2001年10月19日

●印象深い主題曲『いつも何度でも』(EJ第725号)

 「千と千尋の神隠し」をテーマとするEJを、遂に1週間(5
回)連続でお届けしました。「たかが漫画映画を1週間も取り上
げるとは・・」とお思いの読者もおられるかもしれませんが、こ
れは私にとって1つの挑戦だったのです。情報の少ないテーマを
1週間続けられるかどうかという・・挑戦です。
 というのは、宮崎駿の映画論に関する著作はきわめて豊富なの
ですが、それは宮崎監督の過去の作品についてであって、「千と
千尋の神隠し」については情報が少ないからです。なにしろ現在
上映中の作品だからです。既にこの映画を見られた何人もの読者
の方から感想や情報が寄せられており、感謝しております。
 さて、この映画の試写会のときの話です。試写会には千尋と同
年輩の女の子がたくさん来ていたのです。その中のひとりの女の
子にテレビ局のレポーターが感想を聞くと、「面白かったけど、
もの足りなかった!」といったというのです。
 その理由をそのレポーターは女の子から聞いて、次のようにレ
ポートしています。少し長いけれどご紹介しましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『 総合すると、おそらくは「映画館でただ座っているだけの自
分」がもどかしかったために「もの足りなさ」を感じたのであ
ろうと推察される。表現を変えれば、スクリーン上の千尋に完
全に感情移入し切っていて、「千尋と同じような経験が出来な
い自分」がもどかしかったために「もの足りなさ」を感じたの
であろうと思われる。
千尋が息を止めて橋を渡り始めた時、女の子も思わず息を止
めた。千尋が階段から足を滑らせてしまった時、思わず座席か
ら転げ落ちそうになった。千尋が重たい石炭を持ち上げようと
した時、思わず腕にぐっと力を込めた。ボイラーの中から火花
が飛んでくると、思わず顔をそむけてしまった・・・。
このようにして、女の子は千尋が感じたように自分も感じよ
うとしていたのだ。
だが、それにも限度がある。息を止めたり腕に力を込めたり
するくらいなら出来たとしても、お湯の温かさを感じることは
出来ないし、強烈な臭いを感じることも出来ない。仕事をやっ
たという充実感をかみしめることも出来ない。飛翔して風を肌
で感じることも出来ないし、水に潜った感触を確かめることも
出来ない。座席にじっと座っている限りそうした経験を肌身で
感じることは出来ない。「もの足りなさ」の正体はこれだ』。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「映画を見ているだけではもの足りない。自分も千尋のように
何かをしてみたい!」というのがその女の子の感想だったとした
ら、それはまさにその女の子の中に眠っていた「生きる力」の衝
動のようなものが目覚めたことの証明であるといえます。
 宮崎監督がこの映画を通じて伝えたかったことは、誰もが持っ
ている「生きる力」を感じ取って欲しいということであったはず
であり、そうであるとすればこの女の子の感想はその狙いが達成
されているといってよいと思います。
 「千と千尋の神隠し」シリーズの最後に、どうしてもふれなけ
ればならないのが、この映画の主題歌『いつも何度でも』です。
宮崎作品の音楽は「風の谷のナウシカ」以来ずっと久石 譲氏が
担当しているのですが、この曲は宮崎作品のファン、木村弓さん
からの提供曲なのです。
 木村弓さんは竪琴ライヤーの独自の弾き語りを得意とする音楽
家ですが、宮崎作品のファンであり、どうしても作品に参加した
いという思いで、自分のCDを添えて、宮崎監督に手紙を書いた
そうです。
 そうしたら監督から返事がきて、現在「煙突描きのリン」とい
う企画を進めているので、その作品が形になるときがきたら連絡
するかもしれません」ということだったのです。そこで、木村さ
んは「リン」をイメージして作曲し、宮崎監督に送ったのですが
その時点で「リン」の企画が中止になったことを知ったのです。
 しかし、宮崎監督はこの曲を聴いて「千と千尋」の企画を思い
ついたといっており、シナリオづくりの最中、監督はこの曲をか
けて聴いていたといわれます。
 木村弓さんによると、急にメロディが浮かんできて繰り返し出
てくるので、それを楽譜に書き留めておいたそうです。そして歌
詞を考えたのですが、「呼んでいる 胸のどこか奥で いつも心
踊る 夢を見たい」という部分はすぐできたものの、あとが続か
ないので、友人の覚和歌子さんに相談したのです。覚さんは木村
さんからメロデイを鼻歌で聴かされて素直によい曲だと思い、あ
とは淀みなく歌詞が出てきたといっています。全部はご紹介する
スペースがないので、後半の一部をご紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      さよならのときの 静かな胸
      ゼロになるからだが 耳をすませる
      生きている不思議 死んでいく不思議
      花も風も街も みんな同じ

      海の彼方にはもう探さない
      輝くものは いつもここに
      わたしのなかに 見つけられたから
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 21日午前9時からテレビ朝日で放送される「題名のない音楽
会」で「宮崎駿映画音楽スペシャル」が放送されます。そのとき
木村弓さんも出演されるので、見ていただきたいと思います。ま
た、同じ日の午後7時58分から日本テレビ「特命リサーチ20
00X」で、「宮崎アニメの秘密」が放送されます。
 「千と千尋の神隠し」をテーマに1週間書いてきましたが、ま
だ、この映画をご覧になっていない方は、ぜひご覧になっていた
だきたいと思います。きっと心が洗われると思います。私ももう
一回観たいと思っています。     −− [千と千尋/05]

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posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここまでの文章を
公開から早い段階で、一度見ただけで
シリーズ化、また書き上げることができるなんて感嘆の一言です。

とても純度の高い記事をありがとうございました。







Posted by 実好摩衣子 at 2011年12月06日 21:19
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