営に取り組み、就任後1年経ってみて、それなりの成果を上げて
いるといえます。
その安倍首相が2013年10月1日に臨時閣議後に記者会見
し、2014年4月からの消費税の税率を8%に引き上げると表
明したのです。17年ぶりの消費税引き上げ決定になります。
消費税増税と経済再生は、明らかに矛盾しています。アベノミ
クスは、アクセルとブレーキを同時に踏み込むのと同じで、せっ
かく上昇しかけている経済再生を潰してしまう危険性をはらんで
いるのです。
ところで、安倍首相は、消費税増税を最初から決めていたので
しょうか。それとも経済指標などを分析し、熟慮しながら決定し
たのでしょうか。これによって、安部政権の姿勢というか、考え
方がわかりますし、10%への引き上げについてもある程度見通
せると思うからです。
安倍首相の増税決定後に出版された経済に詳しい識者の2冊の
本から、この点について引用してみることにします。
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◎中丸友一郎氏(元世界銀行エコノミスト)
10月5日に報道されたNHKスペシャル「ドキュメント消
費増税」によれば、消費増税の難しさ、重要経済政策の決断
に際しての困難さなどの認識が、安倍首相には存在したよう
だ。それだけでも、せめてもの救いだったというべきかもし
れない。安倍首相が今回の8%への消費税率引き上げ問題を
最初から白紙で考えていたという点は、安倍氏の政治家とし
ての率直さを裏付けるものだったといえる。特に、菅義偉官
房長官は番組の中で終始、「成長なくして財政再建なし」に
近い立場を堅持していて、その聡明さが光っていた。
──元世界銀行エコノミスト・中丸友一郎著
『円安恐怖がやってくる!』/徳間書店
◎植草一秀氏(TRI代表取締役・金融・経済エコノミスト)
(今回の消費税増税法には景気条項がある)安倍首相は、こ
の景気条項をクリアするために、あらかじめ「工作」をして
いた。それは、2013年4〜6月期のGDP成長率の統計
を見て、消費税増税を判定するとしたことである。(中略)
安倍政権は2012年度末、すなわち2013年3月に13
兆円規模の巨大な補正予算を成立させた。この補正予算は、
2012年分の補正予算だが、年度末に成立したので、実際
に予算が執行されるのは2013年度に入ってからになる。
(中略)つまり、2013年4〜6月期のGDP成長率は高
い数値になるはずのものであり、このことを念頭に置いた上
で、2013年4〜6月のGDP統計を見て、消費税増税を
判定するというシナリオが作られたのである。
──植草一秀著
『日本経済撃墜/恐怖の政策逆噴射』/ビジネス社刊
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実は17年前の橋本首相のときと現在の安倍首相の置かれた状
況は似ている点があります。それはともに増税法が成立していた
ということです。首相にできる決断は、実施するか、延期するか
の2つしかないのです。
この点菅義偉官房長官はよくわかっていたと思います。安倍首
相が高い支持率とアベノミクスの出足の好調さに気をよくして暴
走しないよう経済再生に専念するようブレーキをかけていたので
す。「成長なくして財政再建なし」という言葉は、今は増税する
なと安倍首相に戒めていたと思います。
安倍首相にとって、消費税増税の選択肢としては、次の4つが
あったのです。
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1. 予定通り実施する
2. 全面的に見送る
3.激変緩和措置として5年間で1%ずつ引き上げる
4.今回は見送り、2015年10月に10%にする
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経済ジャーナリスト・須田慎一郎氏によると、安倍首相は当初
から、2014年の「8%」は実施するしかないと考えていたと
いいます。しかし、表向きは増税そのものの判断は「白紙」とい
い、熟慮しているポーズをとっていたのです。この点は、上記の
植草一秀氏の考え方と同じです。
その安倍首相が怒りをあらわにしたときがあります。2013
年9月12日付の読売新聞の「首相、意向固める」という見出し
の記事です。これにはいきさつがあるのです。読売新聞グループ
本社会長の渡邊恒雄氏が政治家を含む親しい関係者に巨人戦の券
と一緒に送った次の残暑見舞状の文章です。これは、安倍首相に
対する直接的な提言そのものです。
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日本経済の最重要課題はデフレからの脱却である。消費税率引
き上げで、ようやく上向いてきた景気を腰折れさせてしまえば
元も子もない。今回は見送った方がいい。景気の本格回復を実
現したうえで2015年10月に5%から10%に一気に引き
上げるべきだ。そのために私も尽力したい。 ──渡邊恒雄氏
須田慎一郎著『国民を貧困にする重税国家日本』/徳間書店
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実はこのとき、安倍首相は、麻生財務相率いる財務省と消費税
増税と一緒にパッケージで打ち出そうとしていた法人税減税をめ
ぐってバトルを繰り広げていたのです。
それに渡邊氏の提案は、消費税増税と一緒に軽減税率を実施し
新聞にそれを適用してもらいたいという野心があり、それが官邸
には見え見えであったので、安倍首相は激怒したというわけなの
です。やはり、安倍首相は8%に関しては最初からやるつもりで
あったのです。 ── [消費税増税を考える/07]
≪画像および関連情報≫
●話題呼ぶ「ナベツネ書簡」消費税増税は政局化/高橋洋一氏
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ナベツネの書簡が話題になっている。マスコミには報じられ
ないが、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役会長が
8月上旬、政治家宛に書いた暑中見舞いの手紙だ。前半は、
東京ドームのジャイアンツ戦のチケットを同封するので使っ
てもらいたいとか、軽井沢で7日連続のゴルフをしたとかほ
のぼのとした話題である。しかし、後半では「なお、年末に
向けての政府の最大課題の一つは、消費税の実施時期の問題
です」ではじまり、「アベノミクスの失敗は許されません」
「伝統的な財務省の早期財政再建至上主義よりも、異次元の
方策があります」とし、「8%を中止し、10%に上げる時
に、軽減税率については生活必需品は5%に止めること」が
提案され、「近く小生としても詳細な具体策を報告するつも
りです」と結ばれている。渡辺氏が政界に多大な影響力があ
るのは周知の事実だ。その渡辺氏が広く知られることを前提
にした手紙を政治家に出すのだから、ただ事ではない。渡辺
氏が率いる読売新聞は、消費税増税の積極グループの一番手
だ。2010年11月、読売新聞は元財務次官の丹呉泰健氏
を社外監査役として受け入れている。読売新聞としては異例
のことだ。そのとき巷で噂されたのは、マスコミは消費税増
税を応援するが、軽減税率の対象として新聞を入れるという
ものだ。 http://bit.ly/KZAJDl
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中丸 友一郎著『円安不況がやってくる!』