費税を上げる2014年4月以降の経済の落ち込みです。これに
ついては、誰でも知っている今回のケースと酷似している格好の
事例があるのです。いうまでもなく、17年前の1997年、橋
本政権が消費税の税率を3%から5%に上げた後の急激な経済の
落ち込みです。
このケースと今回のケースが酷似しているのは、当時の橋本首
相も安倍首相も消費増税法を決めたのは、自分の内閣のときでは
ないという点です。橋本首相の場合は、村山内閣のときに決めた
スケジュールにしたがって実行したのに対し、安倍首相の場合は
野田内閣が主導して、民主党、自民党、公明党の3党合意で増税
法案を成立させている点です。
村山内閣は、自民党、日本社会党、新党さきがけの3党による
自社さ連立政権です。このとき、増税の必要性を説いたのは、当
時新党さきがけの党首だった武村正義蔵相だったのです。橋本政
権での増税失敗を論ずる人は多いですが、その原因を作ったのが
武村正義氏であったことを知る人は少ないのです。
これについて、経済評論家の三橋貴明氏は、近著で次のように
書いています。
―――――――――――――――――――――――――――――
1995年、武村蔵相(当時)は、11月国会において事実
上の財政危機宣言を行い、消費税増税路線が事実上のコンセン
サスを得ることになった。そういう意味で、橋本首相は間違っ
た情報に踊らされ、致命的なミスを犯したわけで、正直、気の
毒である。その武村蔵相が1996年、橋本政権の成立直前、
「このままでは国が滅ぶー私の財政再建論」という刺激的なタ
イトルの一文を「中央公論」(96年6月号)に寄稿した。そ
のなかで、氏は、「現在の国家財政はまったく不健全であると
いう以上に、すでに破綻している」という主旨のことを述べて
いる。武村氏が「財政破綻宣言」をした1996年当時と比較
すると、現在の日本政府の債務は2倍以上に拡大している。と
ころが、長期金利は、逆に3分の1未満で推移しているのだ。
要するに、橋本政権の時点から「わが国には財政問題はない」
が真実だったのである。 ──三橋貴明著
『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』/徳間書店
―――――――――――――――――――――――――――――
野田首相が増税を決断し、推進しようとしたのは首相に就任し
た2011年のことですが、その年に東日本大震災と福島原発事
故が起きており、多くの日本人が等しく身に迫る危機を感じた年
であったのです。
武村蔵相が国会において財政危機宣言をした1995も、1月
に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が起こっており、そ
の年の11月に財政危機宣言がなされ、それが消費税率を3%か
ら5%への引き上げる法案の成立につながったのです。日本の財
政危機論はこれを契機にはじまっています。
これは偶然ではないのです。国家の危機に乗じて増税を企む財
務省の許されざる手口です。考えてみると、財務省は、武村、菅
野田、安住氏らの素人財務大臣を手玉にとって、増税法を成立さ
せてきたということがいえます。財務官僚にとっては日本の景気
がどうなろうと関係がないのです。
国にとって金を集める方法は増税か国債発行しかないのです。
国債発行は何かと監視の目が厳しいですが、税金なら有無をいわ
せず取り立てることができるので、なるべく増税したいのです。
そのために財務省は手段を選ばないのです。したがって、彼らに
とっては、国が危機に瀕しているときが一番税金を取りやすいと
いえます。けっして騙されてはならないのです。
消費税増税が決定される前の2013年8月22日、財務省と
内閣府は、ある資料を公明党の会議で配付していますが、その資
料には、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたこと
によって日本のデフレが深刻化したのではなく、アジア通貨危機
と国内の金融危機が原因であったことを示すことが書かれていた
のです。
思えば、増税が決まる前に財務省のお眼鏡にかなってテレビに
出演が許されている経済評論家、証券会社研究員、経済学者、コ
メンテーターなどの識者といわれる人たちは、ほとんどすべて同
じことをいっていましたから、彼らは財務省のこの手の資料に基
づいての発言であることは確かです。しかし、内容は正しくはな
いのです。
添付ファイルの棒グラフを見ていただきたいのです。このグラ
フは、三橋貴明氏の著書に出ていたものですが、三橋氏は「民間
需要」とは、次の3つであると述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
1.民間最終消費支出→個人消費
2. 民間住宅投資
3. 民間企業設備投資
──三橋貴明著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
注目すべきは日本の民間需要がピークを打ったのは、1997
年の第1四半期であり、その後四半期ベースで見た民間需要が、
1997年の第1四半期を上回ったことはないのです。そのくら
い当時経済は回復しつつあったのです。
ところが、1997年の第2四半期の最初の月に増税が行われ
たのです。それ以降、わが国の物価下落は需要を収縮させ、需要
の収縮が国民の所得水準を引き下げ、さらなる物価下落を生むと
いう悪循環に入ってしまったのです。つまり、デフレです。需要
の縮小は4月からはじまっているのです。
タイのバーツ危機が生じたのは1997年7月のことであり、
山一證券が破綻したのは11月のことです。これらがデフレに追
い打ちをかけたのです。したがって、デフレの引き金を引いたの
は消費税増税なのです。 ── [消費税増税を考える/08]
≪画像および関連情報≫
●日本のデフレは1997年の消費税増税が原因/三橋貴明氏
―――――――――――――――――――――――――――
現在の日本は1997年よりも状況が悪化している。なにし
ろ、デフレの深刻化によって、法人企業のうち7割超が赤字
状態なのだ。すなわち、法人税を支払っていないのである。
さらに、デフレにより価格競争が激化し、国内企業はこぞっ
て値下げや低価格を売りにビジネスを展開しているありさま
である。こうした状況で消費税を5%から8%に上げたとし
て、政府は、企業が普通に商品価格を上げることができると
思っているのだろうか。業界全体でいっせいに値上げをして
くれればともかく、現実には必ず裏切り者が出る。そんなこ
とは企業側もわかっているので、結局は増税分を企業(バリ
ューチェーンのどこかの企業)が呑むかたちになり、赤字企
業がこれまで以上に増え、法人税の減少が消費税増税分を打
ち消してしまうだろう。下手をすると、消費税を増税した以
上に法人税や所得税が減り、政府の税収は結局は減少するこ
とになる。実際に増税後の日本が減収になったとき、財務省
は何と言い訳をするつもりだろうか。おそらく、顔色1つ変
えずに、税収減と赤字国債の発行が増大したことを理由にあ
げて、「財政が悪化した。さらなる増税が必要だ」と言うに
決まっている。財務省の口車に乗せられ、政府が再び増税を
実施すると、国民の支出という需要が減り、所得も腐小し、
税収はさらに小さくなってしまう。
──三橋貴明著/徳間書店
『2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』
―――――――――――――――――――――――――――
日本の民間消費・投資の四半期別推移