りさせておきましょう。
預金を受け入れている金融機関は日銀に当座預金をつくり、そ
こに預金の一定割合を積み立てることが義務付けられています。
これを「必要準備」といい、それを上回る部分を「超過準備」を
いうのです。日銀が量的金融緩和を行うときは、この超過準備を
劇的に増加させることになります。
岩田日銀副総裁は、量的金融緩和によって超過準備を積み上げ
ることがインフレ率を高め、実質金利を低下させて投資しやすい
環境を作り、結果としてマネーサプライ(マネーストック)を増
やすと主張しているのですが、それを裏付ける事実として、20
13年5月22日のバーナンキFRB議長の次の議会証言を上げ
ています。
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買い入れ資産の増加ペースを若干抑制する
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この発言によって、米国の量的金融緩和QE3において、FR
Bによる資産買い入れが近いうちに縮小されるという憶測がマー
ケット全般に広がったのです。バーナンキFRB議長のこの発言
後、米国では予想インフレ率の低下とともに、名目金利も一挙に
2%を超え、予想実質金利が急上昇するという事態に発展してし
まったのです。
岩田副総裁は、この事実を指摘し、量的金融緩和で中央銀行の
当座預金に積み上がる超過準備は市場関係者に大きな影響を与え
ており、けっして「ブタ積み」されているわけではなく、インフ
レ率に大きな影響を与えていると主張しているのです。
岩田副総裁のようなマクロ経済学の理論を主張する一派を「リ
フレ派」といいます。「リフレ」とは「リフレーション」の略語
で、「再膨張」を意味しています。
リフレが目指すのは、経済学的には景気循環においてデフレー
ションから脱却して、マネーサプライが再膨張し、加速度的なイ
ンフレーションになる前段階にある比較的安定した景気拡大期な
のです。
リフレ派の主張は、政府・中央銀行が数パーセント程度の緩慢
な物価上昇率をインフレターゲットとして意図的に定めるととも
に、長期国債を発行して一定期間これを中央銀行が無制限に買い
上げることで、通貨供給量を増加させて不況から抜け出すことが
可能だとするものであり、安倍政権がアベノミクスとして目指し
ているものはまさにコレなのです。
このリフレに関しては、多くの反対意見があります。その反対
意見を述べる経済評論家の一人に池田信夫氏がいます。池田氏は
自身のブログ「アゴラ」において、2012年11月18日付で
『安倍晋三氏のためのインフレ入門』と題する記事を書いていま
す。安倍政権が誕生する以前のことです。
この時点では安倍氏が推進しようとしている経済政策はほぼ明
らかになっていましたが、そういう考え方はすべて間違いである
として、添付ファイルのグラフを使って、次のように解説してい
ます。このグラフは、緑がマネタリーベース、赤がマネーサプラ
イ(マネーストック)をあらわしています。
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一般論としては、マネタリーベースを増やせばマネーストック
も増えることが多い。グラフでも、金利が高かった1980年
代後半から90年代前半にかけてはマネタリーベースの動きと
マネーストックの動きはかなりパラレルになっている。しかし
デフレでゼロ金利になった2000年代には両者の動きには、
まったく相関がない。これは流動性の罠に入ったためだ。・・
と言ってもわからないと思うので、たとえ話で考えよう。日銀
の供給する資金をバナナと考えると、金利はその値段だ。値段
がついているうちはバナナの量を増やせば売れ行きも増えるが
バナナが増えすぎて値段がゼロになったら、それ以上増やして
もバナナは売れず、店に「ブタ積み」になるだけだ。
──池田信夫ブログ「アゴラ」
『安倍晋三氏のためのインフレ入門』 http://bit.ly/1mOyxPP
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解説のなかに出てくる「流動性の罠」とは何でしょうか。
経済が「流動性の罠に陥った状態」というのは、名目金利がこ
れ以上下がらない下限に到達した状態のことです。つまり、ゼロ
金利の状態がそれに該当します。
この状態においては、マネーサプライ(マネーストック)の増
加は、定義上これ以上の金利の低下をもたらすことができなくな
り、単に貨幣需要の増加に吸収されてしまうだけであるため、金
融政策の有効性が完全に失われてしまう状態です。
確かに、グラフでは、池田氏のいう通り、ゼロ金利になってい
ないときは、緑と赤は相関し、ゼロ金利になってからは緑は上下
しているものの、赤はほとんど変化がなくなっています。いくら
中央銀行が量的緩和をやっても投資意欲を刺激することはできな
い状態です。これが流動性の罠です。
問題は流動性の罠からどのようにして脱出するかです。ノーベ
ル賞受賞経済学者、クルーグマンプリンストン大学教授は次のよ
うに述べています。
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中央銀行が非伝統的な経済政策、すなわちインフレ期待を高め
実質金利をマイナスにすれば「流動性の罠」から脱却できる。
インフレ目標やマイナス金利の導入に現実味がないというなら
期待インフレ率を高めるため、減税などの財政政策と、ゼロ金
利などの金融緩和を組み合わせた政策を打ち出すのが有効だ。
──ポール・クルーグマン著
「そして日本経済が世界の希望になる」/PHP新書
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──[消費税増税を考える/42]
≪画像および関連情報≫
●安倍総裁の提唱する自民党の「焼け跡」政策/池田信夫氏
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衆議院が解散された。前回2009年の総選挙は、「政権交
代」がテーマだったが、今回の総選挙は経済政策になりそう
だ。野田首相はTPP(環太平洋パートナーシップ)参加と
「脱原発依存」を掲げる一方、自民党の安倍総裁は日銀法改
正とインフレ目標を掲げた。特に市場に大きなインパクトを
与えたのは、安倍総裁の「2〜3%のインフレ目標を設けて
日銀に無制限に緩和してもらう」という発言だ。これを受け
て円相場は半年ぶりに1ドル=81円台になり、日経平均株
価は9000円台に乗せた。安倍氏は解散後の記者会見でも
「日銀法改正を視野に入れ、大胆な金融緩和をする。かつて
の自民党とは次元を変えた経済政策をとってデフレ脱却に挑
む」と語った。これについて記者会見でコメントを求められ
た野田首相は「中央銀行の独立性の問題が出てくるのではな
いか」と疑問を呈した。日銀法では日銀の独立性が保証され
ており、政府が「緩和しろ」とか「引き締めろ」ということ
は許されない。法的に日銀を拘束する目標は「物価安定」だ
けで、そのために金融調節をどうするかは日銀にゆだねられ
ている。これは政治家には、つねに金融緩和を求めるインフ
レバイアスがあるからだ。(中略)もし安倍氏のいうように
2%のインフレ目標を設けて、政府が「目標が達成されるま
で無制限に緩和しろ」と命令すると、何が起こるだろうか。
安倍氏は物価上昇率が0.1 %、0.2 %・・・というよう
に徐々に上がっていくと思っているのだろうが、そういうこ
とは起こらない。 http://bit.ly/1i57FZI
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マネタリーベースとマネーストックの前年比