2013年05月27日

●「国家の再建よりも海外に逃亡する」(EJ第3554号)

 5月23日における東京株式市場の日経平均株価の急落の原因
の一つに中国の5月の製造業購買担当者景気指数(PMI/速報
値)の下落が上げられています。
 具体的にいうと、PMIの数値が、好不況の判断の境目となる
「50」を切って、前月比で0.8 ポイント減り、「49.6 」
になったことです。「50」を切るのは、2012年10月以来
7ヵ月ぶりのことであるというのです。
 数ポイントの下落です。景気指数が下がったことは確かですが
中国の政府統計の信頼性が揺らいでいることや、このところ中国
経済の良くない情報が多く出ていることで、PMIの50切りが
深刻なニュースになったものと思われます。
 それではPMIの50切りの原因は何でしょうか。
 この原因は明確です。生産の不振です。それは次の2つの事実
が示しています。
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   1.宝鋼集団の在庫減らしによる鋼材価格の値下げ
   2.主要炭鉱が軒並み操業停止に追い込まれている
―――――――――――――――――――――――――――――
 上海市にある宝鋼集団は鉄鋼の大手企業ですが、6月出荷分の
鋼材価格を1トン当り100〜180元(1650円〜3000
円)に引き下げています。需要が低迷し、在庫が膨らんでいるた
めです。人民元高による輸出競争力の低下もその一因です。
 中国の産炭地といえば狭西省北部ですが、ここでは主要炭鉱が
軒並み操業停止に追い込まれているのです。狭西省の楡林市には
99の炭鉱がありますが、2013年1月〜3月に操業したのは
わずか7ヶ所だけなのです。
 これに加えて、内需の伸び悩みや輸出の不振がPMI押し下げ
の要因としても働いています。とくに中国では輸出の伸びが景気
の持ち直しの主役とされています。しかし、中国の貿易統計には
重要な疑惑があるのです。
 それは「偽輸出」の疑いです。実態のない輸出を利用して投機
基金を国内に持ち込もうとしているのです。詳細は、次のブログ
の記事を参照してください。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国による2013年1〜4月の輸出は前年同期比で17.4
 %増加。4月の輸出も前年同期比で14.7 %増。「8〜12
 %増になるだろう」との市場での予測を大幅に上回る結果とな
 り、実態のない「偽輸出」を利用した水増しではないかと指摘
 する声が出てきている。そのように指摘したのは大和総研経済
 調査部シニアエコノミストの齋藤尚登氏。今月発表した中国経
 済の動向を分析するレポートで、ほぼ連動するはずの中国側の
 対香港輸出と香港側の対中国輸入の金額の差に着目。1〜3月
 の間に495億ドルもの開きがあったことから、香港への「偽
 輸出」が行われているのではないかと分析した。中国の1〜3
 月の貿易黒字は431.3 億ドル。仮に495億ドルのズレが
 実態の伴わないものであったのなら、中国の貿易黒字はすべて
 吹き飛ぶことになる。    ──IROIRIO/嶋嘉祐氏
            http://irorio.jp/cb/20130524/59966/
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は13億人市場といわれます。明らかに中国は経済発展の
曲がり角にさしかかっています。普通なら13億人の人口があれ
ば、内需拡大型経済を構築できるのですが、格差がひどく、消費
が伸びないことは既に指摘した通りです。
 日本はかつて経済発展の曲がり角にさしかかったとき、技術革
新やコストカットによって産業の強さを維持・向上させる努力を
重ねてそれを乗り越えています。
 しかし、中国では、そういう構造改革を行うべき政治の中心に
いるエリートや一部の富裕層が、国の経済を建て直す努力をする
よりも、国を捨てて海外に逃げ出そうとする方向にエネルギーを
向けているとしか思えない動きをしているのです。
 その証拠といえる事実があります。それは、中国から流出する
不正資金です。中国に詳しい富坂聰氏によると、2010年に途
上国から欧米の銀行に流出した不正送金の総額は8588億ドル
なのですが、その約半分を中国から流出した不正資金が占めてい
るというのです。その総額は2010年までに2兆7400億ド
ルに上り、2011年度にはさらに6002億ドルが流出してい
るといわれているのです。
 この天文学的な数字には当然人の流れを伴っており、2011
年に海外に移住した中国人は約15万人、その半数の8万人は米
国に移住し、永住権を獲得しているのです。なぜ、踏み止まって
国の再建に取り組まないのでしょうか。
 現在、中国の大卒新卒の4分の1には職がないのです。そうい
う無職の大学生が毎年量産されています。これについて、宮崎正
弘氏はその悲惨な実態を次のように伝えています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 いま中国で、大学は3300ぐらいある。去年の新卒が710
 万人。ということは掛ける4で2800万人、いまそれだけの
 大学生がいるんですね。そして毎年、700万人がトコロテン
 のように押し出されて社会に出て、このうちの半分はまともな
 職がない。あぶれたうちの半分くらいは何とか、アルバイトで
 糊口をしのげるんだけれども、卒業した連中の4分の1はまっ
 たく職がないわけです。       ──石平/宮崎正弘著
     「2013年後期の『中国』を予測する」/ワック刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 共産党員は人口の7%といわれますが、共産党員でも末端の人
は貧乏なのです。したがって、共産党のエリートは1%であり、
この1%が中国を支配しているのです。この層とその周辺にいる
富裕層ないし多少金を持っている人は約1億人。これ以外の人は
すべて貧乏であるというのです。大変な格差社会です。
 習近平主席は、中国のこの現在の事態をどこまで把握している
のでしょうか。          ─── [新中国論/52]

≪画像および関連情報≫
 ●大卒でも就職できず、就職しても農民工より給与低い
  ―――――――――――――――――――――――――――
  清華大学中国経済社会データセンターが発表した大卒者の収
  入に関する報告では、2011年大卒者の平均初任給は27
  19元(約3万3443円)で、具体的には大卒者69%の
  初任給が2000元未満、最低は500元で最高は10万元
  だった。初任給が5000元以上の大卒者はわずか3%とい
  う結果になった。一方、「アルバイト不足」を背景に農民工
  の給与水準は上昇傾向にある。国家統計局発表の2011年
  平均給与データによれば、2011年の出稼ぎ農民工の平均
  月給は始めて2000元の大台を突破、2049元と前年比
  で359元増になり、21.2 %の伸び幅を記録した。一部
  の大卒新入社員と比較しても農民工の月給は高く、技術を持
  つ農民工では稼ぎ時に1万元を超える収入を得るものもあり
  一部の会社員より多いほどだ。十数年も苦しい勉強に耐え、
  激烈な大学受験を勝ち取って、4年間あるいはそれ以上の高
  等教育を受けて卒業しても、農民工たちと収入を争わなけれ
  ばならず、しかも給料は彼らより少ない。まるで大学生のた
  め息が聞こえるようだ。長い間、中国人は労働の最下層にい
  る農民工の給料は少なくて当たり前だと思ってきた。これが
  明らかに長い間、社会の農民工に対する差別を生み出してき
  た。事実、農民工の労働環境や貢献度を考えると、彼らの収
  入はもっと早く上げるべきだったのだ。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0729&f=national_0729_052.shtml
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北京大学.jpg
北京大学
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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興味があったら私のブログも見てください。
Posted by ゆうた at 2013年05月27日 11:28
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