2014年02月20日

●「緊縮策を採用したキャメロン政権」(EJ第3734号)

 日本は政府債務が対GDP200%を超える国です。財務省が
「消費税増税やむなし」という環境をつくるため、大宣伝をした
ので国民の誰もがそのことを知っており、国のこととはいえその
ことを心配している国民は多いのです。
 「借金はできるだけ少ない方がよい」──一般の家計ではそれ
が常識です。そのため、「国の借金も少ない方がよい」と思って
しまいます。これが財務省の狙いなのです。この時点で「国の財
政=家計」と考えてしまっているからです。これは、見事なレト
リックであるといえます。しかし、国の財政と家計とは全く違う
ものであり、「国の財政=家計」と考えるべきではありません。
 よく政府債務が対GDP200%以上もあると、どこかのヘッ
ジファンドから日本国債を大量にカラ売りされ、売り崩しを仕掛
けられる恐れがあるということをいう人がいます。そして、そう
なったら日本はひとたまりもないといって、危機感を煽る経済評
論家は日本にはたくさんいます。
 しかし、そういう場合、日銀は断固として国債をがんがん買い
上げて対抗すればよいのです。そうすれば、カラ売りを仕掛けた
連中をすべて殲滅することができます。そのうえで、市場が安定
したら、日銀は少しずつ国債を日本の機関投資家に戻していけば
よいのです。黒田総裁なら、敢然とそれをやるでしょう。
 これについて経済評論家の上念司氏は、最近刊の著書で次のよ
うに「国家財政=家計」は間違いであるといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本政府の寿命は何歳でしょうか。一般的な大人が住宅ローン
 などの借金をする場合、せいぜい35年ローンぐらいが限界で
 す。それは本人が元気に働いてお金を稼げるのはあと何年かと
 いうことをベースに算出される期限です。寿命という概念が存
 在しない政府の場合、仮に国債の償還期限を迎えても、再び借
 り換えることによって返済をいくらでも先延ばしすることがで
 きます。また、やろうと思えば、政府は人頭税や資産課税など
 を導入して強制徴収をすることで国民から無理やり財産を取り
 上げることもできます。さらにインフレになることを覚悟すれ
 ば、紙幣を大量に印刷して国債を償還することもできます。こ
 の状況を無理やり家計にたとえると、お父さんの寿命は無限大
 で、ご近所を恐喝してお金を巻き上げることができるうえ、お
 母さんは偽札づくりの名人という話になります。政府は永久に
 死なないわけですから、政府債務がいくら積み上がったところ
 で、少しずつ返していく見込みがあるなら債務を維持すること
 が可能です。                ──上念司著
    「アベノミクスを阻む『7つの敵』」/イーストプレス
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、そのことがわかっていても財政再建を図るために、緊
縮策を採る国が多いのです。ギリシャ、アイルランド、スペイン
などのEUの諸国は、自ら負債の借り換えができないので、緊急
融資をしてくれるドイツの顔色をうかがって、支出を削減して増
税をせざるを得なかったのです。
 しかし、そういう差し迫った事情もないのに、あえて緊縮策を
採用した国があります。デヴィット・キャメロン首相の率いる英
国がそうです。もともとキャメロン氏は政権を取る以前から、保
守党党首として、緊縮策を公約として掲げていたのですが、国民
は、自由民主党と保守党の連立政権であったので、キャメロン氏
が首相になっても、自由民主党が少しはブレーキをくれることを
期待していたのです。
 しかし、自由民主党は、ほとんど狂信的なキャメロン首相に説
得されてしまったのです。キャメロン氏は首相に就任するや大幅
な「支出削減プログラム」を発表し、実行に移したのです。英国
の場合は、トップの決める政策を阻止する仕組みがないので、そ
のプログラムは直ちに実行に移されたのです。
 そのさい、ジョージ・オズボーン財務相は、国民に次の声明を
出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 高金利、多くの倒産、失業の急増、そして安心感の壮絶な喪失
 と、回復の終わりを迎える。我々はそんなことを許すわけには
 いかない。我が国の負債に対処するためにはこの予算案が必要
 である。この予算案は我々の経済に安心感をもたらすために必
 要である。これは避けがたい予算案なのである。
              ──ジョージ・オブボーン財務相
          ──ポール・クルーグマン著/山形浩生訳
          「さっさと不況を終わらせろ」/早川書房
―――――――――――――――――――――――――――――
 オズボーン財務相のいう「安心感」という言葉に注目すべきで
す。これは、もし緊縮策を取らなければ、高金利、多くの倒産、
失業の急増から免れることによる「安心感」のことをいっている
のです。明らかにアルベルト・アレシナの論文の影響を受けてい
ることは確かです。
 それに加えて、キャメロン政権がスタートしたのは、2010
年5月11日であり、同時期にラインハート&ロゴス教授の論文
も発表されており、キャメロン政権は、明らかにアレシナ、ライ
ンハート&ロゴスの両論文の影響を受けています。それから4年
経過していますが、英国の経済はどうなったでしょうか。クルー
グマン教授は、英国について次のように書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 安心感の妖精はいかがだろう?消費者や企業は、イギリスが緊
 縮財政に向ったことで安心しただろうか。実はその正反対で、
 事業の安心感は金融危機最悪の時期以来、類を見ない水準にま
 でまで下がり、消費者の安心は2008年から2009年すら
 下回る水準まで下がった。
    ──ポール・クルーグマン著の前掲書/山形浩生訳より
―――――――――――――――――――――――――――――
              ──[消費税増税を考える/32]

≪画像および関連情報≫
 ●英国経済が抱える深刻な問題/2013年10月28日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  英国の民間部門の生産性が5年間にわたって低下したのは、
  1800年代後半以降でわずか3回しかない――しかも、今
  回を除く2回は世界大戦の直後だった。この生産性低下が、
  失業率が低くとどまっている理由だ。これは経済停滞が3年
  間続いても連立政権が持ち堪えられている理由でもある。正
  常な状態なら、失業率は今ごろ15%を超えていただろう。
  だが、この経験はいくつかの問題を提起する。英国の経済見
  通しはどうなのか、政策は何をすべきか、という問題だ。今
  年第2四半期には、労働者1人当たりのGDPと時間当たり
  GDPが危機以前のピーク水準を5%近く下回っていた。ま
  た、1987〜2007年のトレンドが続いていた場合の推
  計値と比べても、労働者1人当たりのGDPは17%、時間
  当たりGDPは19%低かった。英国の企業と労働者は20
  07年にできたことを忘れてしまったのだろうか?国際的な
  比較も目を見張るものだ。雇用とGDPに関するコンファレ
  ンス・ボードのデータ(GDPは購買力平価=PPP=で測
  定)を見ると、2007年から2012年にかけて英国の労
  働者1人当たりのGDPが3%、時間当たりGDPが2.2
  %減少したことが分かる。だが、労働者1人当たりのGDP
  は、スペインでは11%、米国では5.6 %、カナダでは、
  1.5 %、日本では0.9 %、フランスでは0.2 %増加し
  た。ドイツでは0.7 %減少した。先進7カ国(G7)の中
  で英国より悪かったのは、1人当たりGDPが4.2 %減少
  したイタリアだけだった。時間当たりGDPでは、英国はイ
  タリアより悪く、最下位だった。  http://bit.ly/MuBFjr
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キャメロン英国首相.jpg
キャメロン英国首相
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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