/円安」基調になり、日経平均株価の上昇傾向が続いています。
そして、安倍政権はスタートして既に1年2ヶ月が経過しつつあ
る現在でも政権は高支持率を維持しています。
ところで、黒田日銀総裁の異次元金融緩和に、市場はなぜ「仰
天のサプライズ」をしたのでしょうか。実際に欧米の金融関係者
は、黒田宣言に腰を抜かさんばかりに驚いたのです。
これには2つの理由があると思います。
1つは、日本のマネタリーベースは、既に欧米を圧倒していた
からです。米国のバーナンキ前FRB議長が3次にわたる巨額の
金融緩和をやったといっても、GDP比でみれば白川総裁の実施
したレベルに達していなかったからです。これは、既に2月6日
のEJ第3725号でも述べた通りです。
黒田総裁は、その日本のマネタリーベースを2年で倍増すると
いったのです。これなら腰を抜かしても不思議ではないのです。
このように市場に対してサプライズを与えることは、中央銀行と
してとても大切なことなのです。
2つは、その金融緩和が明確なインフレ目標を伴っていたこと
です。「2年程度で物価を2%にする」と明言しています。これ
も市場にとって大きなサプライズになったのです。なぜなら、こ
のように「2%」という具体的な数字が出ると、物価が2%にな
るまでは金融緩和を続けると市場は判断できるからです。
これら2つのサプライズによって、ヘッジファンドをはじめと
する海外投資家は、日銀が従来の「日銀流理論」を変更したもの
と受け止め、一斉に円を売り、日本株を購入したのです。
ところで、「日銀流理論」とは何でしょうか。
アベノミクスの理論的支柱といわれる浜田宏一イエール大学名
誉教授の本に、早稲田大学若田部昌澄教授による解説が出ている
のでそれを引用します。
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私のみるところ、それは「一連の限定句」、平たくいうと「で
きない集」である。つまり、原則として日銀は民間の資金需要
に対して資金を供給しているので、、物価の決定についても限
定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との協調
関係も限定的であるべきというものである。たとえば、長期国
債の購入によって貨幣供給量を増やすということは、それが財
政政策の領分に入るので、禁じ手であるとされる。
──早稲田大学若田部昌澄教授
──浜田宏一著『アメリカは日本経済の復活を知っている』
講談社刊
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実は白川方明前日銀総裁は、浜田氏が東京大学経済学部の教授
時代の教え子であり、その聡明さはひときわ群を抜いていたとい
うのです。浜田氏にいわせると、経済学者には、数理的能力とそ
こで得た洞察を政策問題に適用して考える能力が必要とされるの
ですが、白川氏はその2つとも持っていたというのです。
しかし、その聡明な学生である白川氏は日銀に入ると、なぜか
「日銀流理論」に染まってしまったのです。浜田氏は次のような
エピソードを語っています。
浜田氏は2001年当時、内閣府経済社会総合研究所所長とし
て、経済財政諮問会議に出席していたのです。あるとき当時の日
銀総裁・速水優氏の補佐役の日銀審議役として、白川氏も会議に
出席したのです。
そのとき、経済財政諮問会議で速水総裁は政策に関して浜田氏
と意見が衝突したのです。浜田氏は「白川ならわかる」と考えて
白川氏と別室で話し合ったのですが、白川氏は速水氏の意見を支
持して議論はかみ合わず、真っ向から対立してしまったのです。
そのとき浜田氏は、「白川も日銀流理論に染まってしまった」と
考えたそうです。
白川氏は、福井総裁のあと、日銀総裁に就任しますが、政策は
従来の日銀流理論から一歩も出ないものであり、日本経済のデフ
レ色は濃くなる一方だったのです。これに危機感を抱いた浜田宏
一氏は、白川日銀総裁に対して公開書簡というかたちでメッセー
ジを送ったのです。それは、次のような内容です。浜田氏の本か
ら引用します。
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◎総裁の政策決定の与える日本経済への影響の大きさ、しかも
それによって国民がこうむる失業等の苦しみを考えると、いま
申し上げておくことが経済学者としての責務と考えたので、あ
えて筆をとった次第です。
◎私はいままで、貴兄の個人的な聡明さ、謙虚さなどをいっさ
い疑ったことはありません。しかし、いま重要なのは、いかに
論理的に明晰な貴兄が誠実に信じて実行されている政策でも、
それが国民生活のためになっていないのではないかということ
です。いま起こっている疑問は「貴兄のような明晰きわまりな
い頭脳が、どうして『日銀流理論』と呼ばれる理論に帰依して
しまったのだろう。
◎若者の就職先がないことは雇用の不足により、単に日本の生
産力が失われるだけではありません。希望に満ちて就職市場に
入ってきた若者の意欲をそぎ、学習による人的能力の蓄積、発
展を阻害します。日本経済の活力がますます失われます。
◎日本銀行は、金融政策というこれらの課題に十分立ち向うこ
とのできる政策手段を持っているのです。しかし、日本銀行は
それを認めようとせず、使える薬を国民に与えないで、日本銀
行が国民と産業界を苦しめていることを自覚していただきたい
と思います。
◎白川君、忘れた「歌」を思い出してください。お願いです。
──浜田宏一著の前掲書より
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──[消費税増税を考える/34]
≪画像および関連情報≫
●円高/株安は日銀の責任である/浜田宏一氏
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私は今、「どうしてこんなに経済政策は長い間、間違えるん
だろうか」と非常に興味を持っています。米国の銃規制など
を見ていると、普通の人が正しいと思うことが政治の過程で
はなかなかうまくいかないことがあるわけですが、日本の金
融政策がこれほどまでに長く、どちらかというと緊縮の方に
15年間も続いてしまったということが非常に不思議に思え
ます。その理由の1つとして、政治家のいろんな利害などが
妨げていたという考え方がありますが、もう1つに本当はみ
んなが理解していないんじゃないかということがあります。
私は、安倍晋太郎元外相ゆかりの安倍フェローというものに
なったのですが、そこで調べていたのは「どうして金融政策
は間違えるか」ということです。学者とすればアイデアが重
要だ、自分のやっていることがちゃんと理解してもらえるこ
とが一番重要だと思いたいのですが、なかなかそうはいきま
せん。「インフレーションをわずかに起こすことが重要なん
だ」といくら説いても、なかなか理解していただけない。日
本のメディアはもちろんのこと、外国の新聞を見ても「日本
銀行のデフレはいいことだ」とたくさん出てくる状況です。
経済成長のために、人口増は絶対必要です。しかし、「人口
減がデフレの要因である」と言ったまともな経済学者はいな
いのですが、日本ではそれが盛んになって、日銀の白川方明
総裁までそれに乗って喋っていた状態です。
http://bit.ly/1bQx2vR
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浜田宏一イエール大学名誉教授の本
ありがとうございます。