学名誉教授の次の言葉を引用しましたが、何を意味しているので
しょうか。再現します。
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シカゴ大では、まず経済の名目量と実質量の混同を戒めると聞
いているが、秀才であるはずの白川総裁は、長い日銀での生活
のなかで、大学院教育すら忘れてしまったのだろうか・・・。
──浜田宏一教授
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これは「白川君はもしかしたら、金融政策当局としての日銀に
とって重要なのが『実質金利を下げること』であることを忘れて
いるのではないかという浜田氏の皮肉なのです。秀才の白川氏が
そんな経済の基礎知識を知らないはずがないからです。
ここで、金利について考えてみることにします。実際の経済に
深く関係する金利は、企業がカネを借りるときの金利であり、個
人が住宅を買うときのローン金利です。企業や個人が意識してい
る金利はこれらの金利です。
企業はカネを借りる調達コストである金利よりも、そのカネを
使って事業をして得られる平均的リターンが高いと考えれば、企
業はカネを借りて事業を展開するので、市中に出回るカネ──マ
ネーサプライは増加します。
ここでいう事業の平均的リターンと経済成長率はほぼ同じもの
と考えることができます。その国で企業が生み出す付加価値の合
計がGDPであり、そのGDPの増加率が経済成長率であるから
です。これから次のことがいえます。
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◎金利 < 成長率 ・・・・ 金融緩和
◎金利 > 成長率 ・・・・ 金融引締
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それでは「ゼロ金利」というときの金利はどういう金利なので
しょうか。
この金利は、日銀が直接操作する「短期金利」のことです。短
期金利とは、大手銀行同士が1日のカネの貸し借りをするときの
金利のことですが、これは一般の人々にほとんど関係のない金利
なのです。しかし、これは中央銀行が唯一操作できる大元の金利
ということになります。
銀行は、日銀の決めるこの大元の金利に適切な儲けなどを乗せ
て企業への貸出金利や住宅ローン金利を決めるのです。しかし、
現在この大元の金利が「ゼロ」になってしまっているのです。コ
ントロールすべき金利がゼロでは、金利に関しては何もできない
ということになります。
ゼロ金利になったときに中央銀行として日銀のやるべきことは
次の2つがあります。
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1. 量的金融緩和
2.インフレ期待の引き上げ
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量的金融緩和というのは、日銀が、銀行が持つ日銀当座預金口
座にひたすら現金を積み上げることをいうのです。これは日銀が
民間の銀行が有する短期国債などを買い上げることによって実現
することができます。
このままであれば、いわゆるマネタリーベースが増えるだけで
すが、この口座には金利はつかないので、銀行は結局は口座から
現金を引き出して貸し付けなどに使うことになるので、マネーサ
プライが増えていくという考え方です。
インフレ期待の引き上げというのは、それが実現すると、実質
金利が下がるのです。仮に1年に物価が3%上がるとすると、現
在の100円は3%の価値を失うことになるので、この分を補正
しなけれればならないのです。実質金利は次の式で求めることが
できます。
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実質金利 = 名目金利 ― 期待インフレ率
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金融緩和によって一般的には金利は下がりますが、これは名目
金利です。米国の長期金利(名目金利)が3%前後のときでも、
期待インフレ率が2%あれば、実質金利は1%になるのです。
これに対して日本の場合は、長期金利は1%でもデフレなので
期待インフレ率はマイナス1%と考えると、実質金利は2%にな
るのです。実質金利が低いほど、投資が行い易い環境ができて、
景気が刺激されるということになります。
それでは、期待インフレ率を上げるにはどうすればよいかとい
うことになります。そのためには、中央銀行はインフレ目標──
具体的な物価上昇目標を掲げ、国民がそれを信ずることです。期
待インフレ率は、国民が「インフレになりそうだ」と思わない限
り、そうならないからです。
ところで、「期待インフレ率」は、どのようにして計測するの
でしょうか。
それは、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)という市
場金利の変化を観察することによって、知ることができます。B
EIというのは、市場で取引されている物価連動債をもとに算出
する予想インフレ率の一種です。つまり、物価連動債の利回りは
実質金利ということになるのです。
現在、アベノミクスの効果についていろいろいわれていますが
そのなかには、名目金利と実質金利を混同した意見がとても多い
のです。それも、専門家といわれる経済学者やエコノミストのな
かにも、そうした混同をしている人がいて、間違った議論が横行
しているように思います。
浜田教授のいう「経済の名目量と実質量の混同を戒める」とい
うのはそういうことをいっているのです。これについては、来週
のEJで考えます。 ──[消費税増税を考える/38]
≪画像および関連情報≫
●実質金利は事業計画の世界には存在しない/近藤駿介氏
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「実質金利の低下には企業の投資を刺激する効果がある」。
理屈上では、こうした見方は成り立つものかもしれません。
しかし、「企業が設備投資に動くには、実質金利の低下とい
う資金の調達環境の好転だけでは不十分。中期的な期待成長
率が上がり、需要拡大が続くという見通しを企業が持つこと
が必要」というのが現実です。経済学を知っている人達の中
には、「名目金利から物価の影響を除いた実質金利」という
概念を重要視される方も多くいらっしゃいます。しかし「実
質金利」という概念は企業の事業計画においては存在しない
ものです。日本経済新聞のこの記事は「実質金利の低下」を
「資金調達環境の好転」と説明していますが、これは正しい
説明だとは言えません。事業計画の基本は、「売上」と「経
費」、そして「売上」から「経費」を引いた「収益」で成り
立っています。ここで「売上」は「単価×数量」に分解され
この「単価」の部分に「物価の影響」が反映されます。国内
景気がよく、価格の上昇によっても「数量」が減らなければ
「単価」の上昇に伴い「売上」も上がっていくことになりま
す。そして、金利は「経費」の部分に含まれますが、使われ
るのはあくまで「名目金利」です。つまり、「実質金利=名
目金利ー物価上昇率)」というのは、「売上」の想定に使わ
れる「単価」の上昇と「経費」を見積もる際の「名目金利」
を通して間接的に事業計画に反映される形になっています。
したがって「実質金利」の低下、マイナスというのは、「収
益」が拡大するためのひとつの要素に過ぎないということで
す。 http://bit.ly/1edlXnB
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日本のインフレ率(年平均値)