界の経済を説明するのに最も説得力のある経済理論であると思い
ますが、経済学者や評論家の多くは認めていないのです。
リチャード・クー氏が盛んにテレビに登場していたのは橋本政
権と小渕政権のときだっと思います。そのとき、橋本政権の消費
増税の強行には強く批判し、構造改革についてもその問題点を鋭
く指摘していたのです。
小渕政権以降の財政再建に凝り固まる自民党政権や民主党政権
時では、熱心に財政出動を説くクー氏を嫌って財務省がテレビ局
に圧力をかけたので、クー氏のテレビ出演機会は減り、最近では
ほとんどテレビに出演することはなくなっていたのです。
しかし、自民党では唯一麻生太郎氏だけは、クー氏の理論を認
め、首相になる直前の幹事長時代に「サンデー・プロジェクト」
に出演し、テレビでクー氏の理論に基づく主張をさかんにしてい
たのをよく覚えています。
司会者の「どういう理論か、幹事長、説明してください」とい
う求めに応じ、麻生氏は説明していましたが、それは紛れもなく
クー氏の経済論であったのです。それはクー氏の著作を読んでい
ないと説明できないもので、「麻生氏は経済に関してはよく勉強
している」と感心したものです。
EJでは、リチャード・クー氏と麻生幹事長(当時)のことに
ついて書いたことがありますので、興味があれば、参照していた
だきたいと思います。
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◎2008年9月19日付、EJ第2414号
「財政出動は果たしてバラマキか」 http://bit.ly/1fNfUDY
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リチャード・クー氏の最近刊書のオビによると、バーナンキ前
FRB議長とノーベル経済学賞受賞のクルーグマン教授、オバマ
政権時の国家経済会議(NEC)委員長のサマーズ氏も認めたと
書いてありますが、日本の経済学者や評論家から寡聞にしてクー
理論のことは聞いたことはありません。認めると、自説と整合性
がとれなくなるからだと思われます。経済学の世界は、そういう
ドロドロしたところがあるのです。
リチャード・クー氏自身も最近刊の著書で、麻生氏のことを次
のように書いています。
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この民間がGDP比で8%も貯蓄している事実を知らない内外
の大半のエコノミストや評論家は、これまでも巨額の財政出動
で日本経済は回復しなかったのに、また同じことをやるのかと
この政策を非難しているが、実際は、政府がこのような政策を
とってきたからこそ、民間がこれだけ貯蓄に走ったにもかかわ
らず、日本経済は大恐慌に陥らずに済んだのである。麻生太郎
財務大臣はこの経済の仕組みをよく理解している数少ない政治
家の一人である。安倍首相から経済は頼むと言われて、彼が財
務大臣を務めているのはそういう理由からだ。麻生氏は日本の
民間がゼロ金利下でも巨額な貯蓄をしていることをよくわかっ
ているから、彼自身が総理大臣だった時も今回のアベノミクス
でも、まず財政出動を打ち出したのである。
──リチャード・クー著
『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
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ここでクー氏のいう「民間がGDP比で8%も貯蓄している事
実」が重要なのです。このことは新聞などにも出ないし、発言す
る人はあまりいませんが、事実なのです。ここでいう民間には企
業と個人を意味しています。
ゼロ金利なのに民間が巨額の貯蓄をしているのです。金利がい
くら低くても民間がおカネを借りようとしないのです。それどこ
ろか、企業は借金の返済に注力したのです。バランスシートを修
復しようとしたわけです。
これは、民間の所得循環からおカネが8%ずつ漏れていること
を意味しており、こういうときは政府がその分を政府が借りて、
積極的に使わないと、不況はますます深刻になるばかりです。積
極的な財政出動が必要だということです。
橋本政権以降、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻生と自民党6
政権が続いたのですが、小渕、麻生の2政権を除いて、財政再建
の重しに負けて中途半端な財政出動に終始し、不況を引きずって
しまったのです。これが日本のデフレの原因です。
第1次安倍政権では、構造改革一辺倒で財政がおろそかになり
経済は復活しなかったのです。しかし、今回は「第2の矢」とし
て、財政出動を入れているのは正解です。
実は、日本の企業の場合、2005年頃までに借金返済は終わ
り、バランスシートはきれいになっていたはずです。にもかかわ
らず、人類史上最低の金利でも、企業はおカネを借りようとしな
かったのです。その理由としては次の2つのことがあります。
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1.借金に対する一種のトラウマがある
2.成熟した日本経済に投資機会はない
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第1の「借金に対する一種のトラウマがある」とは、あんな嫌
な思いは二度としたくないという借金に対する心理的な嫌悪感で
す。物理的に借りたくないということではないという点が、民間
のバランスシートが本当に壊れて、債務超過のようになっている
米国、英国、スペインとは大きく異なっています。
第2の「成熟した日本経済に投資機会はない」とは、そういう
傾向は事実であり、政府として手を打つ必要があります。それが
安倍政権が進めようとしている「第3の矢」の成長戦略です。農
業、エネルギー、環境、医療といった「岩盤」に規制緩和という
ドリルを入れてマーケットを開放し、投資機会を作ろうというの
です。 ── [消費税増税を考える/25]
≪画像および関連情報≫
●リチャード・クー氏の麻生総理称賛論/2008/12/16
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麻生首相は、もともと経営者なので、バランスシートの問題
を理解している。借金返済の苦しさもその恐ろしさも理解し
ている。また、民間が債務の最小化に向かっているときは中
央銀行の金融緩和が効かなくなることも分かっている。だか
らこそ、麻生首相は財政出動の必要性を訴えているのだ。し
かも外需が激減した今の日本は、少なくとも真水10兆円の
政府支出の拡大が必要だ。減税をしても、借金返済や貯蓄に
回って景気対策にならないからだ。11月に行われた主要国
と新興国20カ国による緊急首脳会合(金融サミット)でも
麻生首相は日本の経験を訴え、財政出動に反対だった米国の
スタンスを変えた。首脳声明にも財政出動の必要性を明記し
た。麻生首相は極めて重要な日本の成功例を必死で海外に伝
えているのである。海外もようやく日本の成果に気付き始め
日本から学ぼうとしている。以前はあれだけ日本の公共事業
と銀行への資本投入をたたいていた欧米諸国が、今やすべて
これらの政策を採用している。中国も57兆円もの景気刺激
策を決めた。われわれは、ずっと正しいことをやってきたの
だ。麻生首相は国内で、失言したとか、字を読み間違えたと
か、想像もできない低次元の問題でたたかれているが、海外
では中国の胡錦濤主席も米国のブッシュ大統領も必死に麻生
首相の話を聞いて参考にしようとしている。日本の総理の話
がこれだけ世界で注目されたことが過去にあっただろうか。
──12月16日付産経新聞朝刊2面「日本の経験伝え恐慌
防げ」より http://bit.ly/1aIJFbx
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リチャード・クー氏と麻生 太郎氏