員会の公聴会が開かれたのです。このとき、公述人として招待さ
れたのは、次の3人です。
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小幡 績・慶應義塾大学大学院准教授
永濱 利廣・第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト
上念 司・経済評論家
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2013年5月2日といえば、アベノミクスが盛り上がって最
高潮のとき、リチャード・クー氏のいうところの「ハネムーン」
の時期に当たります。もちろん安倍政権は消費税増税をまだ決断
していない時期です。公聴会はこのとき開かれたのです。
公述人のメンバーの選定は、よく考えられていると思います。
小幡 績氏は、いわゆるリフレ反対派の学者です。著書に『リ
フレはヤバい』(ディスカヴァー携書)があります。永濱利廣氏
は、アベノミクス賛成派で、どちらかというと、政府寄りの見解
を述べる人です。小幡、永濱両氏はいずれもテレビでお馴染みの
有名人です。
上念 司氏は異色の経済評論家です。アベノミクス賛成派です
が、政府寄りではありません。2010年に、浜田宏一イエール
大学名誉教授に師事しています。『「アベノミクス亡国論」のウ
ソ』(イースト・プレス)など、経済に関する多くの著作があり
ます。最近では、テレビにもよく出演しています。
実はこのときの衆議院予算委員会の動画があるのです。収録時
間は約1時間と長いのですが、聞く価値のある動画であると思い
ます。ただし、なぜか、小幡 績公述人の発言はカットされ、永
濱公述人と上念公述人の全発言が収録されています。
話のわかり易さは上念公述人が圧倒的です。主張が明解ですし
説得力もあります。上念公述人の話は動画の「15分30秒」く
らいからはじまります。
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2013年5月2日/参議院予算委員会・公聴会
http://bit.ly/1bSMkL3
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上念公述人の話で注目すべきは、昨日のEJでご紹介したライ
ンハート&ロゴス教授の論文が間違いであったことに言及してい
ることです。この論文の間違いが明らかになったのは、2013
年4月のことですが、上念氏は公聴会の行われた5月2日にはそ
の情報をキャッチし、資料化して言及しています。その時点では
非常にホットな情報であり、タイミングの良い指摘です。
その上念公述人は、冒頭にクルーグマン教授の言葉を借りて、
「国の財政を家計に例えるのは間違いである」ことを最初に指摘
し、おおよそ次のようなことを述べています。
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ノーベル経済学賞受賞経済学者であるポール・クルーグマン
教授の2013年4月28日付、ニューヨーク・タイムズ紙の
コラムをご紹介したいと思います。
クルーグマン氏いわく「国の経済を家計で考えてはなりませ
ん。なぜなら、国の経済は『誰かの支出は誰かの所得になる』
からです」。そうであるなら、すべての人が、支出をやめてし
まったら、すべての人の所得がなくなってしまうということな
んです。いま英国やヨーロッパでは緊縮財政をやっていますが
大失敗しています。英国では、金融緩和を一生懸命やったので
すが、途中から緊縮財政に転じて消費税を増税したのです。そ
の結果、失業は減らない。実質GDPも伸びない。これが現実
です。私たちももしデフレを脱却する前に増税したら、英国の
轍を踏む可能性があります。
しかも、緊縮財政派が根拠にしていたラインハート&ロゴス
教授の論文「債務時の経済成長」が間違っていたことが、4月
にわかったのです。これで緊縮財政派はその理論的根拠を失っ
たのです。緊縮財政の正しいことを示す唯一の論文です。
誰かの支出は誰かの所得になるなら、代わりに政府がお金を
使って、国民の所得にしていくということ(財政政策)が重要
なのです。 ──上念司公述人の話から
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たかが論文といいますが、このラインハート&ロゴス教授の論
文はギリシャ危機を一層ひどいものにしてしまったのです。20
10年にギリシャに新政権が誕生し、前政権が債務をごまかして
いたことが発覚したのです。ちょうどそのとき、ラインハート&
ロゴス教授の論文が発表されたのです。
そもそも経済が弱っているときに歳出削減を行えば、その経済
はさらに弱くなることは必定です。しかし、この論文があまりに
も衆目を集め過ぎたため、まるでケインズ学派の考え方の方が間
違っているように当時のヨーロッパでは思われたのです。
借金に借金を重ねるということはしてはならない──真面目な
人ほど、借金に対するトラウマは強いものです。したがって、国
であってもできる限り借金はしない方がよいと考える人が多いの
です。しかし、個人の家計と国の財政は違うものです。
上念氏が指摘するように、クルーグマン教授は「国においては
誰かの支出は誰かの所得になる」といっています。不況になると
個人消費は抑えられ、企業は設備投資を控えます。「誰かの支出
は誰かの所得になる」なら、民間の所得は減少します。そういう
ときは、政府がお金を使って国民の所得を増やす努力をする必要
があるのです。機動的な財政政策がそれに該当します。
こういうときに国も歳出を削減したら、どうなるでしょうか。
ますます不況になってしまいます。そういうときに緊縮財政こそ
正しいと主張する論文が出てくると、緊縮財政派はそれに飛びつ
くのです。しかし、それが違っていたというのですから、話にな
りません。しかし、緊縮派の学者や評論家はそれでも己の考え方
を改めないのです。 ──[消費税増税を考える/30]
≪画像および関連情報≫
●「アベノミクスは失敗する」/小幡績准教授が断言
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批判論者、慶応大大学院経営管理研究科の小幡績准教授はソ
ウル市内で取材に応じ「アベノミクスはまやかしだ。絶対に
成功しない」と断言した。今年に入り、『リフレはヤバい』
『ハイブリッド・バブル』という2冊の著書でアベノミクス
批判を展開した小幡准教授は最近韓国科学技術院(KAIS
T)、慶応大、清華大が共同で開いたMBA(経営学修士)
セミナーに出席するため、韓国を訪れた。日本社会でアベノ
ミクスが支持される理由について、小幡准教授は「経済学で
はなく、社会心理学的な分析が必要だ」と述べた。「これま
で日本国民は気がふさぎがちだった。全ての心配を一気に解
消してくれる神風でも吹いてくれればという気持ちだ。うそ
でもよいから夢を見たがっているということだ」。小幡准教
授は「興味深いことに『アベノミクスを支持する』という回
答が6〜7割に達する半面、『生活が良くなったか』『消費
を増やすか』という質問に『はい』との回答は1割だけで、
『変わりない』との回答は8割だった」と指摘。「それでも
アベノミクスの支持率が高いのは、『自分の給料が上がらな
くても、日本の雰囲気が明るくなれば以前よりはまし』と考
える日本人が多いという意味だ」と続けた。小幡准教授は、
「日本の世論の主流がアベノミクス批判を恐れているため、
最近はテレビ出演もできない。代わりにコメディーショーや
週刊現代によく出ている」と苦笑いした。小幡准教授は東大
経済学部を首席で卒業し、大蔵省(現財務省)に入省したが
8年で退職。米国に渡り、ハーバード大で経済学博士号を取
得。2003年から慶応大大学院で教壇に立っている。
http://bit.ly/1dyDgiF
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小幡/永濱/上念3氏