2013年05月15日

●「薬物依存症の如き投資依存の中国」(EJ第3546号)

 中国の経済発展研究センターのL副所長の論文の意図はどこに
あったのでしょうか。この研究センターの所長は大臣と同格の地
位を与えられており、副所長はそれに次ぐ存在です。そして、こ
の論文は、習近平国家主席はもちろんのこと、李克強首相も読ん
でいるはずです。
 それに加えて、なぜ中国はこのような重要なことを論文のかた
ちで発表したかです。もし、中国政府に対するレポートであれば
論文のかたちはとらないでしょう。むしろ、中国政府がなかなか
事実を認めないからこそ、外に知られても構わない、いやあえて
外に知らせるという意図をもって論文のかたちにしたとも考えら
れるのです。このL副所長のレポートについて、津上俊哉氏は次
のようにコメントを出しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 このL博士の論文には、経済学で言う当たり前のことが書いて
 あるに過ぎないのに、これまで中国政府は危機を認めて来ませ
 んでした。L博士が述べているように、薬物依存症のような投
 資依存の悪循環をここで断ち切らないと、数年後には習近平体
 制を揺るがす真の危機が、中国に到来するでしょう。
              ──「週刊現代」11・18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 津上氏のいう「薬物依存症のような投資依存の悪循環」とは、
具体的には何を指しているのでしょうか。それは、中国の地方自
治体による金融機関からの過剰な借り入れを通じての「ハコモノ
行政」を指しています。このハコモノ行政の展開によって、いた
るところに、人が誰も住まないゴーストタウンを次々と建設して
いることについては既に述べた通りです。
 そんなことを続けていれば、潜在的な不良債権を山のごとく積
み上げる結果になることは周知の事実です。中央政府はそのこと
を知りながら、GDPで日本を追い越すために地方政府にはっぱ
をかけたのです。それに加えて、地方政府からの報告には相当の
水増しが含まれており、地方政府の債務が本当のところどのくら
いの額になるのかわからなくなっているのです。
 ごく最近の話ですが、このことを裏づける話があるのです。そ
れは、中国公認会計士協会の張克副会長──著名な公認会計士の
次の発言です。
―――――――――――――――――――――――――――――
 地方政府の財務は管理不能である。いずれ米国の金融危機より
 も大規模な危機を引き起こすことになるかもしれない。(債券
 発行についての監査依頼があったので)いくつかの地方自治体
 の財務監査を行ったが、とても債券を発行できるような状況で
 はないことがわかった。そのため、私の事務所では、債券発行
 に関わる監査の依頼を断ることにした。
  ──「日経ビジネスオンライン」掲載の倉都康行氏論文より
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20130507/247612/?ST=pc
―――――――――――――――――――――――――――――
 この発言は衝撃的です。中国の著名な公認会計士が、市場で囁
かれていた時限爆弾の存在を認めたからです。もうひとつ地方政
府の債務を増加させたのは、いわゆる「影の銀行」──シャドウ
バンキングを通じての資金調達です。これについては、大きな問
題であるので、明日のEJで取り上げます。
 経済発展研究センターのL副所長は、この問題はもはや隠し切
れない問題であると見ているようです。そのため、論文の最後に
は、次のような経済崩壊危機に備えての中国の心構えのようなこ
とが記述されています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 経済危機と社会危機の到来は、必ずしも暗澹となることではな
 い。人には禍福があり、月には満ち欠けがあるものだ。暴風雨
 の後には美しい虹がかかるではないか。逆説的だが今年、中国
 が経済危機に見舞われることは、吉事と思いたい。なぜなら、
 短期的なウミを出すことによって、長期的な発展に向かう機会
 となるからだ。そして再び、改革を加速化させるだろう。
              ──「週刊現代」11・18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに、L副所長は、胡錦濤政権の10年間の政権運営に対す
る反省のようなことも述べています。そして、「中国の高度成長
時代の終焉」を宣言しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 加えて、中国を取り囲む国際環境も、険悪になりつつある。周
 辺諸国で中国の友人は、ますます減っているではないか。(胡
 錦濤時代の)10年間、政府は「調和のとれた社会」だとか、
 「科学的な発展を成し遂げる」などとしきりに強調してきた。
 だが、実際は貧富の格差が拡大した10年だった。そのため、
 改革を先延ばしにしてきたツケが出てきているのだ。もはや中
 国の高度成長の時代は終わった。2015年には7%成長とな
 り、20年には5%まで落ち込むだろう。経済成長の減速で、
 多くの問題が噴出し、企業はバタバタと倒産するに違いない。
 これが中国の近未来の現実なのだ。
              ──「週刊現代」11・18より
―――――――――――――――――――――――――――――
 このように、中国の過剰投資は誰の目にも明らかですが、そう
かといって、投資をやめることはできないのです。もし、それを
やると、経済成長率に危険信号が灯ります。何しろ、8%を少し
切っただけで大騒ぎになる国だから大変です。
 外国からの投資を求めるにしても、いわゆる「チャイナ・リス
ク」があって、諸外国も投資を控える傾向にあります。しかも最
大の投資国である日本との関係は今や最悪です。まして、政権内
部からのこのような論文が出れば、外国からの投資は縮小せざる
を得なくなると思われます。そうかといって、内需型経済へのソ
フトランディングをしようにも、経済格差のひどい状況では困難
であるといわざるを得ないのです。中国は個人消費が非常に低い
国だからです。          ─── [新中国論/44]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の銀行膨張/地方巨額債務が背景/産経ニュース
  ―――――――――――――――――――――――――――
  【北京=山本勲】中国の金融リスクへの警戒感が強まってき
  た。中国全体の経済成長が鈍る中にあって、見せかけの高成
  長を目指す地方政府が「影の銀行(シャドーバンキング)」
  を通じた高利資金で公共事業を拡大し、債務不履行の連鎖が
  金融危機を招く可能性が心配されているためだ。「わが国の
  経済運営は困難に直面している。世界的な(通貨)流動性の
  急増で国際金融危機が頻発しており、金融分野のリスク対策
  を強化せねばならない」。習近平国家主席は、4月25日の
  党政治局常務委員会議でこう強調した。最高指導部がこの時
  期、経済情勢を討議するのはまれで危機感を物語っている。
  3月末には銀行の元締めである中国銀行業監督管理委員会が
  「一部の銀行は融資管理を怠り、投資リスク対策がおろそか
  になっている」と、影の銀行によるリスクの高い信託や債券
  業務の急拡大を厳しく批判し、透明性向上を求めた。影の銀
  行には、(1)既存銀行の貸借対照表に記載されない商業手
  形や信託融資(2)銀行以外の高利貸金融(3)ノンバンク
  などがある。有力経済誌「財経」によれば総融資額は約24
  兆元(約384兆円)にのぼり、国内総生産(GDP)のほ
  ぼ半分に匹敵する。
  http://sankei.jp.msn.com/world/news/130505/chn13050521170003-n1.htm
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張克公認会計士.jpg
張克公認会計士
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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