2013年05月16日

●「中国版サブプライム問題が深刻化」(EJ第3547号)

 中国が未曽有の金融危機に直面しています。しかし、中国の銀
行の不良債権は、中国の規制当局によると、2012年度末時点
で0.95 %と前年比で0.05 %低下しているのです。この数
字を見る限り、金融危機など起こらないように見えます。
 しかし、2012年12月に開催された中央経済工作会議では
2013年の主要任務の1つとして次のリスクを重視し、それを
防ぐことを決めています。
―――――――――――――――――――――――――――――
      財政金融分野に存在する隠れたリスク
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の金融危機の高まりを理解するには、シャドウ・バンキン
グについて知る必要があります。既に述べたように、中国の地方
政府は原則として地方債を発行する権限がない。それに直接銀行
から融資を受けることもできないのです。
 そこで、地方政府は融資平台という投資会社を設立し、そこを
通して銀行から融資を受けるのです。しかし、銀行はその債権を
証券会社や信託会社に譲渡しています。
 これらのローンをベースにして、証券会社と信託会社が商品の
組成を行い、「理財商品」として一般の投資家にこの商品を売っ
ています。「理財商品」とは、高利回りの金融商品の総称です。
シャドウ・バンキングというのは地方政府の第3セクター向けの
銀行融資を証券化(オフバランス化)した高利回り運用商品(理
財商品)の総体を指しているのです。
 このようにいうと、中国の理財商品は、サブプライムローン担
保証券に似ていることがわかると思います。あの著名な投資家で
あるジョージ・ソロス氏も、海南島で開かれた国際会議で、理財
商品について次のようにコメントしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の理財商品は、金融危機を招いた米国のサブプライム住宅
 ローンと類似性がある。      ──ジョージ・ソロス氏
―――――――――――――――――――――――――――――
 まさに中国版サブプライム問題です。中国の銀行はいろいろ規
制が厳しくなっているので、融資平台向けの融資だけでなく、リ
スクの高いローンを証券会社、信託会社、保険会社に移転し、自
分の身をきれいに保っているのです。中国の銀行の不良債権が減
少したのもこれで納得できると思います。リスクの高いローンを
他の機関に移転する(飛ばす)仕組みが中国にはあるのです。
 中国の銀行預金の利回りは1%ぐらいで低く、投資家としては
多少リスクがあっても高利回りの金融商品には手が出るのです。
まして融資平台の融資のバックには地方政府がいるというのも投
資家にとっては安心の材料になります。
 それに理財商品がどこで売られているのかというと、銀行の支
店で堂々と売られているのです。もちろん通常の銀行業務とは関
係なく、裏ルートの業務としてです。しかし、銀行で売られてい
れば、銀行業務に関係ないといっても商品に対して偽りの信頼性
を帯びさせる効果はあると思います。
 しかし、この理財商品で謳っている高利回りには何の裏づけも
ないのです。サブプライムローンでは「高いランクの格付け」が
ありましたが、理財商品には格付けなどない。したがって、購入
者にとっては、一か八かの丁半賭博のようなものです。
 ある信託会社の幹部は、ロイターの記者に対して、次のような
ことをいっているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 リスクも責任もないカネだ。誰もが稼ぎたいと思うだろう。最
 も熱心なのは信託会社だ。書類を作って、会社の印を押し、カ
 ネを受け取る。それで終わりだ。     ──信託会社幹部
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは実に恐ろしいことです。なぜなら、本元の借り手である
融資平台(地方政府)が債務を返済できる状況にないからです。
これについて、企業文化研究所理事長の勝又寿良氏は次のように
述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地方政府は金融会社(融資平台)を作っては破綻させており、
 債務の返済を繰り延べてもらっている状態。企業の債務も過去
 5年間で3倍に増えているうえ、成長率が下がっているため借
 金を返すのは困難。そして肝心の不動産市場もすでにバブルは
 崩壊してしまっている。 ──2013年5月7日/夕刊フジ
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、こういう裏ルートの借金が返済不能になると、個人投
資家の購入した理財商品は紙くずになってしまうのです。
 問題はこれらのシャドウ・バンキングの融資残高がどのくらい
になるかです。正確な規模は不明ですが、最大で25兆人民元は
あるといわれています。25兆人民元は日本円で約402兆円と
いう巨額なものになります。中国のGDPは820兆円ですから
ゆうにGDPの半分の規模になるのです。
 すでに欧州系格付け会社フィッチ・レーティングスは、中国の
人民元建ての長期発行体格付けを「AAマイナス」から「Aプラ
ス」に引き下げています。中国の銀行部門がシャドウ・バンキン
グに極めて深く関与しているという疑いがあるというのが格下げ
の理由です。
 2012年には中堅の華夏銀行が販売した理財商品がデフォル
トを引き起こしていますが、今後続々とデフォルトが起きる可能
性があります。
 もっともシャドウ・バンキングや理財商品は、中国固有の問題
ですが、これによって中国の成長率がさらに下落し、不動産バブ
ルの崩壊によって、銀行の不良債権が拡大すれば、深刻な消費低
迷を招くことになるので、日本をはじめ中国に進出し、投資して
いる企業のリスクは拡大することになります。
 これによって、中国版「失われた10年」がはじまる恐れは十
分にあると思います。習政権にとってこのシャドウ・バンキング
は頭の痛い問題です。       ─── [新中国論/45]

≪画像および関連情報≫
 ●「理財商品」口座と自己勘定めぐる銀行の慣行を禁止
  ―――――――――――――――――――――――――――
  [上海/10日/ロイター]中国の債券市場監督当局は5月
  10日、「理財商品」(ウェルス・マネジメント商品)と呼
  ばれる高利回りの金融商品を販売している銀行に対し、銀行
  が管理する顧客の理財商品口座と、銀行の自己勘定の間にお
  ける資金の移動を禁止すると通知した。複数の市場関係者が
  明らかにした。中国の4銀行の債券トレーダーらによると、
  中央国債登記結算(CDC)と上海清算所は共同で、商業銀
  行に対し、銀行の自己勘定と顧客の理財商品口座の間におけ
  る債券取引はできなくなると通知した。10日午後から適用
  されるという。CDCからはコメントを得られなかった。ト
  レーダーらによると、各行は理財商品投資家に約束した配当
  を行うため、自行のバランスシートと、管理している顧客の
  理財商品口座の間で債券のやり取りをしていたが、新規制に
  よりこうした慣行を認めなくする。こうした慣行は、商品の
  新規販売による流入資金を既存の投資家に対する配当に充て
  ることを容認するものだとして、ねずみ講まがいの手法だと
  の指摘が出ている。仕組みが複雑なこともあり、銀行を流動
  性リスクにさらすものだとの懸念も浮上していた。
  http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE94907B20130510
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金融危機が迫る中国.jpg
金融危機が迫る中国
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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