは日本経済の復活を知っている』
―――――――――――――――――――――――――――――
 浜田氏は、国民生活に多くの苦しみをもたらしているのは、デ
フレと円高であるといっています。デフレは円という通貨の財に
対する相対価値であり、円高は外国通貨に対するそれである──
すなわち、貨幣的な問題なのであり、いずれも適切な金融政策で
解決できるものであり、それを実行するのは日銀の務めであると
いっています。       ──[消費税増税を考える/43]

≪画像および関連情報≫
 ●クルーグマン教授の経済入門/壺斎閑話
  ―――――――――――――――――――――――――――
  筆者が手にしている日経ビジネス文庫版の「クルーグマン教
  授の経済入門」にはおまけがついている。「日本がはまった
  罠」と題する小論だ。この小論の中でクルーグマンは、90
  年以降に日本が陥った深刻で長引く不況について、その本質
  や原因、そしてそこから脱出するには何が必要かについて論
  じている。何しろクルーグマンがこの小論を書いた90年代
  末の時点で、日本はすでに10年近い不況にあえいでいて、
  それ自体が経済学の常識を超えた異常な事態だったのに、そ
  の後も日本の不況は延々と続き、2012年になった現在で
  も、デフレ不況は収まる様子が見えない。なぜそんなことに
  なるのか。日本は流動性の罠にはまっている、というのがク
  ルーグマンの診断だ。それは簡単にいえば、「短期の名目金
  利がほぼゼロなのに、総需要が常に生産能力を下回っている
  ことだ」という。         http://bit.ly/1hWNHvR
  ―――――――――――――――――――――――――――

マネタリーベースとマネーストックの関係.jpg
マネタリーベースとマネーストックの関係
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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