2007年03月27日

猪瀬対村井の対決−−勝者は?(EJ第2047号)

 猪瀬所長が率いる学情は、OSIに基づく大学間新ネットワー
ク構築のため、各大学に対してヒアリングを行ったのです。多く
の大学がネットワーク環境を整備するための予算を計上してきて
いたので、そのためのヒアリングです。
 ところが、予算申請してきている大学のほとんどがWIDEに
つなぐための予算であり、新しい通信インフラなど必要ではない
というのです。猪瀬所長が怒ったのは当然です。そして、その怒
りは村井氏の上司である相磯秀夫氏にぶつけられたのです。これ
について相磯氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 猪瀬先生は国際標準化が進んでいるOSIを強烈に推す。村井
 君はデファクト・スタンダードになっているTCP/IPで行
 くべきだといって譲らない。そこで意見が対立し、衝突を繰り
 返すわけですね。そういうことがあるたびに私が猪瀬先生から
 呼び出されるんです。で、行くと「君のところの村井君に苛め
 られている」とこぼすんです。
             ――滝田誠一郎著、『電脳創世記/
 インターネットにかけた男たちの軌跡』 実業之日本社刊より
―――――――――――――――――――――――――――――
 村井氏の述懐によると、猪瀬先生は流石に一番痛いところを衝
いてきたといっています。それは「公共のインフラは官がやるべ
きである」ということです。これは否定のしようがないのです。
これを認めると、「公共のインフラなんだから、国が推し進めて
いるOSIを採用すべきである」とくるわけです。そして、最後
にこうくるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 村井君が風邪をひいたら、それでストップしてしまうようなイ
 ンフラじゃ困るんだよ。  ――猪瀬博学術情報センター所長
―――――――――――――――――――――――――――――
 そこで、村井氏たちは、次のように理論武装し、学情のインフ
ラを否定しない代わりに、WIDEを引っ込めることは、絶対に
しなかったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 WIDEはあくまでも研究のためのプロジェクトであり、した
 がって研究のためであれば、サービスを一晩止めることもある
 し、新しい技術を試すためにサービスが不安定になることもあ
 るかも知れない。したがって、実際のサービスに関しては学情
 のサポートをしていく。           ――村井純氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、村井氏は学情と正面から対立をすることを避け、国の
通信インフラとの棲み分けを狙ったわけです。しかし、最初から
村井氏が予測していた通り、学情が進めるOSIに基づく通信イ
ンフラは遅々として進まなかったのです。そうこうしているうち
に、インターネットは急速に普及し、TCP/IPのデファクト
・スタンダードとしての立場は磐石のものとなったのです。
 こうした村井氏たちの努力について、相磯秀夫氏は次のように
いっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 もし、村井君が自分のやっていることに自信が持てず、学情セ
 ンターのいいなりになってWIDEプロジェクトを引っ込めた
 りしていたら、日本のインターネットのあり方は随分変わって
 いたでしょうね。インターネットの普及、発展が数年遅れてい
 たと思います。逆にOSIみたいなものがなかったら、WID
 Eプロジェクトが自由に活動できていたら、インターネットの
 普及、発展は数年早かったのではないでしょうか。
               ――滝田誠一郎著の前掲書より
―――――――――――――――――――――――――――――
 TCP/IPの急速な普及によって、ISO側はTCP/IP
とは別に、世界標準プロトコルを作るという構想を変更せざるを
得なくなったのです。そこで、TCP/IPとOSIを融合させ
る作業に取りかかったのです。
 この作業はちょっと考えると難しい作業のように思われますが
対立している方式のいずれもがARPANETからスタートして
おり、同じ源流から発していることを考えると理論的には十分可
能なことだったのです。
 1977年までのARPANETのプロトコルは、次の3層構
造をとっていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
           アプリケーション層
                ホスト層
                 通信層
―――――――――――――――――――――――――――――
 ここでいう「ホスト層」は現在の「トランスポート層」であり
TCP/IPの「TCP」というプロトコルが機能するいわばT
CP/IP通信の司令塔的な部分です。このとき、TCPという
プロトコルは「IP」の機能も併せて持っていたのです。
 しかし、米国防総省は軍事的事情から「IP」の機能を重視す
るようになったこと、それにヨーロッパ方式との整合性を図るた
めに、ホスト層の下位に「インターネット層(IP層)」を設け
ることにしたのです。これによって、現在のTCP/IPの4階
層が確立し、事実上の国際標準になっていくことになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
           アプリケーション層
            トランスポート層
            インターネット層
             データリンク層
―――――――――――――――――――――――――――――
 村井氏の凄いところは、多くの情報から先の先まで読んでいる
ことであり、その洞察力があったから、TCP/IPが標準にな
ることを確信していたのです。
          [インターネットの歴史 Part2/14]


≪画像および関連情報≫
 ・OSI7層に関係するサイトから・・・
  ―――――――――――――――――――――――――――
  今までメールやWebを使っていて、「何で、ADSL・無線
  ・光ファイバーなど色々別の回線を使って通信出来ているの
  だろう?」と思った事はないでしょうか?もし、何気なくイ
  ンターネットを使っていてそのような疑問を持てたら、貴方
  はすごいです。目の付け所が良いです。ただ、思ったことが
  なかったとしても、今、この瞬間思ってください(笑)。
    http://www.geekpage.jp/technology/ip-base/osi7.php
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 05:07| Comment(0) | TrackBack(0) | インターネットの歴史 Part2 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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