2004年02月23日

●感動の根源には何があるか(EJ第1294号)

 2003年の暮れのことですが、映画『ラストサムライ』を観
に行ったのです。劇場は非常に混んでおり、座るために40分ほ
ど並んでやっと観ることができました。映画を観るのに並んだの
は久しぶりのことです。劇場には若い人が多かったです。
 ところで、この映画は、トム・クルーズが主演する、ワーナー
ブラザーズ配給のハリウッド映画なのです。扱っている中心テー
マは「武士道」――映画の宣伝コピーには、次のように書いてあ
るので、ご紹介しておきます。
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 静謐さのなかに熱き滾りを堪えた愚直なまでの一途さ。寡黙に
 して、二言を持たず、命懸けの信念をもって誇り高く生きた男
 たちのほんものの美学――そんな日本の「サムライ・スプリッ
 ト」が、ついにハリウッドを動かした!
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 興味深いのはこの映画を観た若い人の感想です。いくつかご紹
介します。
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 ・サムライの熱い生き方に共感し、ともに生きることを誓った
  アメリカ人。おかしなところも多々あるが、僕はこの映画に
  日本人の心を垣間見た。
 ・いや、よかった。ここ1〜2年で観た映画で一番よかった。
  久々に見ごたえある映画だった。渡辺謙の戦いに敗れて逝く
  瞬間の顔をぜひみてやってほしい。アカデミー助演男優賞の
  声にもうなずける感じだ。
 ・とてもよかったと思ったし、泣いたのだけれど、どこで一番
  感動したかって考えると、あれ?ってかんじなんですよね。
  いっぱい感動しすぎて忘れてしまったのかしら。私ももう一
  度絶対見に行くつもりです。
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 とにかく「感動した」という意見が多いのです。映画のラスト
シーンが消えると画面が真っ暗になります。一呼吸おいてゆっく
りと配役や製作キャストの名前が出てきます。普通この場面にな
ると、きまって席を立つ人がいるものですが、誰も立たない――
周りを見回すと、ハンカチで涙をぬぐっている人もいる。本当に
感動している人が多いようです。暗くなったのを利用して涙の乾
くのを待っている人もいたかもしれません。
 それでは、どこが感動的だったのかというと、そういうシーン
はいつくかはありましたが、はっきりどこと指摘するのは難しい
のです。映画全体として強く訴えかけてくるものがあり、それが
感動を呼ぶのではないかと思われます。
 そこで、EJでは映画『ラストサムライ』が訴えかけてくるも
のは何か――何が、とくに若い人たちに感動をもたらすのかにつ
いて、いくつかの観点から考えてみたいと思います。
 映画の評価というものは難しいものです。映画を評価する観点
はいくつかあります。
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     1.何を訴えようとしているのか
     2.映画自体は面白く観られたか
     3.脚本は歴史的に見て正しいか
     4.映画技術として優れているか・・・etc
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 過去に実際に起こったことを表現するとき、上記3の観点――
「脚本は歴史的に見て正しいか」が厳しく問われます。最近では
NHKの大河ドラマ『新選組!』の三谷幸喜氏の脚本は、時代考
証がメチャクチャであるということが盛んにいわれており、視聴
率がついに20%を割ってしまっています。
 確かに実在の人物を実名で取り上げる以上、時代考証はしっか
りしておくべきです。映画『ラストサムライ』についても時代考
証の問題点を指摘する意見が多いのです。映画をご覧になってい
ない人にはピンとこないでしょうが、いくつか上げてみます。
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 1.幕末の日本に勝元(渡辺謙)のような武将はいない
 2.明治新政府は忍者を使って勝元たちを攻撃している
 3.東京の近く(横浜付近)に雪で閉鎖される村はない
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 しかし、映画『ラストサムライ』に登場する人物で、はっきり
と実在している人物は明治天皇だけなのです。このようにいうと
「大村がいる」という反論があるかも知れませんが、原田真人演
ずる「大村」はあの大村益次郎ではないのです。明治天皇以外の
登場人物は、いくつかの実在人物を掛け合わせた架空の人物なの
です。もちろん、トム・クルーズ演ずるネイサン・オールグレン
も架空の人物です。
 しかし、この映画は米国人のエドワード・ズウィック監督が日
本の武士道を扱った米国映画であり、日本人が観ると、多少の違
和感を覚えるのは仕方がないと思います。一番大切なのは、映画
で訴えたいことがどれほど出せたかですが、それは多少の違和感
を打ち消してしまうほど強く出ていたと思います。
 映画でなくて小説の話ですが、金原ひとみさんを芥川賞に選ん
だ選者の一人である作家の宮本輝氏は、金原さんの作品『蛇とピ
アス』を読んで「妙に心に残る何か」が残ったといっています。
そして、日を置いて読み直してみたそうです。その結果、「妙に
心に残る何か」については「哀しみ」であることがわかったとい
い、次のように述べています。
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  それは「哀しみ」であった。作中の若者の世界が哀しいので
 はない。作品全体がある哀しみを抽象化している。そのような
 小説を書けるのは才能というしかない。    ――宮本輝氏
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 映画『ラストサムライ』も製作者が意図する主張が明確に出て
おり、それが日本人の観客の心を揺さぶったのだと思います。
               −− [ラストサムライ/01]

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posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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