2014年01月09日

●「財政を家計にたとえるレトリック」(EJ第3706号)

 安倍首相の進めるアベノミクスは、第1の矢である金融政策、
第2の矢である財政政策までは、デフレ脱却のための経済政策と
しては間違っていないと思います。しかし、4月からの消費税率
8%のアップは最悪の選択であったといえます。
 安倍首相としては本音ではやりたくなかったのでしょうが、自
公民3党で決めたことでもあり、総裁の前任者の谷垣禎一法相が
その成立に深くかかわっていたので、意思決定せざるを得なかっ
たものと思われます。しかし、これは安倍政権にとって今後深刻
な火種になる可能性があります。
 何しろ、この「社会保障と税の一体改革」は、4人の財務大臣
の協力で実現したもので、4人それぞれ実現したことを誇りに感
じているはずです。4人の財務相とは、谷垣禎一氏に始まり、与
謝野馨氏に受け継がれ、民主党になってからは、菅直人氏、野田
佳彦氏とバトンリレーされ、成立しています。なかでも与謝野氏
は、財務相を務めた後に自民党を離党し、菅首相の求めに応じて
民主党に入り、経財担当相として増税の実現に協力しています。
財務省から見れば、表彰ものの4人ということができます。
 国にとっては、国債を発行してお金を集めるのも、増税して税
金として集めるのも同じなのです。しかし、国の立場から見ると
国債の場合は、国としての借金ですから、買ってもらう必要があ
り、もちろん返さなければならないのです。それにとくに最近で
は、国債の大量発行には厳しい国民の目があります。
 しかし、税金の場合は国民から徴収すればよいし、返す必要も
ないのです。国から見ればこの方がラクに決まっています。しか
し、増税法案を成立させるのは与党の政治家を説得するのが大変
であり、時間もかかります。しかし、一度決まってしまえば、永
遠に徴収できるので、担当する有力な政治家には、こまめに説得
を繰り返すしかないのです。
 政治家は選挙で選ばれるので、増税に対する国民への啓蒙も非
常に重要になります。場合によっては、そのためにウソも含めて
さまざまなレトリックを駆使するのです。その最大のレトリック
は、国の財政を家計にたとえることです。かつて財務省のホーム
ページには、次のようなたとえ話が出ていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の税収は40兆円しかない。しかし、使っているのは90
 兆円。50兆円の赤字である。月収40万円しかない家庭が、
 月に90万円の生活をしている。足りない部分はサラ金から借
 りているのだ。これなら、やがて、家計は借金の山となり、破
 綻する。日本の現状はこれと同じであり、やがて破綻する。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このようにいわれると、「こりゃ大変だ」と誰でも思ってしま
いますね。家計にたとえられていますから、話はきわめてわかり
やすいのです。
 この家庭の場合、破綻から逃れるためには、何よりもサラ金か
らの借金することをやめることです。そして極力収入に見合う生
活をするよう無駄な出費を切り詰めるしかないのです。それがで
きないなら、収入を増やすしかないのです。財務省は、この「収
入に見合う生活をする」ことを強調することによって、国におい
ても財政均衡主義を徹底させようとしているのです。財政均衡主
義については改めて述べます。
 しかし、国と家計はまったく違うものであり、このレトリック
にひっかからないようにする必要があります。これについて、産
経新聞特別記者・編集委員・論説委員である田村秀男氏は次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 日本の財政をあたかも一般の家計と同じようなたとえ話で論じ
 ることで、財政悪化の恐怖感と増税の必要性を訴えることがで
 きる。プライマリーバランスは増税路線をプロパガンダするの
 に便利な経済概念といえるだろう。話を家計に置き換えている
 ので、マスコミもこぞって取り上げている。そして財政悪化を
 火の車の家計になぞらえて報じることで、国民に「増税しない
 こと」への危機感や不安感を植え付けることに一役員っている
 のだ。こうしたたとえ話が間違っているのは、国の財政という
 ものは、家計と違って主婦が節約すればするほど黒字が増える
 ようにはできていないということだ。経済を刺激するような積
 極的な財政政策を行なうことで税収を増やすこともできるとい
 う意味で、国家は家計よりもむしろ企業に近い存在である。し
 かも、国と家計が決定的に異なるのは、通貨の発行権を持って
 いることである。国は、中央銀行による金融政策を行使するこ
 とで、「借金が雪だるま式に増えないように」金利水準や物価
 上昇率などをコントロールする手段を持っている。
 ──田村秀男著『財務省「オオカミ少年」論』/産経新聞出版
―――――――――――――――――――――――――――――
 そうなんです。国は通貨の発行権を持っており、借金が累積し
て増加しないように、金利や物価をコントロールすることができ
るのです。家計ではそんなことはできませんから、国の財政を家
計にたとえることはすべきではないのです。
 しかし、財務省は増税するためには手段を選ばないのです。増
税に反対の論陣を張る経済評論家はテレビ局に圧力をかけて出演
回数を減少させ、その代わり財務省御用建の経済評論家を送り込
むのです。私はそういう評論家やコメンテーターの発言を注意深
く聞き、経済に関する御用学者をほぼ特定しています。
 また財務省はこんな手も使うのです。東京・中日新聞は当時の
民主党政権が推進していた消費税増税に反対の論陣を張っていた
のです。財務省は2011年夏から半年近くの長きにわたり国税
庁に同新聞社の税務調査を行わせ、反対の論陣を張る論説委員の
飲食費などの伝票に虚偽記載がないか徹底的に調べています。
 こんなことをされれば、新聞やテレビで増税の反論をするのを
控えてしまうようになります。そうしなければテレビに出られな
くなってしまうのです。  ── [消費税増税を考える/04]

≪画像および関連情報≫
 ●国の財政を家計に例えるのはナンセンス/あるブログ
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  12月24日、安倍政権が来年度の一般会計予算案を閣議決
  定し、総額は95兆8823億円と過去最大となりました。
  こういう国の予算がニュースになると決まってメディアで取
  り上げられるのが、国の財政を家計に例えるというもの。こ
  れは財政健全化に燃える財務省がHPで紹介している有名な
  例えで、メディアの側は何の疑問も持たず、財務省に踊らさ
  れるがままに垂れ流しているようです。今日の各新聞社のニ
  ュースサイトを見ると、読売と毎日が早速、家計に例えて報
  じていました。いずれも単位を1兆円から10万円に置き換
  え、一家の年収を500万円と想定して、支出を賄うには、
  413万円の借金をしなければならず、家計は「火の車」だ
  としています。しかし、経産省出身で最近「結いの党」を結
  成し、同党代表を務めることとなった江田けんじ衆議院議員
  も解説しているように、日本の場合、国の借金に当たる国債
  の95%は日本国民(より正確には銀行や保険会社が国民か
  らの預金や保険料の運用先として国債を買っている)が負担
  しています。要は、家計に例えた場合の年収に当たる税収も
  日本国民、借金に当たる国債費も日本国民が負担していると
  いうことで、一般の家庭における銀行などの外部からの借り
  入れとは根本的に違うわけです。したがって、ここでいう借
  金は家庭内でほぼ完結しており、江田議員も指摘しているよ
  うに夫が妻から借りているようなものなのです。この点が、
  国債の約7割を海外の投資家に買ってもらっていたギリシャ
  とは違うところです。       http://bit.ly/19SO6uw
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田村秀男氏/産経新聞特別記者.jpg
田村 秀男氏/産経新聞特別記者
posted by 平野 浩 at 03:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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