ており、「自立」と「共生」を新しい国づくりの理念としている
のです。「共生」とは何でしょうか。
「共生」とは、人間の生き方にかかわる考え方であり、『日本
改造計画』には次の記述があります。
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人類は、人間による自然支配という西洋的価値観から人間は自
然の一部であるという東洋的価値観への転換を迫られている。
東洋的価値観、とくに古代日本の縄文時代においては、人間は
まったく自然と共生していた。人間が自然を支配するのではな
く、自然によって生かされていた。
──小沢一郎著、『日本改造計画』/講談社刊
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この「共生」の考え方と関係するのは、ダーウィンの『種の起
源』、すなわち「進化論」です。ダーウィンの「進化論」といえ
ば、知る人ぞ知る「自然淘汰説」であり、「適者生存説」です。
ダーウィンによると進化というものは、種個体、あるいは少数
の種個体から始まると考えられており、この特定の種個体のこと
を突然変異と呼ぶのです。
この突然変異によって発生した個体が他者と比較して生存する
ための優位性を持っている「適者」である場合にのみ、生存競争
に生き残り、敗れたものは死滅する──これがダーウィンの「進
化論」の本質です。
しかし、このダーウィンの進化論は、自然科学的に証明された
ものではなく、単なる一学説に過ぎないといわれているのです。
もともとこの考え方は、英国の経済学者であるマルサスが『人口
論』で展開した次のコンセプトを生物社会に取り入れたものに過
ぎないといわれているのです。
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人口の増加は等比級数的であるのに対し、食料の生産は等差級
数的にしか伸びないから、一部の人間の貧乏・飢餓は一種の自
然現象として不可避である。 ──マルサスの「人口論」より
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このダーウィンの進化論に対して、日本人として異を唱えた学
者が今西錦司氏(1902〜1992)です。今西錦司氏は、日
本の社会人類学、生態学の草分け的存在であり、登山家としても
知られています。
今西錦司氏の学説は「今西進化論」といわれており、その骨子
をまとめると、次のようになります。
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ある種から新しい種が生まれても、従来種は駆逐されることな
く、新しい種と共存してゆくものであり、その発生事態も突然
変異などによる偶発的なものでなく、環境の変化などによって
時期が来たら複数の個体が、あたかも化学反応のように、同時
多発的に変化してゆく現象が進化なのである。
──今西錦司/吉本隆明著
『ダーウィンを越えて/今西進化論講義』/朝日出版社
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今西進化論は「棲み分け理論」と呼ばれており、ダーウィンの
進化論が競争原理に基づいているのに対して、今西進化論は共存
原理をペースとしています。
これは小沢氏のいう「共生」の考え方に通じるのです。そして
この考え方は、米国の新自由主義と対極の考え方です。新自由主
義は、まさにダーウィンの適者生存/自然淘汰の考え方にとても
よく似ているのです。
次の演説は、小沢一郎氏が2006年4月7日、民主党の代表
選の政見演説の一部です。
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小泉政治は自由と身勝手を混同した結果、弱肉強食の格差社会
という妖怪を生み出してしまいました。本当の自由とは誰もが
共に生きていける『共生』の理念が前提であり、それを保証す
る規律と責任を伴うものであります。その『共生』のルールが
公正なのであります。 ──平野貞夫著
『わが友・小沢一郎』/幻冬社刊
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2006年4月、小沢一郎氏は、メール問題で退任した前原誠
司代表の後任として民主党代表に就任しています。この「共生」
の考え方は、民主党として、当時の小泉政権がブッシュ米大統領
の市場経済至上主義に追随した政策を強行し、そのために生じた
深刻な格差社会を是正しようとして、小沢民主党が打ち出した新
しい国づくりのコンセプトなのです。
「共生」を新しい国づくりの理念として掲げ、あらゆる面で筋
の通った「公正の国・日本」をつくる。そのために国民一人ひと
りが自立し、国家としても自立することを目指すとともに、人間
と人間、国家と国家、人間と自然の「共生」を国是とすると、小
沢民主党は宣言したのです。そして基本政策のキャッチフレーズ
を次のように決めたのです。
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公正な社会、共に生きる国へ
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民主党の政権交代の快進撃はこのときからはじまったのです。
そして2007年夏の参院選を迎えます。そのときのマニフェス
トのテーマとして次を掲げ、「三つの約束」と「7つの提言」を
掲げたのです。
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国民の生活が第一
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このかつての民主党のシンボルテーマである「国民の生活が第
一」は、実は鳩山元首相のいう「友愛」と「共生」のコンセプト
があって、はじめて生まれたのです。
――─ [自民党でいいのか/06]
≪画像および関連情報≫
●小沢一郎の「共生」理念の原点は今西進化論/内田良平氏
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この今西進化論を要約すれば「生物界を種社会による有機的
調和体」とし「進化とは競争で相手を淘汰するのではなく、
切磋琢磨によってより強い共生関係を作り上げていく」とい
う考え方を採っている。今西進化論を社会に当てはめると、
「進歩は自由競争によって獲得されるようにみえるが、実は
社会の中で形成された共通の文化と、その文化が持つ共生の
メカニズムによって創られる」と読み解くことができる。日
本人は元来レベルの高い文化を保有しており、その文化に根
ざした経済環境を作ることこそ国家の力を高めていく事にな
ると今西らは主張する。ところが「市場原理主義」を信奉す
る欧米や、彼らに操られる日本の政治家や経済人にとって小
沢一郎の主張する「自立と共生―国民の生活が第一」の「共
生国家の建設」は彼らの「賢い人間だけが生き残り、劣った
人間は淘汰される」という理念に反することになる。彼らに
とって、この「競争を絶対とする米国資本主義」を守るため
小沢一郎という政治家を葬り去る必要があり、またTPPと
いう米国資本主義のための「競争による収奪装置」に日本を
参加させることが重要なのである。もし民主党政権が国民を
豊かにしたいと考えるならば、国民を競争で煽りたてたり、
金儲けの上手い人間を優遇する狩猟民族的政策ではなく、小
沢一郎が説く「共生」の理念を基に、道徳的倫理観や礼節、
弱者への思いやりといった日本文化の良さを生かした新しい
経済政策を打ち出すべきだろう。
http://www.asyura2.com/11/senkyo122/msg/596.html
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今西 錦司氏