のです。しかし、それが大切なのです。それが民主主義のコスト
なのです。
野田内閣のときに「決められる政治」という言葉が流行したの
です。これもひとつのことを決めるのに時間がかかることにイラ
ついて、野田首相率いる民主党は、敵方の自民党と「消費増税」
で手を結び、この法案を強引に成立させ、民主党という党を台な
しにするという信じられない愚かな決断をしてしまっています。
ところで中国では、国家資本主義を取るに当り、1997年の
共産党第15回党大会では次の方針を立てていたのです。
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国家安全や自然独占のような業種では国有企業を残すが、競
争産業からは国有資本を退出させる。
──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
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中国は、この時期に経済を計画経済から市場経済に切り換えつ
つあり、国有企業の改革に本気で取り組んでいたのです。そのた
め、この党大会ではかなりまともなことを宣言しています。これ
を「国退民進」といいます。
もっともこの時期は、税収がさっぱり増えず、中央政府の財政
は逼迫し、カネがなかったのです。経済を成長させるには投資が
必要ですが、その肝心の資金がなかったのです。そのため、「国
退民進」をするしかなかったといえます。
しかし、それから15年が経過して、とくに10%以上の成長
が続いた過去数年間で、政府には潤沢な税収や土地の払い下げ収
入が入ってくるようになったのです。国有企業も株式上場で、資
本市場からの資金調達ができるようになって、内部留保も増大し
つつあったのです。
ちょうどこの時期、とくに2008年のリーマンショック以来
欧米経済は退潮し、中国をはじめとする新興国の国家資本主義が
台頭し、市場経済を押えて優位に立ったかに見える論調があらわ
れるようになったのです。なお、この論調のことを、それまでの
「ワシントンコンセンサス」に代わって、「北京コンセンサス」
というのです。
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ブリュッセル現代中国研究所のジョナサン・ホルスラグ研究主
任の定義によれば、北京コンセンサスとは、経済発展を国家の
至上課題とし、国家の安定を保ちながら政府が積極的に成長促
進策を取ることを指す。その考えの下では、経済運営の手綱は
政府が握り、特に金融セクターは厳しい監督下に置く。エネル
ギーセクターの研究開発も政府の指導のもとに実施される。ま
た、貿易による国際市場からの恩恵は受けつつも、場合によっ
ては輸入制限も辞さず、政府の調達対象も限定する。これらは
自由市場ならびに金融の自由化を旨としたワシントンコンセン
サスとは対極の考え方と言える。
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090507/beijing_consensus
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しかし、中国共産党は、カネが入って来るようになると、豹変
したのです。第15回党大会の理念であったはずの「国退民進」
は完全に忘れ去られ、「国進民退」になってしまったのです。
とくにリーマンショック対応の2009年の4兆元投資の膨大
な資金のほとんどが国有企業の懐に収まってしまってからは、も
はや歯止めの効かない官の増殖がはじまったのです。
中国の企業は生産性を高め、付加価値を増大させていかなけれ
ばならないのに、「親方日の丸」ならぬ「親方五星紅旗」をはび
こらせている──津上俊哉氏は自著のなかで、このように述べて
います。また、中国の国有企業について、津上俊哉氏は次の問題
点を指摘しています。
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国有企業は共産党組織部の人事でトップが決まる、周囲に情実
がつきまとっているせいでコスト管理が甘い、中央直轄企業は
巨大すぎてガバナンスが働かない等々、利益水準が低い理由は
枚挙に逗がない。そういう効率の低い国有企業セクターが肥大
化する中国経済の先にはいかなる結末が待っているかは中学生
でも分かる。次第に成長力を失って失速し始めるはずだ。
──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
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米エール大学の陳志武教授は、116兆元と推定される中国の
国富の実に4分の3が、政府の手にあると指摘しています。つま
り、国富増大の資産効果のほとんどを政府が独占していることに
なります。つまり、分配という観点から中国経済を見ると、最大
の勝ち組は政府なのです。
それは、国有の土地の資産価値が急激に増大したことに加えて
銀行をはじめとする国有企業が続々と上場を果たし、莫大な上場
益が政府の懐に入ったからです。
陳志武教授は、中国経済は投資が過剰で、輸出に過度に依存し
サービス産業は発育不全で、消費が弱いと指摘していますが、こ
のままでは、今後数年の間に中国経済はハードランディングせざ
るを得ないと警告しています。もし、ハードランディングすれば
GDPは大幅に減少することになります。
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2012年4月25日、アメリカイェール大学の陳志武教授は
数年後に中国経済がハードランディングする可能性は非常に高
いと指摘した。陳志武教授は、中国経済が2012年にハード
ランディングする可能性は低いとしながらも、今後5〜10年
以内にハードランディングする可能性は8割から9割に達する
と予測している。仮にハードランディングが発生した場合、金
融危機に発展する可能性が高く、その場合はGDPも大幅に減
少すると警告した。 ──ライブドア・ニュース
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── [新中国論/18]
≪画像および関連情報≫
●「北京コンセンサス」の終わり/Foreign Affairs Update
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一般に途上国の一人当たりGDPが3000〜8000ドル
に達すると、経済成長は頭打ちになり、所得格差が拡大して
社会紛争が起きがちとなる。中国は、すでにこの危険水域に
入っており、すでに厄介な社会兆候が現れている。要するに
国の経済は拡大しているが、多くの人々は貧しくなったと感
じ、不満を募らせている。特権を持つパワフルな利益団体や
まるで企業のように振る舞う地方政府が、経済成長の恩恵を
再分配して、社会に行きわたらせるのを阻んでいるからだ。
経済成長と引き替えに共産党の絶対支配への同意を勝ち取る
中国共産党(CCP)の戦略はもはや限界にきている。CC
Pが経済成長を促し、社会的な安定を維持していくことを今
後も望むのであれば民主化を進める以外に道はない。
http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201003/Yao.htm
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陳志武イェール大学教授


