と思います。それは「構造改革」の位置づけの違いです。
小泉政権は「構造改革なくして景気回復なし」というスローガ
ンを掲げ、経済は、構造改革派の竹中平蔵氏が、経財相として仕
切っていたのです。しかし、小泉首相自身は「郵政民営化」のワ
ンイッシューの実現を目指したのです。
それに対して、現在の安部政権は、第1の矢として「異次元の
金融緩和」、第2の矢として「財政政策」を推進し、既にこれら
2つの矢は実行されているのに対し、構造改革は、第3の矢とし
ての「成長戦略」という位置づけになっています。
それに現安倍政権において竹中平蔵氏は、産業競争力会議の委
員として政策立案に参加しています。安倍首相としては竹中氏に
はもっと重要な役職で活躍してもらいたかったのでしょうが、麻
生財務相の強い反対により、実現できなかったのです。
リチャード・クー氏のいうように、「失われた20年」で一番
足りなかったのはおカネの「貸し手」ではなく「借り手」、民間
の借り手なのです。ところが、小泉政権が進める「郵政民営化」
は民間への貸し手を増やす政策なのです。金利がゼロでも借り手
がいない状況であるのに、貸し手を増やす政策をとったのです。
どうして、小泉政権の時期に郵政民営化がいけないのか──こ
れについて、リチャード・クー氏の説明は実に明解です。その要
点をご紹介します。
郵政には、もともと民間におカネを貸すノウハウは何もなく、
これまでは、せいぜい国債を購入するしかなかったのです。そう
いう郵政を民営化して銀行と同様におカネを貸せるようにするに
は郵政としては、金利を下げて勝負するしかないのです。しかも
その時点で郵政には民間向けの不良債権はないので、かなり積極
的に金利を下げることができます。
ところが、小泉政権以前から日本の貸し出し金利は非常に低く
なっていて、リスクに見合うリターンを得るのはとても期待でき
なかったのです。これに対して民間金融機関は、郵政に対して何
も対抗手段を持っていないのです。そのため、民間金融機関は貸
出しをさらに厳格化し、国債を購入してしのぐしかないのです。
そうすると、そこには実に奇妙な構図ができ上がるのです。
民間に貸すノウハウを有している金融機関が国債を買うしかな
い状況に追い込まれるのに対して、貸し出しノウハウを持ってい
ない郵政が、金利を大幅に下げて民間に貸し出しをすることにな
るからです。
これは完全にアベコベです。それに、当然郵政には貸し出しミ
スが頻発し、やがて多くの不良債権を抱えることになります。そ
の結果、低金利では貸し出せなくなることは必定です。
おカネの貸し手を増やすのではなく、借り手を増やす政策が必
要なのですが、政策を推進する側がそのことをきちんと理解して
いるとはとても思えないのです。
それでは、どのようにすれば、おカネの借り手を増やすことが
できるのでしょうか。
アベノミクスによって起こった変化は、「第1の矢」によって
もたらされています。しかし、この第1の矢には大きなリスクが
潜んでいるのです。したがって、これに過度に依存することには
慎重であるべきです。これについて、リチャード・クー氏は、次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
外国人投資家がこの矢(第1の矢)に乗ったことで大きな株高
と円安がもたらされたわけだから、確かにこの矢でハネムーン
が発生したことは間違いない。しかし、これからどうあるべき
かと考えた時に、英語で「Don’t push your luck too far.」
(これ以上の強運に賭けるべきではない)という表現があるが
これ以上、強運を期待するべきではないと私は言いたい。20
12年12月から2013年4月までのあの成果は、おそらく
誰も期待できなかった。まさかアメリカのヘッジファンドたち
が、あんな行動をあそこまでとってくれるとは、誰も思ってい
なかったからである。 ──リチャード・クー著
『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
ここでクー氏のいっている第1の矢のリスクについては、改め
て述べることにします。
続いて「第2の矢」です。これについては、既に5.5 兆円の
経済対策が決まっています。しかし、この4月から消費税が3%
上がって8%になるので、その対策のためのものです。バランス
シート不況下での増税などもってのほかですが、決まってしまっ
たものは仕方がありません。それに民間の借り手がいないので、
政府が借りて使うことは必要です。それにオリンピックもあるの
で、資金を上手に使うことによって、経済に良い効果をもたらす
努力を政府はするべきです。
「第3の矢」は成長戦略といわれています。構造改革はここに
位置づけられています。現在、話に出ている農業、エネルギー、
環境、医療などの分野は、規制緩和によって市場が開放されれば
投資の対象になります。
確かにこれによって市場が開放されれば、民間の借り手を増や
す政策になる可能性があります。安倍首相が参加を表明している
TPPも、本当にそれによって市場が開放されれば、借り手を増
やす政策といえます。
しかし、構造改革は、その効果があらわれるのには時間がかか
るのです。米国のレーガン大統領は、1980年代初頭から大胆
なサプライサイドの改革を推進しましたが、その効果があらわれ
たのは、次のブッシュ(父)政権ではなく、12年後のクリント
ン政権になってからです。構造改革にはそれほど時間のかかるも
のなのです。そうなると、第2の矢の財政政策いかんが、日本経
済再生の重要な鍵を握っているということがいえます。
── [消費税増税を考える/27]
≪画像および関連情報≫
●アベノミクス第3の矢の本気度/IT分野の成長戦略
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アベノミクスの第1、第2の矢が奏功している中、我が国の
今後の継続的成長のためには第3の矢である「成長戦略」の
実効性が問われている。ОECD事務局長が訪日した際にも
アベノミクスへの支持とともに「成長戦略」の成功が鍵であ
ると述べるなど、海外からの期待も大きい。成長戦略の中で
インターネットビジネスを展開している私たちが最も強い関
心を寄せているのは「世界最高水準のIT社会の実現」だ。
◎「成長戦略」より「利用規制」?/成長戦略では、「IT
を活用した民間主導のイノベーションを推進」や「世界最高
水準の事業環境を実現する規制・制度改革の徹底」が掲げら
れているにもかかわらず、成果目標が「2015年度中に、
世界最高水準の公共データ公開内容──データセット1万以
上を実現」と小粒だ。公共データの公開については内閣府を
中心に準備が進みつつあるが、公開されるデータセットにつ
いて民間で積極的な利用をしたいという声は少ない。「世界
最高水準の事業環境を実現する規制・制度改革の徹底」とい
う点では、民間企業が保有するビッグデータの利用を促進す
るための事業環境の整備について、具体的目標が示されてい
ない。それどころか、「成長戦略」という名目の下で「利用
規制」をもたらしかねない検討が進んでいる。
http://bit.ly/1eHGUs5
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リチャード・クー野村総研主席研究員


