2002年02月28日

●金熊賞をとった『千と千尋の神隠し』(EJ第810号)

 2月6日から17日まで開催されていた第52回ベルリン国際
映画祭の最終日に宮崎駿監督のアニメーション映画「千と千尋の
神隠し」が最高賞である金熊賞に選ばれました。このところ日本
は深刻な不況のせいでロクなことがありませんが、このニュース
は唯一明るい話題だったように思います。
 「千と千尋の神隠し」については、昨年の10月15日のEJ
721号から10月19日の725号までの5日連続で取り上げ
ていますが、その後に収集した情報があるので、本日のテーマと
して取り上げたいと思います。
 映画を見ていない人にとっては何のことかさっぱりわからない
話ですが、そういう人は金熊賞を取った機会に映画をぜひご覧に
なってください。本当に印象に残るとてもいい映画です。
 まず、「千尋」という名前について考えます。「千尋」を広辞
苑で引いてみると、次のように出ています。
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 千尋=一尋の千倍。非常に長いこと。また、非常に深いこと
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「尋」というのは、両手を左右に広げたときの両手間の距離を
意味しています。「一尋」は「五尺」(1.5メートル)、また
は「六尺」(1.8メートル)と同じ長さを意味しています。縄
の長さを計るときや水深を計る単位として昔は使われていたので
す。千尋はその千倍――広くて深い心を持つ人という意味です。
 名前といえば、ハクは千尋のお陰で忘れていた自分の名前を思
い出したのですが、どういう名前か覚えていますか。正解は「ニ
ギハヤミコハクヌシ」です。千尋は、自分が昔おぼれかけた川の
名前が「コハク川」であることを思い出して、それをハクに告げ
るのです。とのとき千尋を助けてくれたのがコハク川の主である
ハクだったのです。
 ところで「ニギハヤミ」は、あの「ニギハヤミの命」から来て
いるのでしょう。「ニギハヤミの命」については昨年の4月2日
のEJ587号から597号で詳しく取り上げています。
 「銭婆(ゼニーバ)」と「湯婆婆(ユバーバ)」という特異な
キャラクタが登場しますが、これは双子の姉妹という設定になっ
ています。顔はそっくりですし、どっちがどっちかわからなくな
ってしまいますが、仕事に対して強欲なのは「湯婆婆」(妹)、
千尋に対して優しいのが「銭婆」(姉)です。ちなみに「ゆたん
ぽ」を漢字で書くと「湯湯婆」となりますが、宮崎監督はここか
ら名前を発想したのでしょうか。
 「銭婆」というと、お金に関してがめついイメージがあります
が、このイメージはむしろ「湯婆婆」に当てはまります。2人の
役割分担はどうなっているのでしょうか。
 この2人については、ハクが「銭婆」のところからハンコを盗
んでくる事件を思い出す必要があります。
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  1.ハンコはいつも「銭婆」が管理・保有
  2.「湯婆婆」はハンコを欲しがっていた
  3.そのハンコは魔女の契約印であること
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 「銭婆」が契約印を持っていたということは、油屋の雇用契約
や経理などの大切な契約は、すべて「銭婆」が行っていたことを
示しています。事実上のオーナーです。これに対して、油屋の実
際の運営を取り仕切っていたのは「湯婆婆」――つまり、執行役
員といったところです。
 ですから、「湯婆婆」は油屋の実権が欲しいので、ハクをそそ
のかして「銭婆」のハンコを盗ませるのです。しかし、「銭婆」
は力のある魔法使いであり、人のかたちをした紙の大群を繰り出
し、ハクを追い詰め、瀕死の重傷を負わせます。
 この「人のかたちをした紙」は、陰陽師(おんみょうじ)が使
う「式神」といわれるものと思われます。陰陽師といえば、平安
時代に活躍した安倍晴明が有名ですが、安倍晴明はこの「式神」
の術が得意であったといわれています。
 「式神」は、陰陽師たちの呪いを実行に移す「使役霊」(使い
魔)のことであり、陰陽師に代わって呪いを実行に移すのです。
式神の場合は、使い魔になるのは、人の形をした紙だけではなく
カラスであったり、魚であったり、人間であったり、何でもいい
のです。それを陰陽師は離れた場所から操って呪いの実現をはか
るというわけです。いわば、リモコン人形ですね。
 さて、ハクを救うため魔女の契約印を「銭婆」のところに返し
に行きたいという千尋に対して、釜爺が海原電鉄の乗車券を渡す
シーンがありますね。その切符を見たリンは「どこで手に入れた
のこんなの?」と聞くと、釜爺は「40年前の使い残りだ」と答
えています。釜爺の現在の年齢を70歳とすると、40年前です
から30歳のときに電車を使ってどこかの街に出かけていたこと
になります。「銭婆」の家は海原電鉄の「沼の底駅」から歩いて
数分のところにあるのです。
 映画では油屋の雇用契約は「湯婆婆」と結んでいましたが、昔
は「銭婆」と結んでいたのではないかと推測されます。そのため
契約更新などのたびに「銭婆」のところに行く必要があつたので
海原電鉄の切符が支給されていたのではないでしょうか。
 それとも昔釜爺と「銭婆」は恋愛関係にあったが、「湯婆婆」
と浮気をして「坊」という子供ができてしまったので、「銭婆」
は怒って釜爺と別れた・・と考えることもできます。そうすると
いろいろつじつまが合ってくるのです。
 ところで、この映画にしばしば登場する黒い影の人たちは何者
なのでしょうか。夕方の街も多くの黒い影が歩き回っていました
し、千尋がカオナシたちと一緒に海原電鉄に乗ったとき、他の乗
客はみんな実体がはっきりしない黒い影でしたね。
 千尋が船着場で自分の体が消えかけてパニックになったことが
ありましたが、ハクに丸薬を呑まされて消えずに済んだことがあ
りましたね。あれを飲まないと黒い影になってしまうのです。
 このようにいろいろ想像するのは楽しいことです。
                  −− [千と千尋/06]
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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