質汚染、食品汚染など、数えきれない環境問題があるのです。し
かも、まったく改善されておらず、むしろ深刻化しています。
環境省(当時は環境庁)の出身で、中国の環境対策に取り組ん
だ経験を持つ横浜市立大学特任教授の井村秀文氏は、中国の環境
問題には次の3つの基本的要因があるといっています。
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1.大きな国土と特殊な地理的状況
2.中国経済の構造的問題がネック
3.中国一般国民の衛生意識の低さ
──「文藝春秋」/2013年6月号掲載の
井村教授論文より
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第1は、「大きな国土と特殊な地理的状況」です。
中国の地理的状況の大きな特色は、長江や黄河といった大規模
河川が国土を横断していることです。そのため、これらの河川で
問題が起きると、その影響は中国全土に及んでしまうのです。
例えば、上流域で水が汚染されると、下流域が広い範囲で影響
を受けてしまうし、上流域で水を取り過ぎると、下流域には水が
来なくなる恐れもあります。したがって、中国の水対策は大きな
流域全体でコントロールする必要があります。
中国は広大な平野に人口が密集する大都市が多数存在していま
す。この状況では、豪雨や酸性雨や大気汚染は、発生源も被害を
受ける地域もきわめて広範囲に及ぶのです。
日本は平野部が少ないし、大都市の面積も限られているので、
地域単位の対策を立てることができますが、中国では全体として
のコントロールが必要になるのです。
第2は、「中国経済の構造的問題がネック」です。
ここまで中国の経済発展を牽引してきたのは製造業ですが、製
造業は多くのエネルギーを使うのです。しかし中国の場合、エネ
ルギー全体の70%を石炭燃料が占めているのです。その年間消
費量は40億トンに達するといわれています。
しかも、脱硫装置の付いていない発電所で石炭をがんがん燃や
しているのです。したがって、SOX(硫黄酸化物)など、大気
汚染の原因物質が大量に撒き散らされることになるのです。何を
さておいても成長を優先させるので、CO2は既に米国を抜いて
世界全体の4分の1を占めるまでになっています。
中国で国の環境政策は、環境部で行います。日本の省レベルの
組織で300人ほどの職員が在籍しています。しかし、上からは
掛け声だけで、本気で取り組む体制にはなっていないと井村教授
はいっています。
そういう中国でも2008年の北京オリンピックのときは、国
から地方政府や市政府へ強い指示を出しています。北京市は国か
ら大気汚染改善の指示を受け、市内にあった鉄鋼工場を閉鎖し、
天津の近くまで移転させています。しかし、これでは工場を移転
させただけですから、根本的な解決策ではないのです。
第3は、「中国一般国民の衛生意識の低さ」です。
環境問題というのは、国の公衆衛生が基本になります。国がど
んなに力を入れても、一般国民の衛生観念というか、公共心とい
うものが備わっていないと前進しないのです。
もっとも一般国民だけではないのです。企業の多くは環境意識
は低く、当局がうるさいので、最小必要限度の対応しかしないの
です。政府として規制をあまり厳しくすると、規制の厳しくない
ところに移転してしまうのです。
上海で環境規制を強化したとき、多くの企業は上海市から逃げ
出し、隣の蘇州や無錫市に移転したのです。したがって、市とし
ても強い指示を出すのを躊躇ってしまうのです。しかもそういう
逃げ出す企業のほとんどは国営企業であり、国としてのガバナン
スが効いていないのです。基本的に企業は自分のところが儲かり
さえすれば、周りの迷惑など気にしないのです。
環境問題に限りませんが、中国では自身にとって都合の悪いこ
とは徹底的に隠蔽するところがあります。2011年に街全体を
覆う白い気体のことを中国は「大霧」と表現していたのです。こ
れについて米国大使館が、それが超微粒の汚染物質PM2・5で
あると発表すると、次のようにむ反論したのです。
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中国の名誉を貶めようとするアメリカの陰謀である
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一向に反省しないのです。天気予報などでも「明日も大霧が発
生するでしょう」などと苦しい報道をするのです。こういう態度
を見ていると、中国は北朝鮮に似ているなと思ってしまいます。
しかし、「大霧」といい張っていた中国も最近ではPM2・5
を認めざるを得なくなっています。それは「微博」──中国版ツ
イッターを通じて白い気体は「大霧」などではなく、PM2・5
という有害物質であることが大量に流されたからです。
中国は国家がネットを制限しています。しかし、ネットという
ものは制限できるものではないのです。そのことは中央政府もわ
かっているのです。しかし、世界中で利用されているツイッター
でこういう政府にとって都合の悪い情報が伝わると、世界中に知
られてしまうので、国として「微博」を開発し、伝わる範囲をせ
めて国内にとどめたいという苦肉の策なのです。
こんな話があります。ある村で工場の未処理の汚水のため、重
度の健康被害を受ける人が多く出たことがあります。村人の訴え
によって、当局が調べて、工場の汚水処理に問題があることがわ
かり、当局が工場を閉鎖処分にしたのです。そのため、その企業
は倒産に追い込まれてしまいます。
ところがです。それによって職を奪われた労働者たちは武装し
て、告発した村を襲撃し、多くの人を殺害したというのです。つ
まり、中国では人から仕事を奪うということは、リスクの高いリ
アクトを受ける可能性があるのです。だから、国として環境問題
に本気で取り組めないのです。 ── [新中国論/62]
≪画像および関連情報≫
●深刻化した中国の大気汚染/人命被害1万人に迫る
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先週テレビや新聞で大きく取り上げられたのが、過去最悪と
いわれる大気汚染が続く中国で、市民生活に大きな被害が出
ているというニュースであった。大気汚染については、これ
までもたびたび本HPで取り上げてきたが、今回の汚染はそ
の度合いが大きく、また汚染期間が1月の初から3週間近く
続いていることが特徴的である。そのため、咳き込む子供な
ど体調を崩したたくさんの子供や老人たちが病院に詰めかけ
るなど、かってない混乱が発生しているようである。さらに
汚染の被害が北京市や河北省、山東省、天津市など日本の総
面積の3.5倍にあたる広範囲に広がっている点も被害を深
刻にしている。被害面積は中国全土のおよそ7分の1である
が人口密集地域であるため、被害人口はおよそ8億人に及ぶ
というから大変である。中国の大気汚染問題の記事を読むと
き頻繁に登場するのが、PM2.5という言葉である。これ
は直径2.5マイクロメートル(髪の毛の40分の1)以下
の粒子状の汚染物質のことである。つまりこのPM2.5が
1立方メートル当たりどの位あるかによって汚染度が決まる
わけである。
http://www.y-asakawa.com/Message2013-1/13-message14.htm
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最近の北京市内の状況