かれた世界経済フォーラムにおいて、安倍首相は稀代の投資王・
ジョージ・ソロス氏と会談したのです。添付の写真はそのときの
ものです。今日のEJは、『週刊現代』3月1日号の巻頭大特集
の記事をベースにして書きます。
1月24日になって市場が開くと、怒涛の売りが殺到し、東京
株式市場ではほぼ全面安になり、東証一部の90%を超える銘柄
が値下がりしたのです。週明けの27日もこの傾向は変わらず、
28日には、日経平均株価は終値で1万5000円を割る事態に
なったのです。一体何があったのでしようか。
それまでヘッジファンドを中心とする海外投資家たちは、ひた
すら円を売り、日本株を買っていたのです。それが、円安・株高
の相場を作っていたのです。ところが、安倍・ソロス会談を境に
どうやら彼らは投資のスタンスを変更したらしいのです。
ジョージ・ソロス氏は、その巨大な資金力を背景に、ここぞと
いうときには、国家に対しても果敢に投資戦を挑みます。有名な
のは1992年に英国政府に対して仕掛けた投資戦です。このと
きソロス氏は、巨額なポンド売りを徹底的に行い、それを買い支
えようとした中央銀行のイングランド銀行を最後には屈服させ、
勝利を収めているのです。
世界の投資家が1月22日の安倍・ソロス会談を注目したのは
わけがあるのです。それは、ソロス氏がチェコ共和国のプラハに
本拠地を置くNPO法人「プロジェクト・シンジケート」のウェ
ブサイトに寄稿文を寄せていたからです。2014年1月2日の
ことです。
「プロジェクト・シンジケート」のサイトは、世界中の著名人
が寄稿している知る人ぞ知る世界的な言論機関です。ジョージ・
ソロス氏をはじめとし、バリー・アイケングリーン氏、ノリエリ
・ルービニ氏、ブラッドフォード・デロング氏、ロバート・スキ
デルスキー氏など、著名な研究者、コラムニストによる論評を発
信しています。その「プロジェクト・シンジケート」にソロス氏
は次のような寄稿文をアップロードしているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
(黒田東彦総裁率いる日本銀行が昨年から姶めた)大規模な量
的緩和は、リスクのある実験。成長が加速すれば金利が上昇し
債務支払いのコストが維持できないものになる。しかし、安倍
首相は日本を緩やかな死に処すより、そのリスクを取ることを
選んだ。人々の熱狂的な支持から判断すれば、普通の日本人も
同じように考えているのだろう。
──「週刊現代」2014年3月1日号
―――――――――――――――――――――――――――――
この寄稿文を読むと、ソロス氏は黒田総裁の異次元緩和策を評
価していないようにみえます。これを読んでソロス氏が「日本株
売り」をするのではないかと考えた投資家は多いと思います。
もうひとつ気になるニュースがあるのです。それは、ブレバン
・ハワードの動きです。ブレバン・ハワードは、ブレバン・セッ
ト・マネジメント──ロンドンに拠点を置く、欧州最大級のヘッ
ジファンドです。クレディ・スイス出身のアラン・ハワードが、
2003年に立ち上げたヘッジファンドで、リーマン・ショック
の起きた2008にも2ケタの運用実績を上げています。しかし
ブレバン・ハワードは逃げ足の速いことで知られています。
そのブレバン・ハワードは、昨年暮れから猛烈に日本株を買っ
ていて、この時期の日経平均株価を支えていたキー・プレーヤー
の一人であるといわれています。それが日本株売りをはじめたと
すれば、相場は大きく動くことになります。
実際に2013年始からヘッジファンドを中心とする外国人投
資家は、この1年で15兆円という巨額のカネを日本株に注ぎ込
んでいるのです。しかし、リチャード・クー氏によると、日本の
機関投資家の大半は債券市場にとどまっていて、大きく動いてい
ないのです。そのため、長期金利は低位に安定し、外国人投資家
は安心して円を売り、日本株を買うことができたのです。その結
果、日経平均株価はわずか1年で56%も上昇したのです。
それならなぜジョージ・ソロス氏は、日本から引き上げようと
したのでしょうか。
それはおそらく安倍首相が靖国神社参拝を強行したことにある
ようです。現在、海外投資家が一番懸念しているのはチャイナリ
スクなのです。中国は成長と債務のジレンマを抱えていて、その
先行きがどうなるかによって、世界経済に大きな影響を及ぼすこ
とが懸念されているのです。世界中が腫れものに触るように気に
しているのに、安倍首相は中国との緊張を高めることばかりして
いるという不信感があるようです。
確かに外国人投資家は1月から4週連続売り越していますが、
その総額は2兆円程度であり、少し引き始めたという程度に過ぎ
ないのです。ここからは、外国人投資家対日銀の腹の探り合いに
なっています。つまり、本当の勝負はこれからなのです。
ヘッジファンドは3ヵ月ごとに決算をするので、大量に日本株
を売る機会は次の3つと考えられます。
―――――――――――――――――――――――――――――
◎3月決算
◎6月決算
◎9月決算
―――――――――――――――――――――――――――――
日本から逃げ出そうとしている海外投資家が気にしているのは
黒田総裁の追加緩和です。しかし、黒田総裁は「金融緩和は十分
な規模であり、日本経済は軌道に乗っている」として、追加緩和
の期待をかわしていますが、それを信じている海外投資家はいな
いのです。黒田総裁は、現物株を買うというサプライズを心に秘
めているといわれます。そうなると、海外勢も引くに引けないの
です。そのため、2月の日経平均はまさに上がったり、下がった
りの繰り返しです。 ──[消費税増税を考える/33]
≪画像および関連情報≫
●経済時計は今「10時」?/山崎元/ホンネの投資教室
―――――――――――――――――――――――――――
1年半くらい前を振り返ると、「人口が減る国の株価は上が
らない」とか「低成長な国の株価は上がらない」といったこ
とを言う人が複数いたように思うが、これらの意見は、そも
そも理論的に正しくないし、事実の上でも誤りであることが
立証された。さて、以下の図1(文末のURLクリック)は
過去に本連載で紹介しているが、筆者が経済循環と相場につ
いて考える際によく使う「山崎式経済時計」だ。資産価格と
景気循環を、主に金融政策との関連で眺めたものだ。「・・
バブルは『高すぎる資産価格』なのでやがて崩壊し、バブル
が崩壊すると資産価格が下がり、不良債権問題が起こり、金
融政策が緩和に傾く中、資産価格が徐々に回復し、やがて景
気も回復するが、資産価格の上昇=担保価値の上昇を背景に
金融機関が信用を拡大しすぎるために、また(ほぼ必ず)バ
ブルが形成される・・」というのが、典型的な経済循環のス
トーリーだ。現在の先進国では、景気対策の中心は金融政策
だし、バブル形成の原動力となっているのは金融ビジネスの
インセンティブ構造だが、まだ我々の社会は金融ビジネスを
適切に制御することに成功していないので、このストーリー
は頻繁に繰り返される。筆者の考えでは、日本経済は、おそ
らく「10時」くらいの位置にある。十数年来金融緩和が不
十分で「9時」を回ることことができなかったが、一昨年か
ら昨年にかけて、やっとはっきり9時を回ったと見ていいの
ではないか。日銀短観(昨年12月調査は大企業製造業で+
14)などから見た景況感も「好況」の範囲に入ったといっ
て良さそうだし、有効求人倍率も、ついに1・0倍まで回復
した。 http://bit.ly/1e67yEV
―――――――――――――――――――――――――――
ジョージ・ソロス氏と安倍首相