2004年02月25日

●明治天皇と西郷隆盛(EJ第1296号)

 オールグレン大尉率いる政府軍は、勝元率いる武士一族と戦い
惨敗を喫してしまいます。そして、オールグレンは捕らえられ、
勝元たちの住む吉野という山村に連れて行かれるのです。
 オールグレンは吉野で軟禁生活を送るうちに、忠義を尽くして
名誉を重んずる武士道精神に強く惹かれていきます。そして、オ
ールグレンは見失ってきた自分の生き方を取り戻し、自らも刀を
手にしてサムライとなって政府軍との戦いに挑む――映画『ラス
トサムライ』の筋はこのようになっています。
 吉野に連行されたオールグレンは、勝元の前に座らされます。
そのシーンの台本は次のようになっています。「氏尾」というの
は真田広之が演ずる武士です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 勝元:名は何と申す?<英語>
 ――オールグレンは勝元を見るが、答えようとしない。この様
 子を見て、氏尾がオールグレンを怒鳴る――
 氏尾:無礼者、答えろ!口がきけんのか、貴様!
 ――オールグレンは身じろぎもせず、見返している。こんな事
 は意志の強さがないとできない。突然、氏尾は刀を抜くと空を
 切る。うなる刀。刀はオールグレンの顔の寸前で止まる!それ
 でもオールグレンは微動だにしない。オールグレンの頬に刃を
 つける氏尾。オールグレンの頬から血が流れる。凍りついたよ
 うに動かないオールグレン。
 勝元:よせ。<日本語>
 ――氏尾は刀をおさめると歩き去る。勝元はオールグレンを凝
 視し、見定めている。
 勝元:ここは息子の村だ。この通りの山奥で冬が近い。とても
    逃げられん。
 ――勝元は歩き去る。信忠(勝元の子)はオールグレンを見て
 微笑む――
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 勝元盛次は、西郷隆盛をモデルにしたとズウィック監督はいっ
ていますが、そうであるとすると映画の後半に展開される壮絶な
戦いは「西南の役」ということになるわけです。
 この西郷隆盛という人物――おそらく日本史に登場するサムラ
イの中で最も尊敬を集めた英雄です。しかし、彼は尊王倒幕派で
ありながら、のちに新政府に反旗を翻らせた人物です。それでい
て、上野公園に銅像が建っている――外国人にとってもっともわ
かりにくい人物とされているのです。
 『明治天皇』(上下巻/新潮社刊)の著者として知られるドナ
ルド・キーンは、西郷隆盛について次のように述べています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  西郷隆盛も(明治)天皇の好きな人物の一人でしょう。ただ
 私をはじめ外国人にとって、西郷隆盛という人物はどうも理解
 しにくい人物です。なぜ日本人にこれほど人気があるのか。日
 本人で彼の名前を知らない人はまずいない。
  たしかに江戸城開城の際は手柄を立てます。しかし、彼のお
 陰で薩摩が立派なところになったとはいえない。にもかかわら
 ず、彼の銅像が上野公園に建っているのは不思議なことです。
 西郷は反乱を起こし官軍と戦ったわけですから、外国人の理解
 からすれば、まずもって国賊です。九州の戦場跡をまわったあ
 る英国人などは、どうして彼が偉いと思われているのか分から
 ないと書いている。若いときは別として、私も後年の彼の行動
 についてはあまり感心できません。彼の書いた漢詩もそれほど
 魅力的ではない。          ――ドナルド・キーン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ドナルド・キーンが述べているように、明治天皇は西郷隆盛を
かなり信頼していたのです。もし、そうでなければ、もっと早く
西郷率いる賊軍を絶滅せよと命じたはずです。しかし、実際には
明治天皇がなかなか決断しなかったのは、長く側近として仕えた
臣下の心中を思いやり、決断が下せなかったのでしょう。
 もうひとつ、明治天皇がいかに西郷が好きであったかを示すエ
ピソードがあります。それは、西郷の死の翌日、天皇は美子皇后
に西郷について歌を詠むよう命じています。天皇の求めに応じて
皇后が詠んだ歌です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      薩摩潟しづみし波の浅からぬ
           はじめの違ひ末のあはれさ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 さらにもうひとつ。明治35年に天皇は特別大演習総監のため
熊本を訪れているのですが、列車が田原坂を通過するとき、天皇
自ら次の歌を詠んでいます。田原坂というのは、官軍と西郷軍の
激戦地なのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      もののふのせめ戦いし田原坂
           松もおい木になりにけるかな
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 西郷隆盛は「参議」を務めています。天皇に対して意見を述べ
ることができる高い地位です。しかし、新政府側と西郷隆盛の意
見の対立はなかなか溝が埋まらなかったのです。すなわち、急速
な近代化が必要であるとする政府側に対して、保守的な西郷は、
もっと伝統を重んじて欲しいと反対したのです。
 しかし、新政府との対立の溝が埋まらないのに業を煮やした西
郷は、「二度と官職にはつかない」と明治天皇に告げて、鹿児島
に帰って隠遁生活を送ろうとします。この時点では、西郷として
は、反乱を起こす気はなかったと思うのです。
 しかし、政府軍は西郷の行動に疑心暗鬼に陥ったのです。当時
鹿児島には政府所管の武器庫があり、西郷にこれを使われてはと
政府はその武器庫を他県に移送しようとしたのです。それを西郷
が設立した私学校の生徒が強奪したことが引き金となって、戦争
が起こるのです。これが西南の役です。
               −− [ラストサムライ/03]

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posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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