2013年04月04日

●「北京コンセンサスの終わりの始り」(EJ第3520号)

 民主主義というのは、何かを決めるとき、時間がかかるものな
のです。しかし、それが大切なのです。それが民主主義のコスト
なのです。
 野田内閣のときに「決められる政治」という言葉が流行したの
です。これもひとつのことを決めるのに時間がかかることにイラ
ついて、野田首相率いる民主党は、敵方の自民党と「消費増税」
で手を結び、この法案を強引に成立させ、民主党という党を台な
しにするという信じられない愚かな決断をしてしまっています。
 ところで中国では、国家資本主義を取るに当り、1997年の
共産党第15回党大会では次の方針を立てていたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国家安全や自然独占のような業種では国有企業を残すが、競
 争産業からは国有資本を退出させる。
 ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国は、この時期に経済を計画経済から市場経済に切り換えつ
つあり、国有企業の改革に本気で取り組んでいたのです。そのた
め、この党大会ではかなりまともなことを宣言しています。これ
を「国退民進」といいます。
 もっともこの時期は、税収がさっぱり増えず、中央政府の財政
は逼迫し、カネがなかったのです。経済を成長させるには投資が
必要ですが、その肝心の資金がなかったのです。そのため、「国
退民進」をするしかなかったといえます。
 しかし、それから15年が経過して、とくに10%以上の成長
が続いた過去数年間で、政府には潤沢な税収や土地の払い下げ収
入が入ってくるようになったのです。国有企業も株式上場で、資
本市場からの資金調達ができるようになって、内部留保も増大し
つつあったのです。
 ちょうどこの時期、とくに2008年のリーマンショック以来
欧米経済は退潮し、中国をはじめとする新興国の国家資本主義が
台頭し、市場経済を押えて優位に立ったかに見える論調があらわ
れるようになったのです。なお、この論調のことを、それまでの
「ワシントンコンセンサス」に代わって、「北京コンセンサス」
というのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ブリュッセル現代中国研究所のジョナサン・ホルスラグ研究主
 任の定義によれば、北京コンセンサスとは、経済発展を国家の
 至上課題とし、国家の安定を保ちながら政府が積極的に成長促
 進策を取ることを指す。その考えの下では、経済運営の手綱は
 政府が握り、特に金融セクターは厳しい監督下に置く。エネル
 ギーセクターの研究開発も政府の指導のもとに実施される。ま
 た、貿易による国際市場からの恩恵は受けつつも、場合によっ
 ては輸入制限も辞さず、政府の調達対象も限定する。これらは
 自由市場ならびに金融の自由化を旨としたワシントンコンセン
 サスとは対極の考え方と言える。
 http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20090507/beijing_consensus
―――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、中国共産党は、カネが入って来るようになると、豹変
したのです。第15回党大会の理念であったはずの「国退民進」
は完全に忘れ去られ、「国進民退」になってしまったのです。
 とくにリーマンショック対応の2009年の4兆元投資の膨大
な資金のほとんどが国有企業の懐に収まってしまってからは、も
はや歯止めの効かない官の増殖がはじまったのです。
 中国の企業は生産性を高め、付加価値を増大させていかなけれ
ばならないのに、「親方日の丸」ならぬ「親方五星紅旗」をはび
こらせている──津上俊哉氏は自著のなかで、このように述べて
います。また、中国の国有企業について、津上俊哉氏は次の問題
点を指摘しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 国有企業は共産党組織部の人事でトップが決まる、周囲に情実
 がつきまとっているせいでコスト管理が甘い、中央直轄企業は
 巨大すぎてガバナンスが働かない等々、利益水準が低い理由は
 枚挙に逗がない。そういう効率の低い国有企業セクターが肥大
 化する中国経済の先にはいかなる結末が待っているかは中学生
 でも分かる。次第に成長力を失って失速し始めるはずだ。
  ──津上俊哉著「中国台頭の終焉」/日経プレミアシリーズ
―――――――――――――――――――――――――――――
 米エール大学の陳志武教授は、116兆元と推定される中国の
国富の実に4分の3が、政府の手にあると指摘しています。つま
り、国富増大の資産効果のほとんどを政府が独占していることに
なります。つまり、分配という観点から中国経済を見ると、最大
の勝ち組は政府なのです。
 それは、国有の土地の資産価値が急激に増大したことに加えて
銀行をはじめとする国有企業が続々と上場を果たし、莫大な上場
益が政府の懐に入ったからです。
 陳志武教授は、中国経済は投資が過剰で、輸出に過度に依存し
サービス産業は発育不全で、消費が弱いと指摘していますが、こ
のままでは、今後数年の間に中国経済はハードランディングせざ
るを得ないと警告しています。もし、ハードランディングすれば
GDPは大幅に減少することになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
 2012年4月25日、アメリカイェール大学の陳志武教授は
 数年後に中国経済がハードランディングする可能性は非常に高
 いと指摘した。陳志武教授は、中国経済が2012年にハード
 ランディングする可能性は低いとしながらも、今後5〜10年
 以内にハードランディングする可能性は8割から9割に達する
 と予測している。仮にハードランディングが発生した場合、金
 融危機に発展する可能性が高く、その場合はGDPも大幅に減
 少すると警告した。       ──ライブドア・ニュース
―――――――――――――――――――――――――――――
                  ── [新中国論/18]

≪画像および関連情報≫
 ●「北京コンセンサス」の終わり/Foreign Affairs Update
  ―――――――――――――――――――――――――――
  一般に途上国の一人当たりGDPが3000〜8000ドル
  に達すると、経済成長は頭打ちになり、所得格差が拡大して
  社会紛争が起きがちとなる。中国は、すでにこの危険水域に
  入っており、すでに厄介な社会兆候が現れている。要するに
  国の経済は拡大しているが、多くの人々は貧しくなったと感
  じ、不満を募らせている。特権を持つパワフルな利益団体や
  まるで企業のように振る舞う地方政府が、経済成長の恩恵を
  再分配して、社会に行きわたらせるのを阻んでいるからだ。
  経済成長と引き替えに共産党の絶対支配への同意を勝ち取る
  中国共産党(CCP)の戦略はもはや限界にきている。CC
  Pが経済成長を促し、社会的な安定を維持していくことを今
  後も望むのであれば民主化を進める以外に道はない。
  http://www.foreignaffairsj.co.jp/essay/201003/Yao.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

陳志武イェール大学教授.jpg
陳志武イェール大学教授
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
I have no idea how you do this but I’m completely fond of this blog.
Posted by maillot de foot at 2013年06月29日 08:20
I’ve been browsing on-line more than three hours lately, yet I never found any fascinating article like yours. It is pretty worth enough for me. In my opinion, if all webmasters and bloggers made good content as you probably did, the web might be a lot more helpful than ever before.
Posted by maillot de foot at 2013年07月10日 07:47
I couldn’t resist commenting, Many thanks a whole lot for sharing!
Posted by gifts for men at 2013年07月27日 06:41
I much like the precious information you provide you with as part of your articles.I’ll bookmark your weblog and take a look at once again below continually.I’m quite guaranteed I’ll learn considerably of new things suitable here! Great luck to the next!
Posted by soccer jerseys at 2013年08月05日 04:55
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。