関連指標があります。
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1.マネタリーベース
2. マネーサプライ
3. 国内銀行貸出金
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1の「マネタリーベース」とは、既に述べたように中央銀行が
どのぐらい資金(流動性)を銀行に供給したかを表すものです。
中央銀行は、民間の金融機関から国債や社債を買うことによって
いつでもマネーを供給することができますが、それらの資金が貸
出金のかたちで、金融機関の外に出ないと、実体経済に影響を与
えることはできないのです。
2の「マネーサプライ」は、民間が使えるおカネがどのくらい
あるかを表すものです。エコノミストはこのマネーサプライに注
目します。なぜなら、その動向がインフレ率や名目GDPの動き
と連動しているからです。いくら中央銀行がマネーを銀行に供給
してマネタリーベースを増やしても、マネーサプライが増えなけ
れば、インフレ率や名目GDPに影響を与えることはできず、景
気は良くならないのです。
3の「国内銀行貸出金」は文字通り銀行の貸出金です。これが
マネーサプライの量を決めることになります。マネーサプライと
いうのは、次のように「現金通貨」と「預金通貨」の合計であり
「預金通貨」には、「M1」〜「M4」まであります。
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マネーサプライ=「現金通貨」+「預金通貨」(M1〜M3)
M1 ・・・・ 要求払預金
M2 ・・・・ 定期性預金
M3 ・・・・ 郵便貯金
M4 ・・・・ 譲渡性預金
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従来の経済学では、これら3つの指標は、同じように動くもの
とされてきたのです。すなわち、マネタリーベースが10%増え
ると、最終的にはマネーサプライも10%増加し、銀行の貸出金
も10%増えると考えられていたのです。
実際にリーマンショック前の世界では、3つの指標はそのよう
に動いていたのです。しかし、日本については、1990年にバ
ブルが崩壊すると、3つの指標はそれぞれ独立した動きを示すよ
うになったのです。
この現象に対して世界の経済学者は、日本の金融政策の失敗と
してとらえたのですが、リーマンショック後は世界も日本と同様
に3つの指標は独立して動くようになったのです。
日本については、バブル崩壊の1990年第1四半期を100
とし、米国と英国とユーロ圏については、リーマンショック発生
時の2008年8月を100として、3つのマネー指標を比較し
た数値は次の通りです。
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日本 米国 英国 ユーロ圏
マネタリーベース 380 433 464 138
マネーサプライ 184 141 113 106
銀行貸出金 106 99 85 100
──リチャード・クー著
『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
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添付ファイルを見てください。これは、日本における3つのマ
ネー関連指標の関係を示したグラフです。これによると1994
年までは3つの指標はほぼ同じであったことが読み取れます。
量的緩和については、1990年第1四半期を100とすると
2013年3月の白川日銀総裁の任期終了時で380、黒田総裁
の異次元緩和で505まで一挙に増加しています。つまり、日銀
はこの20年間で、金融システムにおける流動性(資金)を5倍
に増やしています。
しかし、マネーサプライは20年間で84%しか増えず、銀行
の貸出金はほとんど増えていないのです。これらが増えなければ
インフレにもならないし、景気も20年間冷え込んだままの状態
になったのです。
この傾向は、米国も英国もユーロ圏も時期がずれただけで同じ
ような傾向を示しているのです。とくに英国の中央銀行は、リー
マンショック後に、大幅な量的緩和に踏み切り、同行のポール・
フィッシャー氏という幹部は次の暴言を吐いたのです。
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我々は日本のような真似はしない。量的緩和を早く大胆にやっ
て、一気にマネーサプライを増やし、イギリス経済を復活させ
てみせる。 ──リチャード・クー著の前掲書より
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しかし、量的緩和によってマネタリーベースを464まで増や
したものの、マネーサプライはほとんど増えず、銀行の貸出金に
ついては85に減少してしまったのです。この傾向は2013年
央まで続き、その後回復の兆しを見せはじめています。
日本では1990年代にバフルが崩壊し、資産価値の暴落が起
きています。クー氏の理論によると、これにより、マネーフロー
のある企業は借金の返済をはじめ、バランスシート不況に突入し
たということになります。
金利がほぼゼロのときに、多くの企業が資金を調達して事業を
拡大せず、一斉にそれを中止し、借金返済をはじめたら、経済は
2つの需要を失うことになって失速します。
1つは、企業がキャッシュフローを投資に使わなくなったこと
で失われる需要であり、もう1つは、企業部門が家計部門の貯蓄
を借りて使わなくなったことで失われる需要です。これらの需要
が失われ、不況になります。── [消費税増税を考える/26]
≪画像および関連情報≫
●マネタリーベースを増加させると円安になる/竹中正治氏
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本日(2013年)4月6日の日経新聞朝刊に「円安効果を
強く意識企業心理好転に狙い」のタイトルで滝田洋一編集委
員が、ドル円相場に関するソロスチャートを引用して、次の
ように述べている。引用:「日米で出回るおカネの量の比率
を計算し、日本の円が(ドルよりも)余計に増えれば円安、
反対に米国のドルの方が増えればドル安となる――。為替相
場を2つの国の通貨の流通量から読む手法は、投資家のジョ
ージ・ソロス氏が愛用したことから「ソロス・チャート」と
呼ばれる」。「回答はマネタリーベースと呼ばれるおカネの
量を、毎年60兆〜70兆円増やす緩和策。ソロス・チャー
トからはじいた円の適正相場は1年先に1ドル=95円、2
014年末には105〜110円となる。牧野潤一SMBC
日興証券チーフエコノミストはそんな試算を示す」。マネタ
リーベースとは、今回、黒田日銀総裁が「倍増させる」とし
て金融政策の操作目標にしたもので、日銀券の総発行残高+
民間銀行が日銀に保有する当座預金残高の合計値のことだ。
日銀が民間銀行から国債を買い上げて、対価としてマネーを
払うとそのマネーは、民間銀行の日銀当座預金に入金される
ので、マネタリーベースはその分増える。供給される円マネ
ーがドルマネーに対して増えれば、円は相対的にインフレで
価値が目減りするので、その分だけ円安になるというのがソ
ロスチャートの原理だ。 http://bit.ly/1d8pPpp
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●グラフ出典/──リチャード・クー著の前掲書より
バブル崩壊で崩れたマネー関連指標の関係/日本