2014年02月25日

●「日銀総裁はなぜ主張を曲げたのか」(EJ第3737号)

 アベノミクスは現在岐路に立っているといえます。株価は一進
一退の状況ですが、4月の消費税増税開始によって大きく局面が
変わると思います。
 失われた20年──これはどのように取り繕うとも日本銀行の
失敗の結果です。しかし、白川前日銀総裁は何も反省していない
のです。今後アベノミクスがどうなるのかを占うためにも、アベ
ノミクスの理論的支柱になったとされる浜田宏一教授の経済の考
え方について知る必要があります。
 浜田宏一教授が白川前日銀総裁に「忘れた『歌』を思い出して
ください」と訴えたのには理由があります。「金融政策の効果は
限定的である」というのが日銀のスタンスですが、かつての白川
氏はそういう考え方ではなかったのです。
 今から30年ほど前のことですが、白川氏は日銀入行後にシカ
ゴ大学に留学しています。そのとき、シカゴ大学のハリー・ジョ
ンソン教授の説に共鳴し、日本においても為替変動などの経済現
象には、日本銀行による金融政策が有効であるという論文を書い
ているのです。これは、金融政策を重視するハリー・ジョンソン
教授の説と同じ考え方であるといえます。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国際収支の不均衡は貨幣市場の不均衡によってもたらされ、
 調整は金融政策が有効である。──ハリー・ジョンソン教授
 ──浜田宏一著『アメリカは日本経済の復活を知っている』
                        講談社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 これが白川氏の「歌」なのです。それだけに浜田教授は、白川
氏が日銀総裁になったとき、大いに期待したのです。なぜなら、
そのとき、外国人の著名な経済学者のほとんどは、潜在成長率の
はるか下で運営されている日本経済を「ナンセンス」と批判して
いたからです。
 しかし、彼はまったく聞く耳を持たなかったのです。ですから
浜田氏は白川氏に対して、「『歌』を思い出してください」とい
う公開書簡を送り、それが収録された著書を白川総裁と日銀審議
委員全員に献本したのです。
 ところが、白川氏は本を送り返してきたのです。「自分で買い
ます」という返書をつけてです。ずい分失礼な話です。これは、
浜田氏のメッセージは受け入れられないという白川氏の断固拒否
のメッセージです。「これではいかん」と思った浜田氏が書いた
のが昨日のEJでご紹介した『アメリカは日本経済の復活を知っ
ている』(講談社刊)なのです。
 浜田氏はこの本で「弟子が師に反抗することはよい傾向であり
健全なこと」として奨励してきたが、ただしそれは「新しく、よ
り正しい理論で行うべき」として、古めかしい日銀流理論に戻っ
た白川氏を批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 正統的な金融理論から日銀理論への回帰は、経済学発展の流れ
 からすると逆噴射である。最も困るのは、それが稼働率の低下
 や失業、そして倒産を生む、国民を苦しめる方向への退歩でも
 あるからだ。日銀やその総裁に対してではなく、自分のメッセ
 ージが届く範囲を広げなければいけない。私が一生かかって研
 究してきた成果を、一般の人々にこそ知ってほしい。そのため
 にあるのが、本書なのだ。   ──浜田宏一著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 白川総裁は、浜田氏のいうようにあくまで日銀流理論に基づい
て金融政策をとらえていることは確かです。それは、日銀審議役
当時の2000年1月の次の論文からも明らかです。これは『週
刊ダイヤモンド』/2000年1月29日号に掲載されたもので
同じ内容が日銀のウェブサイトにも載っています。
―――――――――――――――――――――――――――――
    「金融政策は構造政策までは代替できない」
     白川方明氏論文  http://bit.ly/1faOpBY
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでは、「金融政策と財政政策はマクロ経済教科書からは考
えられないほど行っている」とし、「金融政策には限界があり、
構造改革実施までの「時間を買う」程度のことしかできない」と
強調しています。白川氏は既にこの時点で金融政策限界論を唱え
ていたのです。
 白川氏のいい分としては、常識を超えた金融緩和も日銀はやっ
ているが、効果が出ないのは構造問題の改革ができていないから
であるといい、成果が上がらない責任を明らかに政府に押し付け
ているのです。
 これは、1998年に新日本銀行法が施行されたのと無関係で
はないと思います。それ以降日本経済はほとんど最悪のマクロ経
済のパフォーマンスを続けてきているのです。その原因は、日銀
が責任を持って金融政策に取り組まず、デフレや超円高をもたら
すような緊縮政策を続けてきたからです。実は白川時代の日銀の
金融緩和は「包括緩和」といい、真の金融緩和ではないのです。
これについて経済評論家の上念司氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 具体的には、これまでの輪番オペとは別に65兆円程度の基金
 を用意して、この基金の枠を増やしたり減らしたりすることで
 金融緩和をやったふりをするという巧妙なものです。65兆円
 のうち長期国債にあてられた金額というのはごくわずかで、そ
 の他のものはほとんど短期の債券と交換していただけです。デ
 フレに陥った日本のような状況において短期の債券と貨幣を交
 換しても、お金とお金を交換しているのとほとんど変わりませ
 ん。つまり、わざと効果がないように巨額のお金を使うという
 のが日銀の包括緩和の実態でした。      ──上念司著
    「アベノミクスを阻む『7つの敵』」/イーストプレス
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/35]

≪画像および関連情報≫
 ●金融の量的緩和と円安/アダム・スミス2世の経済解説
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融の量的緩和を強化して為替を円安に誘導すべきである、
  という意見を持つ人は多い。私もその中の1人である。しか
  し、量的緩和の強化は円安の進行につながらない、と考えて
  いる人に、説得力のある説明をするのは、かなり困難なこと
  である。為替レートの決定理論の1つにマネタリーアプロー
  チというものがある。マネタリーアプローチの考え方では、
  日本がアメリカよりマネーストックをより増やせば円安にな
  り、日本がアメリカよりマネーストックをより減らせば円高
  になる。この、マネタリーアプローチの考え方が、1970
  年代の変動相場制の下で、為替レートの決定理論として有効
  であるという論文を1979年に書いたのが、現日銀総裁で
  ある白川方明氏である(日銀HPに掲載)。この論文で、白
  川氏は、「為替レート変動はすぐれて貨幣的現象である」と
  いうマネタリーアプローチの基本命題を実証的に明らかにし
  た、と記している。当時の白川氏は、マネタリスト強硬派か
  貨幣万能主義者と思えるくらい、貨幣の経済や為替レートへ
  の影響力を重視していたように見える。もっとも、現在の白
  川氏は、すっかり変身してしまったようであるが。
                   http://bit.ly/1hceftT
  ―――――――――――――――――――――――――――

白川方明前日銀総裁.jpg
白川 方明前日銀総裁
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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