2014年03月04日

●「なぜマネーストックに変更したか」(EJ第3742号)

 「異次元金融緩和」といいますが、日銀は何をしているのかと
いうと、ひたすら金融機関が保有している国債──短期だけでは
なく長期国債も含めて買いまくっているのです。
 日銀が国債を買ったおカネはどこに行くのかというと、700
ほどある金融機関が日銀にに預けている無利息の当座預金に行き
積み上げられているのです。この日銀当座預金は、金融機関が顧
客からの預金の一定割合を預け入れなければならない決まりであ
る「準備預金制度」によって成り立っています。
 日銀当座預金は、原則として利息は付きませんが、日銀がとく
に必要と認める場合には、利息を付けることができるようになっ
ています。現在は、2008年10月に「補完当座預金制度」が
導入され、必要準備額を超える準備預金の保有に対して、日銀は
利息を支払うようになっています。
 日銀が金融機関の国債を購入して金融機関の日銀当座預金に積
み上げているおカネは「マネタリーベース」と呼ばれていること
は既に述べた通りです。日銀はこのマネタリーベースをひたすら
増加させようとしています。つまり、日銀は金融機関に対して、
おカネの供給量を増しているのです。
 ここで基礎的なことですが、経済学でいうおカネ、マネーとは
「現金」ではなく「預金」のことです。現金は企業や家計が必要
に応じて預金から引き出したものです。現在はおよそ84兆円の
現金が市中で流通していますが、現金の総量は大きく変化しない
のです。なぜなら、高額な取引になるほど、現金では行われない
し、クレジットカードなどによるキャッシュレス化も進んでいる
からです。
 日銀が大規模な量的・質的緩和を実施しても現金が増えること
はないのです。日銀は別に輪転機を回してはいないのです。現金
が増える唯一の理由は、預金者が自分の預金を現金で引き出すこ
とだけなのです。日銀は預金者が現金を引き出す度合いに合わせ
て、輪転機を回しているのです。
 「マネー=預金」と考えると、預金には次の2つがあり、それ
らの預金から、市中に流通している現金84兆円分だけ、少なく
なっていると考えることができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
    1.企業や家計が金融機関に預けている預金
               ─→マネーサプライ
    2.            日銀当座預金
              ─→マネタリーベース
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで、企業や家計が金融機関に預けている預金はマネーサプ
ライと呼ばれますが、これにはもちろん、原則として市中に流通
している現金も含まれます。あくまで現金は預金から引き出され
たものという考え方に立っています。
 ところが、現在日本では、「1」をマネーサプライとはいわず
「マネーストック」と呼ぶようになっています。2008年のこ
とです。金融機関の日銀当座預金をのぞく預金の残高合計額のこ
とです。どうして日本では名称を変更したのでしようか。
 それをいい出したのは実は日銀なのです。日銀がインフレ目標
を認めたくないので、そう呼ぶようになったのです。これはいわ
ゆる「日銀流理論」のひとつとなっています。
 日本の学者は権威に弱いのか、こういう日銀流理論に対しては
それがおかしいと思っても、ほとんど批判をしないのですが、た
だ一人それを痛烈に批判した人がいます。それは、現在日銀副総
裁の岩田規久男氏です。この人が日銀の副総裁になったのですか
ら、日銀内部は大変だったと思います。
 もともと岩田氏は、1990年代はじめのバブル潰しのための
三重野日銀総裁の金融引き締め策とマネタリーベースの急激な低
下を痛烈に批判したのです。日銀もそれに反論し、日銀は次のよ
うなことをいい出したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   日銀は、マネーストックをコントロールできない
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは実におかしな話です。中央銀行は「物価の番人」といわ
れる存在です。物価を上げるというのは、インフレにすることで
あり、そのためにはマネーストックをコントロールする必要が
あります。それができないというのは、ものの役に立たないとい
うことを意味するからです。
 長い論争が行われ、植田和男東大教授(専門はマクロ経済学/
金融論)が両者の仲裁に入り、両者の意見を裁定して次のように
まとめたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 マネーストックのコントロールは、短期的にはできないが
 長期的には可能である。   ──植田和男東大教授の裁定
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここで「長期的」といっているのは、「1年以上」ということ
なのです。1日とか1ヶ月とかの短期的にコントロールできない
のはむしろ当然のことであり、1年ならできるというのは「でき
る」のと同じなのです。いずれにせよ、この騒ぎがあって日銀は
マネーサプライを「マネーストック」に名称変更したのです。し
かしEJでは従来通り、マネーサプライを使うことにします。
 確かに日銀は、量的金融緩和策により、マネタリーベースは金
融機関の日銀当座預金にマネーを積み上げればよいので、その総
量を自由にコントロールできます。しかし、いくら、マネタリー
ベースを増やしても、それがマネーサプライになるには、銀行が
日銀当座預金から、おカネを引き出して使ってくれないと不可能
であり、それでコントロールできないといったのだと思います。
 実は、これについては大きな議論があるのです。黒田日銀総裁
の異次元の量的緩和策により、マネタリーベースは積み上がって
いますが、その多くはストックされたままになっていることも事
実です。          ──[消費税増税を考える/40]

≪画像および関連情報≫
 ●マネーストックの伸びは順調/絶対値では横ばい
  ―――――――――――――――――――――――――――
  日銀は2013年10月11日、9月のマネーストック(マ
  ネーサプライ)速報を発表した。代表的な指標であるM3は
  前年同期比3・1%の増加となった。6月に3・1%という
  2004年3月以降最大の伸びを記録して以来、毎月3%台
  という順調な伸びが続いている。ただ前年同月比ではなく、
  マネーストックの絶対値で見ると量的緩和開始以降、伸び悩
  んだ状態となっており、量的緩和の効果がどの程度寄与して
  いるのかはまだ不透明だ。マネーストックは金融機関から市
  中に提供されるマネーの総量のことを指している。これに対
  して日銀が金融機関に提供しているマネーの量はマネタリー
  ベースと呼ばれる。日銀による異次元の量的緩和策では、政
  策目標をマネタリーベースに設定しており、マネタリーベー
  スを年間70兆円分増やすことを確約している。マネタリー
  ベースが増えれば、銀行は理論上、貸出を増やすことになり
  信用創造が膨らみ、最終的にはマネーストックの増加につな
  がってくる。これが量的緩和策の狙いである。だが日銀が国
  債を大量に買い取り、その代金を当座預金に振り込んだとし
  ても、金融機関がそのお金を市中に提供しなければ、マネタ
  リーベースは増えてもマネーストックの量は増えない。実態
  経済に直接影響を及ぼすのは、現実に市中に出回るお金なの
  で、量的緩和策が効果を上げているのかは最終的にはマネー
  ストックの数値を見る必要がある。 http://bit.ly/1kjXyQS
  ―――――――――――――――――――――――――――

植田和男東大教授.jpg
植田 和男東大教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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