2013年05月08日

●「中国でも差額選挙は行われている」(EJ第3541号)

 多くの人は中国は共産党の一党独裁の国であり、国民による選
挙もない独裁国家であると思っています。しかし、既に述べたよ
うに、共産党の他に8つの野党──といっても事実上の与党です
が──もあるのです。
 それでは選挙はどうでしょうか。実は国民投票ではないですが
選挙も行われているのです。そのため、有力者の子弟で作る太子
党のメンバーでも、共産党の幹部になるには選挙の洗礼を受けな
ければならないのです。
 といっても以前はそうではなかったのです。選挙とはいってい
ますが、定数枠に対して、候補者も同数しか立候補しない選挙な
のです。これでは事実上の信任選挙です。これを「等額選挙」と
呼んでいます。
 昨日のEJで述べたように、中国共産党の一般党員は8260
万人います。その上のランクは「全国代表大会代表」です。定員
は、2270名ですが、そこに上がるには選挙があるのです。
 どういう選挙かというと、代表100名に対して115名が立
候補し、15人が落選する選挙です。定員よりも必ず15%多い
候補者を立てるのです。これを「差額選挙」というのです。
 この全国代表大会代表2270名の中から、その上のランクで
ある中央委員205名を選ぶことになりますが、ここでも差額選
挙が行われ、9.3 %の候補が淘汰されます。
 選挙は、一般党員から全国代表大会代表を選ぶ選挙、全国代表
大会代表から中央委員会委員を選ぶ選挙の2つであり、そこから
上のランクである中央政治局委員25名と政治局常務委員7名の
選出は選挙ではなく、決められるのです。
 それでは、どのような基準で選出されるのでしょうか。沈才彬
氏はこれについて次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 極めて根源的なのだが、まずはその人物の誠実さと、党組織と
 国民に対する忠誠心の強さが選出の基準となる。次に、実務家
 であることも重要な要素だ。空論ばかりを述べる人物は絶対に
 指名されない。実績も重視される。このことは、ほとんどの政
 治局委員、特に政治局常務委員たちが地方トップ経験者である
 ことからもよく理解できるはずだ。地方政府のトップを1〜3
 度経験してから執行部入りするというプロセスは、非常に重要
 である。(中略)一方、歴代のアメリカの大統領を振り返ると
 州知事経験者が大統領に選出されるケースが多く、この点は中
 国と非常によく似ている。          ──沈才彬著
          「大研究!中国共産党」/角川SSC新書
―――――――――――――――――――――――――――――
 以上は中国共産党の組織構造であり、共産党の全国代表大会は
中国共産党の最高指導機関です。この他に全国人民代表大会(全
人代)があります。これは立法権を行使するほか、国家の最高権
力機関として、行政権・司法権・検察権に優越するのです。日本
の国会と考えればよいと思います。
 しかし、中国の政治は共産党が行うので、全人代よりも中国共
産党全国代表大会の方が権限が上なのです。全人代は、共産党の
提案を否決できないのです。
 2012年11月8日〜14日まで、第18回全国代表大会は
北京で開かれ、中央政治局常務委員7人が選出され、習近平氏が
中国共産党中央委員会総書記に決まったのです。いわゆるチャイ
ナ・セブンは次の7人です。3月19日のEJ第3509号でも
述べましたが、再現します。
―――――――――――――――――――――――――――――
        習近平総書記    劉雲山
        李克強       王岐山
        張徳江       張高麗
        兪正声
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、この時点では、国家主席、首相、副首相などの役職は
決められておらず、それは2013年3月5日の全国人民代表大
会(全人代)ではじめて決まったのです。といってもポストは既
に内定しており、全人代での変更はあり得ないのです。
 ネットを見ると、新聞社でも共産党の全国代表大会を全人代と
混同して記事を書いているケースが多く、混乱しました。全国人
民代表大会、いわゆる全人代の任期は5年で、毎年1回、3月頃
に開催されることになっているのです。今年の第18回全人代は
2013年3月5日から開催されたのです。全人代には共産党員
でない人も参加しますが、代表の定数は3000人を超えてはな
らないという決まりがあります。
 このチャイナ・セブンのうち、中国のトップ3は、次のように
なっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
       トップ1:     習近平総書記
       トップ2:張徳江全人代常務委員長
       トップ3:   李克強国務院総理
―――――――――――――――――――――――――――――
 全国人民代表大会(全人代)は、各省・自治区・直轄市・特別
行政区の代表および軍の代表から構成されており、少数民族や衛
星政党である「民主党派」の党員などの非中国共産党員も含まれ
ていますが、代表の約70%が共産党員なのです。
 なお、全人代では、全人代常務委員会の主催で、全人代代表選
挙が行われます。選挙といっても、既に内定している人事は間違
いなく通るのですが、反対票の割合が注目されるのです。
 2003年の全人代では、胡錦濤氏の国家主席就任について、
2937の賛成票が投じられた一方で、反対は4票、棄権は3票
でした。支持率は99.8 %で、習近平氏もほぼ同様の賛成票で
国家主席に選出されています。
 しかし、江沢民氏の中央軍事委員会主席留任は、賛成2726
票、反対98票、棄権122票で、支持率は92.5 %であった
のです。             ─── [新中国論/39]

≪画像および関連情報≫
 ●李源潮が国家副主席になった意味/日経ビジネスオンライン
  ―――――――――――――――――――――――――――
  2013年3月14日、全人代では国家副主席などの重要な
  ポストの選挙が行われたが、国家副主席に当選したのは李源
  潮。昨年の党大会で「チャイナ・セブン」(中共中央政治局
  常務委員)に抜擢されるだろうと早くから期待されていた共
  青団のホープだ。利益集団に果敢に切り込み、あちこちから
  恨みを買っている。幹部を断罪するか否か、実際に決定して
  きたのは胡錦濤時代のチャイナ・ナインで、その指示を受け
  て中共中央紀律検査委員会が取り調べを行うのだが、処罰に
  関する宣言をするのは中共中央組織部の長である李源潮だっ
  たため、利益集団は彼を嫌った。その結果が投票数にも如実
  に表れている。たとえば習近平の国家主席就任に関する票決
  は2956票中、「賛成:2952票、反対:1票、棄権:
  3票」に対して、国家副主席にノミネートされた李源潮に対
  する投票結果は、「賛成:2829票、反対:80票、棄権
  37票」と、議場に軽いどよめきが起きるほどに反対票が多
  かった。胡錦濤が李源潮を推し、習近平が支援していなけれ
  ば、ノミネートさえされなかっただろう。李源潮は政治局常
  務委員ではなく、単なる政治局委員だ。通例は常務委員でな
  ければなれない国家副主席に李源潮がなった意義は大きい。
  http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130318/245168/
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胡錦濤から習近平へ.jpg
胡錦濤から習近平へ
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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