2014年01月31日

●「2014年はマイナス成長になる」(EJ第3721号)

 共同通信社の実施した世論調査によると、安倍政権の支持率は
55.9 %と相変わらず高止まりしています。この高支持率は何
といってもアベノミクスによる円安/株高が支えていると思われ
ます。つまり、安倍政権の支持率は株価が支えているといっても
過言ではないのです。
 問題は、どうして株価が上昇したかということについて、安倍
首相自身がどこまで正しく理解しているかです。なぜなら、その
理解のレベルによって、今後起こり得る株価の下落とともに政権
の支持率も急降下しかねないからです。
 懸念されるのは、安倍首相の施政方針演説の中身があまりにも
自画自賛に終始し、楽観的であり、空疎であったからです。それ
に加えて懸念されることは、週明けから連続して日経平均株価が
下落していることです。世界同時株安や新興国の通貨下落が原因
で、円高/株安が起きているのです。
 これは、中国が震源地であり、場合によっては中国発の金融破
綻が起きる可能性があります。そのひとつのきっかけが、シャド
ウ・バンキング(影の銀行)を通じて販売された金融商品の一つ
が、本日31日に満期を迎え、デフォルトを引き起こす可能性が
あるからです。中国は社会主義の国ですから、何とか防ごうとす
るでしょうが、これが蟻の一穴になって、中国経済の信用不安が
噴出する恐れがあるのです。
 多くの専門家が中国経済の破綻リスクについて警鐘を鳴らして
いますが、中国経済の的確な分析で知られる企業文化研究所理事
長の勝又壽良氏は、最近の中国経済について、次の指摘を行って
います。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国経済はすでに借金まみれになっており、影の銀行問題が破
 裂すれば、一巻の終わりだ。生産能力が過剰な企業で債務リス
 クが発生する確率は極めて高く、「沈没」の危険に見舞われて
 いることが、白日の下にさらされつつある。
         ──2014年1月27日付、「夕刊フジ」
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういうときに日本は、消費税の税率を5%〜8%に上げるこ
とを決めています。実はこれについてもうひとつ不安な予測があ
るのです。それは、早大ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀
雄氏の分析によるものです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 消費増税の影響力を考えなくても、2014年度はマイナス成
 長になる。               ──野口悠紀雄氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 2013年の7〜9月期の実質GDP成長率は1.1 %でした
が、これには公共投資の寄与度が1.2 %あり、公共投資に支え
られたものであったのです。
 ところが、2014年度の公共投資が前年比マイナスになるの
です。「15ヶ月予算」で見ると、2014年度の公共事業予算
は前年度よりも3兆円下回ります。もちろん政府もそのことは承
知しているのですが、アベノミクスの効果を実際よりも高く判断
し、設備投資や輸出について、野口氏の言葉を借りると、「非現
実的なほど高い成長率が仮定されている」といっているのです。
 もし、こんなときに消費税の増税をすると、日本経済は「奈落
の底に落ちる」ことになります。なぜなら、税率を8%に引き上
げると、名目GDPは14.7 兆円減少してしまうのです。これ
は年率に換算すると、マイナス3%に匹敵します。
 確かにアベノミクスという名の金融緩和によって、株価は引き
上げられ、円安によって輸出企業の利益を一時的に膨らませるこ
とに成功していますが、輸出数量は2.6 %減少しています。こ
れでは設備投資は増大しないし、雇用も賃金も増えないのです。
 そもそもアベノミクスによってなぜ株価は上昇したのでしょう
か。植草一秀氏によると、安倍首相は「1つの正しいことと2つ
の幸運」に恵まれたといっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   1.前任者の経済運営が最悪であったという幸運
   2.経済運営の基本姿勢は正しかったという評価
   3.米国長期金利が上昇波動を描いたという幸運
                      ──植草一秀著
   『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』から/ビジネス社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の幸運は、前任者である野田政権の政権運営、とくに経済
運営が最悪であったことです。こういう前任者に恵まれると、後
任者はトクをします。まして安倍首相は2回目の首相就任であり
政権運営に慣れており、それだけでも大きな差がついてしまった
のです。財務省に洗脳され、国民を裏切り、やる必要のない消費
税増税を成し遂げることに全力を上げたのが菅、野田政権だった
のです。これには自民党にも大きな責任があります。
 ただ、安倍首相が就任直後に日銀総裁を黒田総裁に交代させ、
大胆な金融政策(第1の矢)──インフレ目標を導入し、デフレ
脱却を目指したことと、さらに大型補正予算編成を推進し、その
金融政策に合わせて財政政策を実施に移したこと(第2の矢)は
評価に値します。「何よりも経済を優先する」姿勢が明確に見え
たからです。
 しかし、これは国の経済立て直しの政策としては、いろはのい
なのです。その当たり前のことをこれまでの政府は中途半端にし
かやれなかったのを安倍政権はセオリー通りやったことが評価さ
れるのです。
 ただ、金融緩和については、これまでの政権でもかなりの量を
日銀はやっているのですが、成果が出ていないのです。それがな
ぜ今回はうまくいったのでしょうか。それは、安倍氏の力の及ば
ないところで、米国の長期金利が上昇波動を描くという幸運に恵
まれたからです。これが第2の幸運ですが、詳しくは来週のEJ
で説明します。      ── [消費税増税を考える/19]

≪画像および関連情報≫
 ●安倍首相の施政方針演説/2014年1月24日
  ―――――――――――――――――――――――――――
  第186通常国会が24日召集され、安倍晋三首相は午後の
  衆参両院本会議で施政方針演説を行った。今国会を「好循環
  実現国会」と位置付け、4月の消費税増税対策について「経
  済対策により持続的な経済成長を確保する」と力説。経済再
  生と財政再建の両立させる決意を示した。第2次安倍政権発
  足後の国会演説としては「集団的自衛権」の文言を初めて明
  確に使用するなど、首相が意欲を示す「積極的平和主義」の
  意義も強調した。首相は演説で成長戦略について、成長著し
  い新興国へのインフラ投資に官民一体で取り組む「インフラ
  輸出機構」創設を表明。イノベーション(技術革新)にも力
  を入れるため、新たな研究開発法人制度を新設、「経済社会
  を一変させる挑戦的な研究開発を支援する」と打ち出した。
  外交・安全保障政策では「積極的平和主義」を掲げ、日米同
  盟を基軸に世界の平和と安定に貢献する方針を強調。首脳会
  談を拒む中国や韓国とは関係改善に努める考えを示した。中
  国による防空識別圏の設定や尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺
  の領海侵犯には「力による現状変更の試みは決して受け入れ
  ることはできない」と牽制(けんせい)した。
                 http://on-msn.com/1f5JqUW
  ―――――――――――――――――――――――――――

野口悠紀雄氏.jpg
野口 悠紀雄氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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