2013年04月25日

●「改革すべき都市農村二元構造問題」(EJ第3535号)

 中国の都市・農村二元構造問題の話を続けます。農村部は改革
・開放前の中国でも中国の経済建設に大きな貢献をしているので
す。当時農民は生産した農作物をすべて国家に強制的に売り渡す
専売制が行われていたのです。
 しかも、売り渡し価格は工業製品価格に比べると非常に低く、
そこで生まれる差益は、国の経済開発に使われるという趣旨の制
度なのです。この専売制の下で、農民から政府に移転した所得は
総額6000億元に及んだのです。
 それに加えて、農民に対しては「租庸調」と呼ばれる農民課税
が課せられるのです。この農民課税は、春秋戦国時代以来実に、
2600年にわたって続けられたすえ、新中国でも存続しており
最近になってやっと廃止されたのです。
 その税収は累計で4000億元であり、これに農作物専売制の
差益を加えると、ちょうど1兆元になります。この数字は、物価
水準が現在とは比較にならないほど低かった時代の1兆元であり
いかに過酷なものであったかがわかると思います。
 さらに、中国が日本を抜いて世界第2の経済大国になれたのは
ケ小平が進めた改革・開放路線にしたがって、農村部から沿海部
の大都市部に進出した大量の安い賃金の労働力が、中国の経済建
設に大きく貢献したのです。
 しかるに中国経済に対するこれほど大きな貢献にもかかわらず
農民は都市住民とは差別されているのです。都市の一般市民の下
に、下級市民を置く──このような制度を残しているようでは、
中国は真の一流国家にはなれないと思います。
 都市の一般市民の大半は、そういう差別制度を当たり前のこと
としてとらえ、他人の苦しみに対してあまりにも無関心であると
いえます。それどころか、そういう都市市民と役人たちは、あら
ゆる悪をこういう「外地人」のせいにして見下し、嫌っていると
いわれます。
 さらに、この制度が完全な身分差別制度であることを否定でき
ない規則があるのです。これについて鳥居民氏は「奸智に長けた
というしかない規則」であるとして、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 さらに好智に長けたというしかない規則がある。農村戸籍の者
 と都市戸籍の者が結婚した場合、生まれた子供の「常住戸口」
 は母親の「常住戸口」に従うという決まりがある。もしも都市
 戸籍の青年が内陸部から出てきて工場で働いている娘と結婚し
 ようものなら、それこそ生まれた子供は公立の小学校へも行け
 ないばかりか、就業、医療などの差別を生涯受けねばならなく
 なるのだ。             ──鳥居民著/草思社
 「それでも戦争できない中国/中国共産党が恐れているもの」
―――――――――――――――――――――――――――――
 これによって明らかであるように、この制度は結婚の自由をも
冒しているといえます。なぜなら、こんな規則があれば、都市住
民の青年は結婚相手として、都市住民の女性しか選ばなくなるこ
とは明らかであるからです。
 もちろん改革がぜんぜん進んでいないわけではないのです。こ
の10年で失業保険や就労に対する保護制度が都市部に住む農民
に一部適用になっているし、一部の都市、例えば北京に住む農民
は北京の病院で保険が適用されるようになってきています。
 しかし、差別を撤廃し、農民と都市住民を一元化するところま
ではとても行っていないのです。なぜなら、それを大きく進める
には、莫大な財政負担を伴うからであり、大きく一歩が踏み出せ
ないでいるのです。
 そういうことにもあって、最近農民たちは、沿海部への出稼ぎ
を嫌うようになってきています。どうしてかというと、都市に住
もうとすると物価の上昇で生活は苦しくなっており、住宅費も高
騰しています。そのうえ就学、医療、失業、就職などさまざまな
差別を受けるので、都市部に住むメリットが少なくなっているか
らです。
 それなら、郷里のある省内の出稼ぎの方が、給与は沿海部より
は安いが、物価も低いし、差別を感じることもないので、その方
がよいと思い始めており、沿海部への出稼ぎをやめる農民が多く
なりつつあります。
 この傾向は、中国の経済に大きなダメージを与えることになり
ます。農民が出稼ぎにきてくれなくなると、沿海大都市の労働者
の賃金はさらに高騰し、中国は今までの売りであった「安い労働
力をベースとする世界の工場」のポジションを維持できなくなっ
ているのです。なぜなら、中国は高騰した賃金を上回るスピード
で生産性と付加価値を向上させないと、実質の経済成長を見込め
なくなってしまうからです。
 中国の「都市・農村の二元構造問題」の解決の必要性について
現代中国研究家の津上俊哉氏は次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が沿海部の不必要な賃金高騰を回避し、また、所期どおり
 都市化を進め、そこで得られる外部経済効果を経済成長の牽引
 力にしていくためには、農民差別を生む「都市・農村の二元構
 造問題」を抜本的に解決する必要がある。総体としてみて13
 億国民の半分を占める農村居住者と都市に在住する2億人の農
 村戸籍者、つまり中国国民の約3分の2は依然として公共サー
 ビス面で差別を受けており、国民の社会階層の固定化、つまり
 貧しい家庭の子供が上の社会階層に上がる可能性も狭くなって
 いるといわれる。このような社会的不公正を放置することは、
 「共産党」の名折れである。        ──津上俊哉著
         「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 現在、中国経済の勢いの衰えが目立ってきています。今までは
都市・農村の二元構造を利用して経済成長を成し遂げてきたので
すが、今後はその身分制度がネットになって、経済が鈍化しつつ
あります。この身分社会の改革することが現在の中国に強く求め
られているのです。         ── [新中国論/33]

≪画像および関連情報≫
 ●2030年中国はどうなる/ちきゅう座
  ―――――――――――――――――――――――――――
  振り返れば、1979年12月最高指導者ケ小平が20世紀
  末までに一人当たり国民総生産(GDP、250ドル)を2
  倍の2倍、つまり4倍の1000ドルにしたいといったとき
  多くの中国通はこれを「ケ小平の夢だ」といった。私もまた
  半信半疑であった。だが、中国は、1978〜1990年の
  間に貧困状態から「温飽(衣食が足る生活)」水準になり、
  1990〜2000年は「小康(いくらかゆとりのある)」
  水準になった。そして本書は、「2020年には中国は世界
  第一位となり、世界最強の国家になる」「2030年には世
  界の五分の一、十数億の人口を擁する国の現代化はほぼ完成
  する」「国家のライフサイクルという点で見ると、この流れ
  は100年以上続く」と高らかに宣言する。こういえるのは
  2010年に中国はGDPレベルで日本を追い越し、なお経
  済成長を見通せるからだ。2011年夏に中国での長期滞在
  から帰国したとき、ある人は中国の技術は依然として遅れて
  いると語った。だが、私が住んだ青海省はともかく、大都市
  にはすでに国産の高級電化製品があった。
           http://chikyuza.net/n/archives/28627
  ―――――――――――――――――――――――――――
 ●グラフ出典
  http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2007/2007honbun/html/i1320000.html

中国における都市部と農村部の所得格差.jpg
中国における都市部と農村部の所得格差
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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