ます。この国は、世界第2位の経済大国として、国としてやるべ
きことにきちんと真摯に取り組んでいないということです。
16日夜のNHKスペシャル『中国の激動』を見てもわかる通
り、地方の都市化をめぐって人民との紛争が頻発しており、年間
20万件の反政府デモが発生しています。最近では、人民による
抗議の自殺も増加しています。このことは、今回取り上げる環境
問題──とくに「水の問題」について知ると、それがいかに深刻
なことかよくわかります。以下、この問題を取り上げた「週刊新
潮」6/20のレポートに基づいてまとめます。
最近、中国のネット上で、次のメッセージが出て話題になって
います。
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わが中国は偉大な国家だ。北京では窓を開けると、タダでタ
バコを吸える。上海では水道の蛇口をひねると、タダで豚骨
スープが飲める。 ──「週刊新潮」6/20
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ほとんど説明は不要だと思います。「タダでタバコを吸える」
とは、PM2・5による大気汚染のことであり、「豚骨スープ」
は、今年3月、上海の水源である黄浦江上流で、1万頭のブタの
死骸が不法投棄された事件を指しています。
2013年5月30日、中国国内では、次の衝撃的なニュース
が報道されたのです。
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【5月31日/AFP】香港の金融街にある米コーヒーチェー
ン大手スターバックス店舗が、トイレ脇にある蛇口から採取し
た水道水でコーヒーを入れていた事実が判明し、利用客から怒
りの声が上がっている。この店舗は、香港島のランドマークと
もなっている中国銀行タワー内に入っている。2011年10
月の開店からずっと、飲料用の水は化粧室内の水道の蛇口から
取っていたという。香港紙「蘋果日報」は、薄汚れた化粧室内
の便器からわずか数メートルの位置にある「スターバックス専
用」と書かれた蛇口の写真を掲載した。同紙によると、この化
粧室は中国銀行タワーの駐車場にあるという。
http://www.afpbb.com/article/economy/2947117/10824459
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このスターバックス店は、連日大繁盛していたのですが、この
ニュースが出るや一夜にして閑古鳥の巣と化したのです。当然と
いえば当然のことです。驚くべきことは、このとき中国人が激怒
したのは、取水場所がトイレだったからではなく、水道水を使っ
たからなのです。
なぜなら、中国で水道は飲むと危険な水であることが広く知ら
れているからです。首都の北京ですら、飲料水はミネラルウォー
ターの使用を原則としているのです。
水質指標に「COD」というものがあります。水のなかの有機
物の含有量が多いほど高い数値になります。環境省の説明を以下
に示します。
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0mg/L ・・ 汚濁のないきれいな水
1以下 ・・ヤマメ、イワナなどが住む渓流
1〜2以下 ・・ 雨水と同じレベル
3以下 ・・ サケやアユが住める
5〜10以下 ・・ 汚濁に強いコイやフナが住む
10以上 ・・ 下水や汚水のレベル
──「週刊新潮」6/20
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環境省は10以下を基準とし、実際には3以下を目標としてい
るのです。これはきわめて高い数値です。なお、水の消費量の増
大や水質汚染に対応するため、上水道のための取水においても、
下水道からの排水においても、何らかの化学処理が施されること
が一般的です。
しかし、中国の上水道のCODは「20以下」なのです。日本
では工場排水でもこれ以下です。実際に中国の水道水は茶色く濁
り、匂いがきついので、飲むどころか、歯磨きに使うことにも抵
抗があるのです。結局、中国の上水道は、皿洗いか、洗濯用が主
な用途になり、白いシャツは一回で黄色く染まってしまうといい
ます。だから中国人は、シャツは白を避けて、青や薄紫のものを
使う人が多いのです。
それなのにスターバックスともあろう店が水道水をコーヒーの
水として使っていたので、お客が激怒したのです。しかし、他の
店で水道水を使っていない保証はないのです。2012年5月に
中国のメディアが伝えたところによると、水道水の安全基準を満
たしている上水道は50%ということです。
それでは、どういう水を飲めばよいのでしょうか。それはミネ
ラルウォーターということになります。しかし、ミネラルウォー
ターも安全とはいえないのです。
中国の国内シェアトップのミネラルウォーターブランドに「農
夫山泉」というのがせあります。550ミリリットルで1・5元
(約24円)です。その水源は、浙江省の森林公園にある湖であ
り、国が一級水源保護区に指定しているので、人気を博している
ミネラルウォーターです。
しかし、この「農夫山泉」は、水質基準が水道水以下であるこ
とが、2013年4月に「京華時報」によって、スッパ抜かれた
のです。水道水では検出されてはならない大腸菌が「農夫山泉」
では検出されているからです。
しかも、この「農夫山泉」の販売元サイドが浙江省の水質基準
の策定に関与していた事実がわかって、さらに信用を落とす結果
になったのです。販売元は反発し、紛争になっているのです。
そうなると、エビアンなどの外国製品に頼らざるを得ないこと
になりますが、これには偽装商品が堂々と商店に陳列されていて
見分けるのは不可能です。 ――─ [新中国論/70]
≪画像および関連情報≫
●水と報道:見えない基準と真実/ニューズウィーク
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「京華時報」は、その「農夫山泉」が「国家基準の「生活飲
用水基準GB5749」ではなく、浙江省が定めた「ボトル
入り飲用ミネラルウォーター基準DB33/383−200
5」に準じて生産、国家基準が定めたヒ素、セレン、カドミ
ウムの含有量制限を満たしていない」と指摘した。「農夫山
泉」側はこれに対してすぐに声明を発表。同社の製品は国、
業界、地方、企業の基準に基づいて管理されており、京華時
報が指摘した国家基準GB5749(同時にこれは飲用水道
水の基準だと指摘)のみならず、やはり国家基準のDB19
298「ボトル入り飲用水衛生基準(2003年版)」、浙
江省のDB33/383「飲用ミネラルウォーター基準」に
合格していると反論した。そして驚いたことに続けて同社の
公式ブログ上で、「この報道は意図を持って練り上げられた
ものであり、その黒幕は国有飲用水ブランド、『華潤怡宝』
だ」と指摘、「華潤怡宝」が3月からずっと同社を狙ってメ
ディアと組んでネガティブ情報を流してきた、と「証拠」を
列挙した。今度は「華潤怡宝」がその日のうちに、「我々は
農夫山泉がその声明で述べたような形で参与はしておらず、
農夫山泉への法律的手段を取る権利を保留する」と声明を発
表した。(最後まで読む)
http://www.newsweekjapan.jp/column/furumai/2013/05/post-676.php
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「農夫山泉」