2013年07月18日

●「自民党幹事長になった経緯と背景」(EJ第3591号)

 自民党の政治家で「小沢排除」の影の存在として君臨していた
のは、竹下登元首相です。当時の自民党内にも改革を唱える議員
はたくさんいましたが、それは「自民党が政権から下りるような
ことになる改革は必要ない」という範囲での改革論であったので
す。竹下氏は、党内の改革議論がその範囲をはみ出さないよう慎
重にチェックしていたのです。
 しかし、小沢氏が進めようとする政治改革は、衆議院に比例代
表制を加味した小選挙区を導入し、政権交代を可能にするもので
あって、自民党の下野も前提にするものであったので、竹下氏に
とってはとうてい許容することができなかったのです。
 竹下内閣が退陣した後の自民党の総理・総裁選びは難航したの
です。なぜなら、ポスト竹下と目されていた安倍晋太郎、宮澤喜
一、渡辺美智雄ら自民党の有力者は軒並みリクルート事件に関与
していたため身動きが取れず、河本敏夫は三光汽船経営危機問題
から敬遠され、さらに伊東正義や田村元、坂田道太、後藤田正晴
からも断られて後継の総理・総裁選びは難航したのです。
 小沢氏は竹下内閣の官房副長官から党務に転じて、経世会の総
務局長をやることになったのです。総理・総裁は混迷のすえ、宇
野宗祐氏に決まり、幹事長には橋本龍太郎氏が就任したのです。
 その宇野内閣で、小沢氏は携帯電話の日米交渉の特使として難
交渉をまとめ上げ、一仕事しています。私が小沢氏に注目したの
は実はそのときです。彼は、この交渉で米国のモトローラ社製の
携帯電話を受け入れ、「国賊」といわれましたが、結果として携
帯電話代金を大幅に引き下げ、日本の携帯電話の普及に大いに貢
献したのです。
 これについては、巻末の「関連情報」フォーリン・アフェアー
ズ・1995年11月号/日本語版『小沢一郎/追い詰められた
改革者』が小沢一郎風の外交交渉を知るうえで参考になります。
 しかし、宇野内閣は女性問題で足元をすくわれ、1989年7
月の第15回参議院議員通常選挙では、改選議席の69議席のう
ち36議席しか獲得できず、とくに一人区では3勝23敗と惨敗
したのです。その結果、自民党は参議院では結党以来初の過半数
割れ、すなわち「ねじれ」の状態になったのです。
 宇野内閣はその責任を取って退陣を表明、首相在位69日の短
命内閣になったのです。そのときポスト宇野の筆頭候補に橋本龍
太郎氏が浮上します。
 宇野首相の女性問題に懲りた自民党は、橋本氏の身体検査を徹
底させることになります。経世会の金丸会長は身体検査を小沢総
務局長に命じたのです。調査の結果、橋本氏には致命的な女性問
題があり、ポスト宇野から外れることになったのです。
 問題はそれを誰が橋本本人に伝えるかです。従来の自民党では
長老が説得するのですが、小沢氏はそれは総務局長の仕事であり
悪役は私が負うとして橋本氏に事実を伝えたのです。しかし、橋
本氏は自分のことは棚に上げ、自分の総理・総裁の足を引っ張っ
たとして、以後小沢批判を強めることになります。
 結局自民党は最小派閥・三木派の海部俊樹氏を総理総裁に選び
幹事長に小沢氏を据えたのです。参議院がねじれになっており、
国会運営が厳しくなっていたことと、党内基盤の弱い海部氏を経
世会の小沢氏が補佐するという意味で、幹事長は小沢氏しかいな
かったのです。事実上の「海部・小沢内閣」であり、実権は小沢
氏にあったといって差し支えないと思います。実際に小沢氏はこ
の内閣で、獅子奮迅の活躍をしているのです。
 このときの印象があるので、政権交代後の鳩山政権の小沢幹事
長を「鳩山・小沢内閣」ととらえている人が多いのですが、これ
は大きな間違いです。そのとき、小沢氏は政権には一切口を出せ
ない選挙対策の幹事長であったからです。これについては、改め
て述べることになります。
 海部内閣での小沢幹事長起用について、平野貞夫氏はその経緯
を次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 幹事長職はそれなりのキャリアの人物を起用するのが「自民党
 の常識・常道」である。これは金丸信経世会会長の指示による
 ものだったが、まず竹下前首相が反対。竹下氏は私には「一郎
 は政調会長か大蔵大臣を経験してから幹事長になるべきだ」と
 言っていた。一方、金丸会長は「参院が逆転で世界が乱れてい
 るとき、一郎が幹事長でなくて海部政権がやれるのか」と親し
 い記者に語っている。この直感は当たったと思うが、小沢氏に
 とってはあまりにも副作用がきつかった。しかし本人は田中直
 伝の「総理より幹事長のほうが政治家としてやりがいがあって
 面白い」を思い出し、幹事長として自民党の改革に政治生命を
 懸ける覚悟をするのである。 ──平野貞夫著/ビジネス社刊
     『新説/小沢一郎謀殺事件/日本の危機は救えるか』
―――――――――――――――――――――――――――――
 よく小沢氏は権力主義者といわれます。当時の自民党の幹事長
といえば最高権力者であり、小沢氏が首相になろうと思えばなれ
るチャンスは十分あったのです。しかし、小沢氏は幹事長就任の
時点から日本の政治のあり方に疑問を抱き、政治改革の必要性に
強くこだわっていたのです。当時の小沢氏の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このままの自民党が続くのなら、私は総理になれないし、なる
 つもりもない。総理になるためにどれだけの資金がいるか。こ
 のままにしておけば、2年に1回は派閥の首領は司直に捕まる
 ことになる。まともな政治はできなくなる。解党的出直しと、
 冷戦後の国際社会に対応できる政治の仕組みをつくりたい。政
 治倫理とか政治資金の規制とか、世論受けのする格好のよい話
 だけでは駄目だ。選挙制度そのものを抜本的に改革して、政党
 中心、政策中心の政治ができるように、政治家や国民の意識を
 変えなくてはいけない。 ──平野貞夫著/イースト・プレス
  『小沢でなければ日本は滅ぶ/政治の悪霊と戦い続ける男』
―――――――――――――――――――――――――――――
              ── [自民党でいいのか/13]

≪画像および関連情報≫
 ●「小沢一郎/追い詰められた改革者」/フォーリン・アフェ
  アーズ/日本語版1995年11月号
  ―――――――――――――――――――――――――――
  1988年、日本の公共事業市場を米国企業に開放させるこ
  とを目的とした日米交渉を小沢は妥結に導いたが、以来、彼
  は米国の貿易交渉者にとって貴重な友人である。モトローラ
  社のビジネスを日本市場で立ち上げるのを助け、大幅な価格
  の引き下げを実現した携帯電話市場をめぐる昨年の合意の影
  の立役者もまた小沢だった。最近の自動車交渉にしても──
  もし小沢が交渉していれば、次期自民党総裁の呼び声の高い
  橋本龍太郎通産大臣が行なったような、2国間関係を損ない
  かねないスタンドプレーはみせなかったはずだ。小沢なら、
  米国車の日本市場でのシェアを保証することを回避しつつも
  米国との取り決めを目立たぬように妥結へと導く、地味な努
  力を重ねていただろう。米国の重要な同盟者である小沢は、
  自民党の旧指導層のように米国のイニシアティブに対する盲
  目的な追随者ではなく、問題があると感じた場合には、はっ
  きりと物をいい、ときには批判さえする。もっとも小沢は、
  日米同盟の存在が、日本が他のアジア諸国に引き続き受け入
  れられるかどうかの鍵をにぎっていると見ているし、もっと
  最近では、しだいに愛国主義的となり、脅威となりつつある
  中国に備えるためにも、日本はカウンター・バランスとして
  の米国を必要としていると強調している。
  http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/200909/0909_1.htm
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「小沢でなければ日本は滅ぶ」/平野貞夫著.jpg
「小沢でなければ日本は滅ぶ」/平野 貞夫著
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 自民党でいいのか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新生党を小沢が結党した時に、その大会で小沢と会ったが、私の右翼的な発言にたじろいでいたし、取り巻きの中国のスパイの言いなりであった。つまり、小沢が自民党の事を、如何に表現しようとも、その動機は日本への愛国心からではなく、己の政治権力のためである。中韓人であれ、己を支援して、政治権力を握らせてくれる限り、手を握る不道徳なマキャベリストに過ぎない。ちなみに、人気投票の原則を述べると、最も人気のある者は、同時に、最も嫌われ者でもあるように、かつての小沢の人気や注目度の高さと、その人格の高さは、正比例しない。つまり、小沢の真実の人物像と人格は、平野が考えているような立派なものではなく、正義を掴んでいない、権力欲につかれたマキャベリストそのものだ。そして、日本国民は馬鹿ではないから、今では、そのマキャベリストの落ちぶれたザマを見て、内心では天地の公道の実在を実感しているのだ。この国の国政も健全性を取り戻しつつあるのである。何でもユダヤのせいにするキチガイのRKとか、左翼掲示板の阿修羅ファンとか、W平野を除いて、天皇陛下以下の日本国民は、小沢に引導を渡す決意がある。この現実を、私は歓迎している。
Posted by 国家主義者 at 2013年07月18日 23:04
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