2013年04月11日

●「ルイスの転換点を超えている中国」(EJ第3525号)

 中国は名目GDP成長率で日本を抜くことを目標にして投資に
重点を置いてやってきたのです。投資をすればGDPを押し上げ
ることができるからです。
 中国の不動産業者が投資をして、テナントビルを建てたとしま
しょう。仮にそのビルに一人のテナントも入らず、まったく収益
が上げられなくても、GDP上は投資の増加としてカウントされ
その分GDPを押し上げるのです。
 中央の共産党指導部は、地方政府に対し、どれだけ投資をして
GDPを押し上げることに貢献したかによって評価するので、地
方政府としてはなり振りかまわず、ハコモノに投資をして自分の
成績を上げようと必死になります。そこにテナントが入って利益
を上げるなどということは関係ないのです。
 これが誰も住まないマンションや都市、すなわち「鬼城」──
グイチェンがあちらこちらにできた理由なのです。それでも名目
GDPは伸びますから、それが積み重なって、日本を抜いて世界
第2位の経済大国の地位を手に入れたのです。
 しかし、これは、不動産のバブル化や深刻な環境破壊、設備投
資の行き過ぎの供給過剰状態(産能過剰)を生み出したのです。
そのため、中国では、2002年以降、衣服や家電製品、自動車
や通信機器などの工業製品の国内小売価格が継続的に下落してい
るのです。
 高度成長期には、仕事はいくらでもあるので、多くの人が職に
就き、失業率は低く、需要過多で、供給過少の状態になって、工
業製品の物価は上昇する──これが本来の姿なのです。
 ところが、中国の場合、高度成長しているにもかかわらず、失
業率は4%台で高止まりしており、需要過少で供給過剰になって
いるのです。これは本当に「経済が高度成長していない」のでは
ないかと疑われても仕方がないのです。
 問題は、中国が「GDPの50%を開発に投下している」こと
です。これは、4月8日のEJ第3522号の添付ファイル「中
国の名目GDP増加分百分比」を見ていただくと、2001年か
ら2004年までは、総固定資本形成(投資)が50%を占めて
いることが一目瞭然でわかると思います。
 この異常な経済構造は、ソ連の末期と同じであり、このまま行
くと、ソ連と同じように中国経済も崩壊する可能性があるとルー
ビニ教授は指摘しているのです。教授は、実際に中国の新幹線に
乗車して、次のように感想を述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国が鳴り物入りの新幹線に乗った。上海から杭州へ50分で
 つながる新幹線の乗客は半分だった。新駅は三分の一が空っぽ
 だった。平行して走るハイウェイは、じつに三分の二ががらが
 らだった。これは何を意味するか。60年代のソ連、97年通
 貨危機に直面する前までのアジアと今の中国の状況は酷似して
 いる。            ──ヌリエル・ルービニ教授
      http://kei007.blog24.fc2.com/blog-entry-97.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 「ルイスの転換点」という言葉があります。農業を中心として
きた低開発国が、高度成長期になったとき、農村の未活用の余剰
労働力が都市部に移動して製造業などに投入されるため、人件費
は上昇しないのです。
 中国も外資系大手企業の間で「魔法のような国」といわれたこ
とがあります。人を雇おうと思って広告を出すと、広告枠の何倍
もの内陸の若者たちが次から次へと出稼ぎに来るので、いくら人
を雇っても人件費が上がらない国という意味で、「魔法の国」と
呼んだのです。
 しかし、労働力移動が峠を越えて完全雇用に近づくと、人件費
は向上し、人出不足になってくるのです。それに既に職に就いて
いる労働者たちは賃金値上げのためのストを頻繁に行い、人件費
が高騰してくるのです。そのターニングポイントを「ルイスの転
換点」と呼んでいます。
 ルイスの転換点は、英国の経済学者でノーベル経済学賞受賞者
のアーサー・ルイス氏が人口流動モデルのなかで提唱した理論で
す。日本では1960年代後半ごろにこの転換点に達しています
が、中国の場合、国が広いので、完全雇用とはいえないものの、
2006年頃にはこの転換点に達しているはずです。
 ルイスの転換点を過ぎると、求人難が起こり、それは人件費の
高騰を招きます。全国各地で法定最低賃金が引き上げられ、もは
や現在の中国では、「ものを安く作れない」状況が生まれてきて
いるのです。
 そうなると、中国に進出している日本をはじめとする外国企業
にとっては、中国の生産工場としての魅力は失われてきており、
少なくともそれ以上過大な投資はしなくなります。
 まして、2012年に尖閣諸島国有化宣言に抗議する反日デモ
で、多くの日本企業が破壊され、焼き討ちにされるさまを見せつ
けられた中国に進出している各国企業は、チャイナ・リスクを感
じて、中国への投資を控えるようになるのは当然のことです。
 実はこの暴動が起きるまでの1年ほどの間に、欧米諸国の対中
投資額は軒並み減少しており、米国の場合、暴動前で実に16%
減少しているのです。欧州危機の影響もあるでしょうが、本当の
理由は、中国市場のピークの時代は終わったと判断しての撤退で
あると思われます。まして、あの反日暴動を見せられると、ます
ます投資を控えるようになるはずです。
 なかでも中国に一番投資しているのは日本なのです。日本から
中国への直接投資は、年間約5000億円〜6000億円のペー
スであり、その残高は6.5 兆円にも達するのです。フローベー
スの直接投資額を見ると、香港、台湾といった中国の身内をのぞ
くと、日本は実質的に世界一なのです。
 中国における日本企業の数は2万2800社、米国系企業を抜
いて世界一の企業数であり、1000万人以上の中国人を雇用し
ているのです。その日本企業ですら、今回の尖閣問題では撤退の
検討をはじめているのです。     ── [新中国論/23]

≪画像および関連情報≫
 ●中国市場はまだ魅力的なのか/直接投資16.2 %増
  ―――――――――――――――――――――――――――
  外国企業による中国への直接投資が減っている。中国商務省
  が、2012年12月18日に発表した11月の対中直接投
  資の実行額は前年同月に比べて5・4%減の82億9000
  万ドル(約6950億円)。6ヵ月連続でマイナスとなって
  いる。海外からの投資が経済成長をけん引してきた中国にと
  って、大きな痛手になりそうだ。ただ、日本からの投資は増
  え続けている。外国企業の対中直接投資が減少している背景
  には、世界的な景気の先行きへの不透明感がある。なかでも
  「震源地」の欧州企業は財務の悪化から投資を控えざるを得
  なくなった。加えて、中国では人件費の高騰や消費の伸び悩
  みなどの問題が浮上。日本にとっては、9月に起こった尖閣
  問題をきっかけとした大規模な反日デモの影響もある。これ
  らを契機に外国企業に対中投資を見直す動きが広がってきた
  のである。ところが、2012年11月の日本からの直接投
  資は、前年同月比16・2%増の5億3000万ドル(約4
  40億円)と2か月ぶりにプラスに転じた。反日デモの影響
  が薄らいだことで、それ以前に決定していた投資案件が実行
  されたようだ。
     http://www.j-cast.com/2012/12/19158916.html?p=all
  ―――――――――――――――――――――――――――

中国の新幹線/CRH380A.jpg
中国の新幹線/CRH380A
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。