2014年01月29日

●「ローマ法王による新自由主義批判」(EJ第3719号)

 マルハニチロHDの冷凍食品へのマラチオン混入事件は、食の
安全を揺るがす許し難い犯罪ですが、犯人の動機は「企業への不
満」にあるといいます。
 事件が発生したアクリフーズ群馬工場で作業する従業員のほと
んどは「契約社員」であり、雇用は6ヶ月ごとの更新制です。最
近になって、早番と遅番の社員に支給されていた手当とボーナス
が廃止され、大幅な減収になっており、従業員の不満が高まって
いたというのです。もし、会社側に抗議すると、会社側は次の更
新をしないので、文句がいえないのです。
 ここにも雇用に関する規制緩和の悪影響が出ており、事件が起
きた根底には、不正規雇用制度があります。この制度の下では、
企業は利益を追求するためなら従業員の給与を一方的に削減する
ことができるのです。こんなことをしていたら、世界に誇る日本
製品の信頼は地に落ちてしまいます。
 しかし、安倍政権はこの雇用の自由化については執念を持って
推し進めようとしています。「雇用特区」はそれを具体化する手
段のひとつなのです。その目的は、企業を儲けさせる──サプラ
イサイドを強化することです。法人税の減税も企業、それも一握
りの大企業を儲けさせる政策です。
 しかし、それでは国民の生活はどうなるのでしょうか。企業だ
けが儲かっても国民の生活は豊かにならず、国民の幸せには結び
つかないのです。これに対して、安倍首相や甘利経済再生相は、
企業の利益が増大すれば、それはやがては従業員の給与の増額と
いうかたちで反映されると強調しています。彼らの考え方は「法
人優遇/個人冷遇」なのです。
 安倍首相や甘利経済再生相のこの発言は、「トリクルダウン理
論」に基づいています。これは米国の新自由主義者の間でよく使
われるレトリックであり、安倍首相や甘利経済再生相はこの考え
方に立って発言しています。
 それでは「トリクルダウン理論」とはどのような考え方なので
しょうか。ネットの「証券投資用語辞典」を引くと、次の解説が
あります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 トリクルダウン理論では、いかに大企業が経済活動をしやすい
 ような方策を提供することができるかが、国民全体の経済状況
 の引き上げにつながると主張している。大企業が経済活動をし
 やすくなれば、景気が活況を呈し、結果的には国民全体の利益
 が再配分されるという経済思想である。
                   http://bit.ly/1eTHSyM
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに、「金持ちを儲けさせれば貧乏人にもおこぼれがあず
かれる」ということであり、「おこぼれ理論」と揶揄されている
のです。
 2013年11月26日に、ローマ教皇フランシスコは、使徒
的勧告「エヴァンジェリ・ガウディウム(福音の喜び)」を公布
しましたが、そのなかでこのトリクルダウン理論を批判していま
す。ローマ教皇が資本主義を批判することは異例のことですが、
なぜか新聞ではそのことが大きく取り上げられていないように思
われます。
 そこで、2013年12月3日付の「赤旗」から、その重要部
分を引用します。
―――――――――――――――――――――――――――――
  どうして高齢のホームレスが野ざらしにされて死亡すること
 がニュースにならず、株式市場が2ポイント下がっただけで、
 ニュースになるのか。飢えている人がいる一方で食べ物が廃棄
 されているのが見過ごし続けられるのか。
  市場にまかせればすべてうまくいくという「トリクルダウン
 (おこぼれ)理論」は、事実によって裏付けられたことは一度
 もない。経済力を振るう人々は善良で、支配的な経済制度の働
 きは神聖だと未熟で単純に信頼するものだ。
  少数の所得が急上昇する一方で、多数を繁栄から切り離す格
 差も広がっている。市場と金融投機の絶対的な自立を守ろうと
 いうイデオロギーであり、それが国家による支配を拒絶する新
 たな専制体制を生み出している。
  あくなき利潤追求に潜んでいるのは「道徳と神の拒絶」であ
 り、金融の専門家や政府指導者には、自らの富を貧しい者と分
 かち合わないのは、貧しい者から盗み、彼らの生活を奪うのに
 等しい。     ──2013年12月3日付「赤旗」より
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、現在の資本主義に対する痛烈な批判です。安倍首相に
はぜひ読んでいただき、自分が何をしようとしているのか、よく
考えて欲しいものです。
 現在のグローバリズムの世界では資本移動の自由化が実現して
おり、投資家や企業家は国内に投資しない自由があるのです。そ
のため、余裕のある企業まで国内投資を増大させず、対外直接投
資や内部留保を増やそうとしています。貧乏人には何も還元され
ず、格差を拡大させるだけなのです。
 これまでの自民党政権で、新自由主義的経済理論を持つ小泉・
竹中路線によって、雇用に関する規制が撤廃され、不正規雇用が
拡大したのです。これによって、多くの国民が安定した職を失い
中流階層が減少して格差が拡大する結果を生んでいます。
 民主党による政権交代はそういう経済の歪みを修正する絶好の
機会だったのです。しかし、民主党政権はその期待に何ら応える
ことができず、またしても自民党政権に戻してしまったのです。
 そして、安倍政権が誕生し、またしても竹中平蔵氏を擁して新
自由主義的政策を推進させようとしています。竹中氏は、国家戦
略特区法を駆使して、またしても雇用の規制をさらに自由化し、
正職員まで解雇できるようにし、企業をさらに富ませようとして
いるのです。既に法律は制定されており、実行計画もできている
のです。         ── [消費税増税を考える/17]

≪画像および関連情報≫
 ●解雇特区をごり押しする政治の論理と常識への疑念
  ―――――――――――――――――――――――――――
  このコラムが掲載されるときには、いったいどんな議論がな
  されているのだろうか?キーワードは「解雇」。それとペア
  で登場しているのが成長であり、流動性。はい、そうです。
  臨時国会が開幕してから、毎日のように賛成派と反対派の、
  全くかみ合わない議論が報道された「雇用特区」構想につい
  てである。雇用特区を巡っては一部メディアの記者は、「こ
  んなものを許したら、『遅刻をすれば解雇』といった条件で
  契約し、実際に遅刻をすると解雇できる」と攻撃。民主党の
  海江田万里代表も、「働く者を使い捨てにする企業を大量生
  産する『解雇特区』など断じて認められない」と、“解雇”
  にこだわった。一方、安倍晋三首相は「『解雇特区』といっ
  たレッテル張りは事実誤認で、不適切。基本方針は成熟産業
  から成長産業への失業なき円滑な人材移動」と反論。自民党
  副幹事長の河野太郎衆院議員もブログで、「解雇のルールを
  明確にすれば新産業の育成や海外企業の活動がすすむ。『強
  い立場の企業が弱い労働者に不利な条件を強要する』と懸念
  する声があるが限定された専門的な人材が対象であり、こう
  した人材がそもそも弱い立場の労働者だろうか」と記してい
  る。              http://nkbp.jp/1dFpaqJ
  ―――――――――――――――――――――――――――

教皇フランシスコ.jpg
教皇フランシスコ
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。