2014年03月05日

●「量的金融緩和は果たして効果的か」(EJ第3743号)

 日銀の異次元金融緩和で積み上がるのは、金融機関の日銀当座
預金の残高──マネタリーベースです。日銀が金融機関の保有し
ている国債などを買い上げて、その代金として日銀当座預金に振
り込んでいるのです。
 これを銀行の側から見ると、保有していた国債が日銀当座預金
に移動するだけであり、日銀から振り込んでもらっても資産が増
えるわけではないのです。低利の国債がこれまた低利の当座預金
に入れ替わるだけです。現在、日銀の当座預金には「0.5 %」
の金利が付いています。
 少しわかりにくいですが、銀行にとって預金(日銀当座預金も
含む)は負債なのです。したがって、量的金融緩和とは銀行の負
債を増やしていることになります。銀行が資産を増やすには、民
間(企業+家計)に対してそのおカネを貸し出し、貸付金を増や
さなければならないのです。
 資金の貸し出しが行われると、その分だけマネーサプライ(マ
ネーストック)が増加することになります。したがって、これが
活発に行われるようになると、インフレ率が上昇し、景気が刺激
されるのです。
 しかし、貸し出しを増やすには、銀行の思うようにはいかない
のです。民間の資金需要が増加しないと貸付金は伸びないからで
す。リチャード・クー氏にいわせると、経済がバランスシート不
況に陥っていると、企業は借金を返済して、バランスシートの修
復を行うので、どのような良い条件でも銀行からおカネを借りて
事業を拡大しようとしないのです。
 現在国債は銀行の大きな資産を形成しています。政府が国債を
発行すると、銀行は積極的にそれを購入します。そのときのおカ
ネの流れをたどってみることにします。
 銀行は日銀当座預金から資金を引き出し、政府が日銀に保有し
ている当座預金口座に振り込みます。この場合は単なる資金の移
動ではなく、実体経済に影響を与えます。なぜなら、政府はその
資金を財政支出に充てるからです。その結果、財政支出を受け取
る国民の預金が増加します。つまり、銀行が国債を購入すると、
その分だけ預金──マネーサプライ(マネーストック)が増加す
ることになります。
 このように銀行が資産を増やして預金の増加をもたらすことを
「信用創造」といいますが、マネーサプライ(マネーストック)
はこの信用創造によって増加するのです。
 問題は、黒田日銀総裁による異次元金融緩和の狙いがどこにあ
るのかということです。推測されることは次の2つです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 1.マネーサプライ(マネーストック)が不足していること
   がデフレの原因である。
 2.マネタリーベースを増やせば、マネーサプライ(マネー
   ストック)は増加する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 この2つの考え方に関連して、三菱UFJリサーチ&コンサル
ティング研究員で、コンサルタントの五十嵐敬喜氏は、この金融
政策は間違っているとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 皮肉と言うほかない。今の金融政策は二重の意味で適切的では
 ない。1つは、マネタリーベースを増やせばマネーストックが
 増えると考えていることだ。もう1つは、マネーストックが増
 えればデフレが克服できると考えていることだ。しかし、日銀
 が銀行からせっせと国債を購入してマネタリーベースを増やし
 ても、マネーストックは増えない。何よりマネーストックが不
 足しているからデフレに陥っているという認識は正しくない。
 経済規模(GDP)対比で見た日本のマネーストックの残高は
 すでに欧米の2〜3倍ある。日本のデフレの原因は、あり余る
 マネーストックが一向に動こうとしないことなのだ。
                     ──五十嵐敬喜氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 このマネタリーベースをいくら増やしても、それは各金融機関
の日銀当座預金に積み上げられるだけで、マネーサプライ(マネ
ーストック)は増えないという主張に対しては、さまざまな反論
があるのです。
 現在日銀副総裁としてアベノミクスを担っている岩田規久男氏
は、これについて次のように反論しています。まず、この主張か
ら読んでください。
―――――――――――――――――――――――――――――
  私が日銀副総裁就任前から受けてきた批判に対して反論して
 おきたいと思います。その批判とは、「日銀がマネタリーベー
 スを大量に供給しても、銀行の超過準備が積み上がるだけで、
 貨幣は増えないため、インフレには寄与しない」という主張で
 日銀が供給した超過準備がいわゆるブタ積み(無駄積み)にな
 っているのではないか、という批判です。要は、量的緩和は無
 駄だという主張です。この批判の妥当性を実際のデータから確
 かめてみましょう。添付ファイルの図表は2005年から20
 07年までの邦銀の超過準備と予想インフレ率の推移を表して
 います。日銀が2006年3月に量的緩和を解除したあとに超
 過準備が急激に減り予想インフレ率は急落しました。民間投資
 家たちは銀行に超過準備が急減したのを見て、日銀はデフレ脱
 却にコミットしていないと判断したのでしょう。つまり、市場
 参加者は中央銀行のスタンスを見極めるために、超過準備の動
 きを注視しているのです。「超過準備は無駄である」と断定す
 るのは早計ではないでしょうか。   http://bit.ly/1mNIX23
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この岩田日銀副総裁の反論は、マネタリーベースを増
やしてもマネーストックは増えないことへの十分な反論にならな
いと思います。アベノミクスが成功するかどうかの問題であり、
明日のEJでも考えます。  ──[消費税増税を考える/41]

≪画像および関連情報≫
 ●日銀当座預金の秘密を探る/金融アナリスト・久保田博幸氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  大胆に違う金融政策と言うものの、新総裁候補の黒田氏や副
  総裁候補の岩田氏の発言を確認する限り、現在と次元はあま
  り違うものではなさそうである。あえていえば白川総裁がや
  や控え気味であったアナウンスメント効果を意識し、期待に
  働きかけようとしている点が大きく異なる程度とみられる。
  金融政策についてはすでに日銀は2%の物価目標を導入して
  おり、それを達成するための手段が求められる。その手段と
  して、日銀が基金により買い入れている国債の年限長期化、
  通常の買入と基金による国債買入の統合、それに伴う銀行券
  ルールの廃止、買入資産のうちのリスク資産の購入増額、超
  過準備の付利撤廃、スワップなどのデリバティブの活用など
  が指摘されている。これらを個別に検討する必要もあるが、
  かなり専門的な部分もあり、今回はそれよりももっと基本的
  なところから大胆な金融政策なるものの矛盾点を導き出して
  みたい。日銀は日本で唯一の発券銀行であり、日銀の当座預
  金口座を通じて民間の銀行と資金のやり取りをしており、銀
  行の銀行である。また政府も日銀に当座預金口座を設けてお
  り、いわばこの口座が政府の金庫の役割をしている。ちなみ
  に、昔は大蔵省と呼ばれた財務省には政府のお金が詰まった
  蔵は存在しない。また地方公共団体は日銀に当座預金口座は
  設けられず、こちらは主に地方銀行などの口座を利用してい
  る。               http://bit.ly/1jJABE0
  ―――――――――――――――――――――――――――

超過準備とインフレ予想(日本)/岩田日銀副総裁資料.jpg
超過準備とインフレ予想(日本)/岩田日銀副総裁資料
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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