いうと、本気でやる気がなかったという一語に尽きます。まさに
「やったフリ」をしてきたわけです。
米国のFRB議長は雇用の改善に責任をもっており、長期にわ
たって景気が回復せず、雇用が低迷する事態が続くと、確実に責
任問題になります。しかし、白川総裁は日銀のやれることは限ら
れているとして、成果に関しての責任を政府にゲタを預ける態度
をとっているのです。
そのため、金融緩和もどきのことはやったのですが、インフレ
目標は絶対に掲げようとはしなかったのです。それどころか、白
川総裁は金融政策に効き目がないことを自らの講演や論文で何回
も訴えており、とくにインフレ目標に関しては、日銀スタッフを
動員して、「米国のFRBでもインフレ目標を導入していない」
ことを国会議員に対して「ご説明」に回らせていたのです。
ところが白川総裁にとって困ったことが起きたのです。それは
2012年1月25日のことです。米連邦公開市場委員会(FO
MC)で、FRBは2%のインフレ目標の導入を決断したからで
す。日銀は慌てて、「あれは『インフレ目標』ではない。バーナ
ンキ議長もそういっている」として見苦しいいい訳を繰り返した
のです。「バーナンキ議長もそういっている」というのは、25
日の会見で、バーナンキ議長がいった次の発言に基づいているも
のと思われます。バーナンキ議長は「これはインフレ目標か」と
いう記者の質問に対して、次のように答えているのです。
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すばらしい質問だ。もし、「インフレ目標」を物価を最優先し
て雇用などを2次的なものとするということを意味するのであ
れば、その答えはノーだ。というのは、FRBは2つの責務を
もっているからだ。 ──バーナンキFRB議長(当時)
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これがインフレ目標を否定するものでないことは、誰でもわか
ると思います。あくまで、2%の物価目標を達成するとともに、
雇用も改善させると語っているからです。
これを聞いてさすがの白川総裁も「これはまずい」と思ったの
でしょう。2012年2月14日のバレンタインデーにインフレ
目標らしきものをはじめて口にします。具体的に白川総裁は次の
発表を行ったのです。
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消費者物価の前年比上昇率1%を目途として、それが見通せる
ようになるまで実質的なゼロ金利政策と金融資産の買い入れな
どの措置により、強力に金融緩和を推進していく。
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2月14日の昼過ぎにこの日銀発表が伝わると、いちばん驚い
たのは東京市場なのです。これまで、円買いを仕掛けてきた海外
ヘッジファンドなどの投機筋は、一斉に円売りに動いて、一気に
為替相場は円安に振れたのです。
発表から一夜明けた15日も円安・株高が継続し、ドル/円相
場は78.67 円まで上昇、日経平均は2011年10月31日
の高値9152円39銭を抜いて、一時9300円台を回復して
いるのです。海外の投資家は、これを日銀の政策変更としてとら
えたからです。これについて、浜田宏一教授は著書で次のように
述べています。
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日銀の新政策によって、日経平均株価は一時的にせよ、1万円
を上回った。円安も1ドル80円を超えて進んだ。日銀自身が
主張し、多くのエコノミストや学者たちが主張していた「金融
政策は効かない」という見解が、明白に反証されたのである。
金融緩和は、ただ量だけで効くのではない。このときのように
「期待」を通じての効果が大きいのである。繰り返して強調し
たい。過去数年間、さまざまな経済要因のなかで、それがたと
え中途半端なものであったとしても、2012年2月のインフ
レ・ゴール宣言以外、ここまで株価や為替レートに影響を与え
たものがあっただろうか? ──浜田宏一著
『アメリカは日本経済の復活を知っている』/講談社刊
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このとき、市場は白川日銀総裁(当時)は、黒田日銀総裁が異
次元金融緩和を打ち出したように、次の日銀政策決定会合で大規
模な金融緩和を打ち出すであろうと読んでおり、それに大きな期
待をかけたのです。
しかし、それは見事に裏切られるのです。まるで自分の発言で
円安/株高の流れができたことをくやむように、少しずつ元の状
態に戻してしまったのです。
確かに日銀がインフレ目標らしきものを導入し、それによって
円安/株高になったとしたら、それまで白川総裁が発言してきた
ことと完全に矛盾します。おそらく彼はそれにこだわってその後
ほとんど何もせず、多くの人の期待を裏切りながら、もとの円高
/株安の状態に戻してしまったからです。
これについて、浜田氏は、バレンタインデーにチョコレートを
くれるといいながら、実際には「1%」の義理チョコだったばか
りか、結局何もくれなかったのに等しいといっています。さらに
浜田氏は白川総裁が「低金利は企業の脆弱さを招く」という理論
を繰り返していることについて、次の懸念を表明しています。
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シカゴ大では、まず経済の名目量と実質量の混同を戒めると聞
いているが、秀才であるはずの白川総裁は、長い日銀での生活
のなかで、大学院教育すら忘れてしまったのだろうか・・・。
「新しい政策は政治的配慮によるものではない」といいながら
「金融政策はデフレ解消に効くとは限らない」という世界孤高
の「日銀流理論」もちらつく。 ──浜田宏一著の前掲書より
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──[消費税増税を考える/36]
≪画像および関連情報≫
●<日銀>インフレ目標導入 政策効果に限界も
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日銀は実質的なインフレ目標の導入と追加金融緩和の「合わ
せ技」でデフレ脱却に向けた強い意志を示した。しかし、既
に日銀の実質ゼロ金利などの緩和策は長期化しており、市場
では「政策効果はもはや限界」との指摘もある。日銀は10
年に始めた包括的な金融緩和策を当面は継続する姿勢を明確
に打ち出した。日銀は国債などの買い入れ基金を10兆円積
み増して市場の資金をジャブジャブにし、企業の設備投資や
一般家庭の消費を促すことでデフレ脱却に結びつけたい考え
だ。しかし、国内ではこれまでの緩和策で、長期金利の指標
となる10年物国債の利回りが、既に1%を割り込む超低水
準に下落。これ以上の金利低下は難しく、政策効果は限られ
ている。また、欧州債務危機など世界経済の先行きに不安が
ある中では、たとえ低金利で借りられても、企業の設備投資
意欲は高まらない。そもそも日本でデフレが長期化している
のは、少子高齢化による国内の需要減少など構造的な要因が
大きいとの指摘もある。白川方明・日銀総裁は14日の会見
で「デフレ克服には潜在的な成長率を高めることが必要。そ
れには企業、銀行、政府、日銀が協力して役割を果たすこと
が必要だ」と述べ、日銀の金融政策だけでは限界があるとの
考えを示唆した。 ──毎日新聞/2012年2月14日
http://bit.ly/1bY8Pns
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バーナンキ前FRB議長と白川前日銀総裁