2014年02月04日

●「幸運に恵まれていたアベノミクス」(EJ第3723号)

 アベノミクスが成功しつつあるように見えるのは、いくつもの
幸運が重なっているからです。何といっても最大の幸運であった
のは、2012年秋以降に米国の長期金利の低下が底を打って、
上昇に転じた時期に政権が安倍政権に交代し、アベノミクスが実
施され、異次元の金融緩和が行われたことです。
 アベノミクスがスタートして最初の5ヶ月は非常に順調だった
のです。しかし、2013年5月に米バーナンキFRB議長によ
る金融緩和縮小宣言によって、状況は一変して円高になり、日経
平均は一時1000円近く下落したのです。
 しかし、これが原因で米国の長期金利は上昇基調になり、日本
経済は前のトレンドに復帰したのです。これは安倍政権にとって
第2の幸運であったといえます。この株価上昇ムードに乗って、
安倍政権は参院選でも圧勝したからです。
 安倍首相はその後、2020年のオリンピックの招致にも成功
し、その強運ぶりを見せつけることになります。その勢いに乗っ
たのか、安倍首相は2013年10月1日に、2014年4月か
らの消費税増税を決断し、公表しています。経済の再生に自信を
持ったからこそこの決断をしたと思われます。
 ここまでは、植草一秀氏の主張をベースに述べてきていますが
植草氏と同じように安倍首相は幸運であったといっている人がい
ます。それは、野村総合研究所主席研究員でチーフエコノミスト
のリチャード・クー氏です。クー氏は、久しぶりに昨年末に著書
を上梓して、そこでアベノミクスについて論じています。
 EJでは、リチャード・クー氏の経済論を2回にわたって取り
上げています。クー氏は昨年末の近著において、アベノミクスの
最初の5ヶ月間を「ハネムーン」と呼び、そこには幸運なコンビ
ネーションが働いているといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
  一部の人たちはこの変化を見て、アベノミクスは理論通りに
 機能したと発言しているが、実際にその内容を詳しく見てみる
 と、実は非常に幸運なコンビネーションが作用して、こういう
 世界がもたらされていた。この円安と株高を演出したのは日本
 の投資家ではなく、海外の投資家だったからだ。実際に、20
 12年12月から2013年10月までの期間で外国人投資家
 は12.2 兆円もネットで日本株を買い越したが、日本の投資
 家は個人が522兆円の売り越しで、金融機関も6.5 兆円の
 売り越しになっているのである。
  海外の投資家、特にニューヨークのヘッジファンドが、アベ
 ノミクスの発表を受けて巨額な資金を日本に移してきた。彼ら
 は円を売って日本株を買うという大きな行動に出たが、その間
 日本経済のことをよく知っている国内の投資家、特に機関投資
 家の大半はそれに乗らず、国内の債券市場にずっととどまって
 いた。日本をよくわかっている投資家は債券市場にいて、海外
 の投資家は円売り、株買いに向かったのである。
                  ──リチャード・クー著
       『バランスシート不況下の世界経済』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
 クー氏の指摘は、現在日経平均を押し上げているのは、海外の
投資家であって、日本の投資家、それも銀行や生保会社などの機
関投資家の大半はそれに乗らず、国内の債券市場にとどまってい
るというのです。これなら、長期金利は低位に安定し、上がるは
ずがないのです。
 一方、昨年末まで海外の投資家、とくにニューヨークのヘッジ
ファンドの連中は、ユーロ危機に賭けていたのです。つまりユー
ロが崩壊するという方向に賭けていたわけです。英米のマスコミ
が次のニュース一斉に伝えていたからです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       ユーロの崩壊は時間の問題である
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、マリオ・ドラギ欧州中銀総裁は「必要な措置は何でも
取る」と明言し、ユーロの崩壊は起こらなかったのです。そのと
き彼らは日本には何の関心もなかったのですが、安倍首相の次の
は発言に注目したのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 インフレ・ターゲットを設定して、一気に大胆な金融緩和を
 実施する。              ──安倍晋三首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 ヘッジファンドたちは、ユーロの国債市場で追い詰められてお
り、起死回生を狙って安倍首相のこの発言に飛びついたのです。
日本の首相がこれほど明確に「インフレ・ターゲット」を口にす
ることはなかったし、何かが変わると期待したからです。
 クー氏は、「もし、彼らがユーロで追い詰められていなかった
ら、あれほどアベノミクスに反応しなかったであろう」といって
います。彼らは切羽詰まっていたのです。そして彼らは円を売り
日本の株を買いまくったのです。これによって、「円安/株高」
になり、ハネムーンがもたらされたというわけです。
 しかし、ここにきて市場に異変が起きています。1月27日か
らの週は、日経平均は凄まじい乱高下を繰り返しています。それ
に外人投資家の売買動向がおかしいのです。昨年までは13兆円
の「買い越し」だったのに、1月に入ると、3週連続で「売り越
し」ています。投資顧問会社のエフピーネットの松島修代代表は
次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 短期売買で利益を得ようとする投資家の売りだったら、相場の
 持ち直しはあるでしょうが、年金基金など長期投資を前提にす
 る海外ファンドの売りだとしたら、海外勢が本格的に日本市場
 から逃げ出し始めたと判断できます。
       ──2014年1月31日発行「日刊ゲンダイ」
―――――――――――――――――――――――――――――
             ── [消費税増税を考える/21]

≪画像および関連情報≫
 ●相場牽引力を失っているアベノミクス/斎藤洋三氏
  ―――――――――――――――――――――――――――
  名目国内総生産(GDP)が470―480兆円程度で横ば
  いに推移する中で、需要と潜在的な供給力の差を示す需給ギ
  ャップ(GDPギャップ)は、内閣府の発表によれば、13
  年7―9月期でマイナス1.6%(名目年率8兆円程度の需
  要不足)と、09年1―3月期のマイナス8.1%(同40
  兆円程度)から大幅に改善しているが、需要不足による物価
  下落の圧力が依然根強いことを物語っている。このような需
  給ギャップは主に国債増発による公共事業により対処されて
  きたことから、国債と借入金などを合計した国の債務残高は
  90年代後半の400兆円台から膨れ上がり、14年3月末
  には1100兆円を超える見込みだ。一方、内閣府の「国民
  生活に関する世論調査」(13年6月調査)によると、現在
  の生活に満足している人は前年の67.3%から71.0%
  へ上昇し、95年以来の70%越えとなった。また、14年
  の春季労使交渉が始まり、経団連は6年ぶりにベースアップ
  を容認する見込みだ。これらの点はアベノミクス効果が国民
  生活へ浸透しつつある現れと高く評価する向きがある。しか
  し、国税庁が実施している「民間給与実態統計調査」(12
  年分)によれば1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与
  は408万円と、97年の467万円以来の減少傾向に大き
  な変化は見られない。さらに、厚生労働省の「毎月勤労統計
  調査」によれば、11月の実質賃金指数は、前年比マイナス
  1.4%と5カ月連続で低下している。消費者物価の上昇に
  対して、実質賃金そして家計は一段と圧迫されていることを
  示している。           http://bit.ly/1j0JCe1
  ―――――――――――――――――――――――――――

リチャード・クー氏の近著.jpg
リチャード・クー氏の近著
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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