2014年01月17日

●「第1の矢と第2の矢は正しい政策」(EJ第3711号)

 国の経済をよくするために、何をどのようにすればよいか──
これに対して正しい答えを出すのは、「経済学」ということにな
ると思います。しかし、経済学の考え方には、いろいろあり、経
済学によって、国の経済をよくするための方策がまるで異なるこ
とはいくらでもあるのです。
 自然科学においては原理は動きませんが、経済は生き物であっ
てつねに動いており、人間自体もそれぞれ自らの行動原理によっ
て動いています。そういう人間が複雑に絡み合い、集合体を形成
している社会も市場もまた動いています。そこに原理らしいもの
を確立するのはきわめて困難なことです。
 国家を統治するトップである内閣総理大臣は、そのいろいろあ
る経済学の考え方に基づいて政策を進言する多くの補佐官の意見
を聞いて、自ら方策を決断する必要があります。総理自身がしっ
かりとした経済についての考え方を持っていないと、正しい方策
を判断できなくなります。
 ところで経済学において米国は世界を牛耳っています。その証
拠に、2010年までに、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者
66人中51人が米国人であり、米国以外の学者は15人しかい
ないのです。しかも、この15人のほとんどは米国で生活し、米
国人と変わらない人たちばかりなのです。このようにこの学問分
野では米国が世界を圧倒しているのです。
 現在一番力を持ちつつある経済理論は「新古典派経済学」であ
るといわれています。
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  2013年11月現在、1匹の魔物が世界を徘徊している
                      ──三橋貴明著
 『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
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 その魔物とは何か。それは「新古典派経済学」という経済学な
のです。新古典派経済学とは、経済に関する国家の関与をできる
限り減らし、市場原理に委ねることによって経済は成長するとい
う考え方です。
 この経済に対するこの考え方が、リーマンショックを引き起こ
したし、ユーロの没落を招いているのですが、一向にそれを認め
ようとせず、世界中に経済に関するこの考え方を広げようとして
います。日本にもこの考え方に立つ人はたくさんおり、安倍首相
のアドバイザーのなかにもたくさんいるのです。
 安倍首相が進めるアベノミクスを例にとって考えてみることに
します。安倍首相は、首相に就任するや、第1の矢と第2の矢を
を矢継ぎ早やに打ち出し、就任後1年を経過してそれなりの成果
を上げたといえます。
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    第1の矢 ・・・・・ 量的緩和(金融政策)
    第2の矢 ・・・・・ 財政活動(財政政策)
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 アベノミクスの最大の目標は、デフレから脱却することです。
そのための政策としては、第1の矢と第2の矢の政策は経済運営
としては正しいし、定量的な裏付けもあり、実際にそれによって
日本経済は円安になり、株価は上昇し、経済に活況をもたらしつ
つあります。
 これは、経済に関してはほとんど何ら有効な手を打てなかった
民主党政権とは大きく違います。安倍首相は2回目の首相であり
前回の反省に立ってやるべきことを次々と、しかもスピーディー
に実施に移していて見事であるといえます。
 定量的な裏付けの一つとして安倍首相は、2013年1月に日
銀と政策協定を結び、3月20日に日銀総裁になった黒田東彦氏
は次のように明言しています。
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 マネタリーペースを1年間で60兆〜70兆ずつ増やし、20
 12年末のマネタリーベース残高138兆円を、14年度末ま
 での2年間で2倍の270兆円にする。そして物価目標で2%
 のインフレを実現する。       ──黒田東彦日銀総裁
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
      『これから日本と世界経済に起こる7つの大激変』
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 黒田日銀総裁の宣言は、前任者の白川総裁の発言が終始曖昧な
表現だったのと対照的に、数値目標を前面に出してきわめて具体
的であり、市場に強いインパクトを与えるのに成功しています。
これが第1の矢です。
 第2の矢としての財政政策は、2013年2月に約10兆円の
平成24年度の補正予算、5月には平成25年度予算92兆61
15億円を成立させています。目標は「国土強靭化」、具体的に
は、東日本大震災などをふまえて災害に強い国土づくりの建設に
10年間で200兆円規模のインフラ整備などに集中投資すると
いう大プロジェクトが動き出すことになると思われます。
 これら第1の矢と第2の矢が定量的であるのに対して、第3の
矢はきわめて抽象的であり、いまだに具体的に見えてきていない
のです。第3の矢の目的は、第2の矢の財政出動の効果をより即
効性のあるものにする成長戦略にあります。安倍首相は、この成
長戦略を担当させる大臣、経済再生相を新設し、甘利明氏を任命
しています。成長戦略については次の2つの側面があります。
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      第1の側面:海外向け政策
       ・水道や原発、郵便システムの輸出など
      第2の側面/国内産業政策
       ・国家戦略特区、新産業育成など
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1の側面は、安倍首相自らのトップセールスによって成果を
上げていますが、第2の側面については大いに問題があります。
来週考えます。      ── [消費税増税を考える/09]

≪画像および関連情報≫
 ●「アベノミクス悲観論」/伊藤元重氏
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  どのような政権の政策でも、それを好意的に受け止める勢力
  と、それを批判的に見る勢力がある。国民の支持率が高いと
  はいっても、アベノミクスを批判的に見る人たちも少なくな
  い。安倍内閣の発足当時は、大胆な金融政策に対する批判の
  声を多く聞いた。「あまりに乱暴な金融緩和策を行えば、日
  本は深刻なインフレになって大変なことになる」「政府が大
  量に国債を購入することは、財政規律を損なうことになる。
  近い将来、国債価格の暴落が心配だ」「金融緩和策だけでデ
  フレを脱却しようとすれば、物価が上がるだけで国民の生活
  はけっしてよくならない。悪性のインフレよりもデフレのほ
  うがまだましだ」「金融緩和で一時的に株価や為替レートを
  動かしても、それは持続的な経済回復にはつながらない。半
  年もすれば日本経済は失速するだろう」・・・。以上、今年
  の初めごろによく聞こえてきた、アベノミクスへのいくつか
  の批判を列挙してみた。今でもこうした主張を続けている人
  がいないわけではない。ただ、最近はこうした批判がめっき
  りと減った。アベノミクスがスタートしてからもう少しで1
  年。日本経済の回復ぶりは多くの人が想定した以上に順調な
  ものである。当初聞かれたアベノミクス批判は影が薄れてし
  まったのだ。ただ、批判勢力は常に次の批判の種を求めるも
  のだ。最近は、第一の矢よりも第三の矢への批判が多くなっ
  てきた。             http://bit.ly/KgCxX8
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三橋貴明著『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』.jpg
三橋 貴明著『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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