安全を揺るがす許し難い犯罪ですが、犯人の動機は「企業への不
満」にあるといいます。
事件が発生したアクリフーズ群馬工場で作業する従業員のほと
んどは「契約社員」であり、雇用は6ヶ月ごとの更新制です。最
近になって、早番と遅番の社員に支給されていた手当とボーナス
が廃止され、大幅な減収になっており、従業員の不満が高まって
いたというのです。もし、会社側に抗議すると、会社側は次の更
新をしないので、文句がいえないのです。
ここにも雇用に関する規制緩和の悪影響が出ており、事件が起
きた根底には、不正規雇用制度があります。この制度の下では、
企業は利益を追求するためなら従業員の給与を一方的に削減する
ことができるのです。こんなことをしていたら、世界に誇る日本
製品の信頼は地に落ちてしまいます。
しかし、安倍政権はこの雇用の自由化については執念を持って
推し進めようとしています。「雇用特区」はそれを具体化する手
段のひとつなのです。その目的は、企業を儲けさせる──サプラ
イサイドを強化することです。法人税の減税も企業、それも一握
りの大企業を儲けさせる政策です。
しかし、それでは国民の生活はどうなるのでしょうか。企業だ
けが儲かっても国民の生活は豊かにならず、国民の幸せには結び
つかないのです。これに対して、安倍首相や甘利経済再生相は、
企業の利益が増大すれば、それはやがては従業員の給与の増額と
いうかたちで反映されると強調しています。彼らの考え方は「法
人優遇/個人冷遇」なのです。
安倍首相や甘利経済再生相のこの発言は、「トリクルダウン理
論」に基づいています。これは米国の新自由主義者の間でよく使
われるレトリックであり、安倍首相や甘利経済再生相はこの考え
方に立って発言しています。
それでは「トリクルダウン理論」とはどのような考え方なので
しょうか。ネットの「証券投資用語辞典」を引くと、次の解説が
あります。
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トリクルダウン理論では、いかに大企業が経済活動をしやすい
ような方策を提供することができるかが、国民全体の経済状況
の引き上げにつながると主張している。大企業が経済活動をし
やすくなれば、景気が活況を呈し、結果的には国民全体の利益
が再配分されるという経済思想である。
http://bit.ly/1eTHSyM
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要するに、「金持ちを儲けさせれば貧乏人にもおこぼれがあず
かれる」ということであり、「おこぼれ理論」と揶揄されている
のです。
2013年11月26日に、ローマ教皇フランシスコは、使徒
的勧告「エヴァンジェリ・ガウディウム(福音の喜び)」を公布
しましたが、そのなかでこのトリクルダウン理論を批判していま
す。ローマ教皇が資本主義を批判することは異例のことですが、
なぜか新聞ではそのことが大きく取り上げられていないように思
われます。
そこで、2013年12月3日付の「赤旗」から、その重要部
分を引用します。
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どうして高齢のホームレスが野ざらしにされて死亡すること
がニュースにならず、株式市場が2ポイント下がっただけで、
ニュースになるのか。飢えている人がいる一方で食べ物が廃棄
されているのが見過ごし続けられるのか。
市場にまかせればすべてうまくいくという「トリクルダウン
(おこぼれ)理論」は、事実によって裏付けられたことは一度
もない。経済力を振るう人々は善良で、支配的な経済制度の働
きは神聖だと未熟で単純に信頼するものだ。
少数の所得が急上昇する一方で、多数を繁栄から切り離す格
差も広がっている。市場と金融投機の絶対的な自立を守ろうと
いうイデオロギーであり、それが国家による支配を拒絶する新
たな専制体制を生み出している。
あくなき利潤追求に潜んでいるのは「道徳と神の拒絶」であ
り、金融の専門家や政府指導者には、自らの富を貧しい者と分
かち合わないのは、貧しい者から盗み、彼らの生活を奪うのに
等しい。 ──2013年12月3日付「赤旗」より
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これは、現在の資本主義に対する痛烈な批判です。安倍首相に
はぜひ読んでいただき、自分が何をしようとしているのか、よく
考えて欲しいものです。
現在のグローバリズムの世界では資本移動の自由化が実現して
おり、投資家や企業家は国内に投資しない自由があるのです。そ
のため、余裕のある企業まで国内投資を増大させず、対外直接投
資や内部留保を増やそうとしています。貧乏人には何も還元され
ず、格差を拡大させるだけなのです。
これまでの自民党政権で、新自由主義的経済理論を持つ小泉・
竹中路線によって、雇用に関する規制が撤廃され、不正規雇用が
拡大したのです。これによって、多くの国民が安定した職を失い
中流階層が減少して格差が拡大する結果を生んでいます。
民主党による政権交代はそういう経済の歪みを修正する絶好の
機会だったのです。しかし、民主党政権はその期待に何ら応える
ことができず、またしても自民党政権に戻してしまったのです。
そして、安倍政権が誕生し、またしても竹中平蔵氏を擁して新
自由主義的政策を推進させようとしています。竹中氏は、国家戦
略特区法を駆使して、またしても雇用の規制をさらに自由化し、
正職員まで解雇できるようにし、企業をさらに富ませようとして
いるのです。既に法律は制定されており、実行計画もできている
のです。 ── [消費税増税を考える/17]
≪画像および関連情報≫
●解雇特区をごり押しする政治の論理と常識への疑念
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このコラムが掲載されるときには、いったいどんな議論がな
されているのだろうか?キーワードは「解雇」。それとペア
で登場しているのが成長であり、流動性。はい、そうです。
臨時国会が開幕してから、毎日のように賛成派と反対派の、
全くかみ合わない議論が報道された「雇用特区」構想につい
てである。雇用特区を巡っては一部メディアの記者は、「こ
んなものを許したら、『遅刻をすれば解雇』といった条件で
契約し、実際に遅刻をすると解雇できる」と攻撃。民主党の
海江田万里代表も、「働く者を使い捨てにする企業を大量生
産する『解雇特区』など断じて認められない」と、“解雇”
にこだわった。一方、安倍晋三首相は「『解雇特区』といっ
たレッテル張りは事実誤認で、不適切。基本方針は成熟産業
から成長産業への失業なき円滑な人材移動」と反論。自民党
副幹事長の河野太郎衆院議員もブログで、「解雇のルールを
明確にすれば新産業の育成や海外企業の活動がすすむ。『強
い立場の企業が弱い労働者に不利な条件を強要する』と懸念
する声があるが限定された専門的な人材が対象であり、こう
した人材がそもそも弱い立場の労働者だろうか」と記してい
る。 http://nkbp.jp/1dFpaqJ
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教皇フランシスコ