2013年03月28日

●「深刻な超格差社会を形成する中国」(EJ第3515号)

 中国のテーマに入って難航しています。あまりにも日本と事情
が異なるからです。そういう諸事情を踏まえないと、経済の問題
に踏み込めないようです。
 中国では、都市と農村の戸籍が区分されています。既に「農民
工」という言葉を使いましたが、単に農村から都市に出稼ぎに行
く労働者ということではなく、彼らは身分的に戸籍が分離されて
いるのです。
 しかも、農民工による都市戸籍の取得は制限されており、彼ら
は、中小零細企業で最低賃金以下の劣悪な労働条件で働くケース
が多いのです。中国の国家統計局によると、農民工は2011年
の時点で約2億5000万人も存在するというのです。
 また、農村部の青年が都市部の大学の入学試験に合格するため
には、都市戸籍所有者よりも高い点数が求められるという不平等
が現実に存在するのです。つまり、農村部の人は、本人の努力で
はどうすることもできない巨大な政治的、社会的な壁があるので
格差は固定化し、彼らにとって将来に希望が持てない社会になっ
ているといえます。
 中国は深刻な格差社会を形成しているといいますが、これにつ
いて、大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は自著で次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国における貧富の格差を、実際のデータで確認しておこう。
 世界銀行の統計によれば、中国では上位1%の富裕層が四割以
 上の富を独占している。また、2012年10月に、中国の人
 事社会保障省が公表した「中国報酬発展報告」によれば、20
 07年のある保険会社トップの年収は6616万元(約8億2
 700万円)と、会社員平均の2751倍、農民工の4553
 倍に達する。2011年の中国の1人当たりの国内総生産(G
 DP)は5400ドルと、世界183ヶ国中、90位に過ぎな
 ない。中国では総人口のわずか4分の1の富裕層が、総所得の
 4分の3を占める一方で、「貧困ライン」以下で生活を送る人
 は一億人を超えている。   ──熊谷亮丸著「パッシング・
   チャイナ/日本と南アジアが直接つながる時代」/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 一般労働者の平均月収が3万円程度であるのに対し、国営企業
の経営者や共産党幹部は、年収10億円クラスはザラであり、共
産党の指導者になると、財産の規模は数千億円にも達するという
のです。まさに超格差社会であり、これでは不平等是正のために
いつ暴動が起こっても不思議はないのです。
 もうひとつ知っておくべきことがあります。日本と中国の不動
産の概念の違いです。中国では土地そのものは日本のように所有
できないのです。個人には所有権がないからです。土地そのもの
を所有しているのは、国家と集団の2つです。これを土地の社会
主義公有制と呼んでいるのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
   都市部の土地 ・・・・・・・・・・・ 国家所有
   都市部以外の農村・郊外の土地 ・・・ 集団所有
―――――――――――――――――――――――――――――
 つまり、中国国内で土地を利用するには、土地そのものを所有
するのではなく、期限付きの「土地使用権」を取得するのです。
 これまで中国の経済成長を支えてきたのは、輸出拡大と固定資
産投資──機械設備や建物などへの不動産投資の増加なのです。
輸出が拡大するには、そのための設備投資が増加するのは当然の
ことですが、住宅建設などの不動産投資はGDPの20%を占め
ています。したがって、もし不動産バブルが崩壊すると、GDP
から20%分が消えてしまうので、中国経済のアキレス腱といわ
れているのです。
 この中国の住宅建設について、石平氏と経済評論家の三橋貴明
氏が興味あるやり取りをしています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 石平:中国の不動産バブルには、もう1つの事情があります。
    不動産開発が始まった1998年より前は、中国都市部
    では不動産という概念が浸透していなかったのです。政
    府から人民は家を「福祉」として配給されていました。
    ようやく、98年から福祉としての住宅配給制度が廃止
    された。この結果として、みんなが家を持つことが可能
    になり、この10年間で不動産が次々と開発されて、爆
    発的に住宅などが増えたのです。
 三橋:それは、すごいインパクトでしょうね。例えば、土地を
    1000万円で売買する場合、原価がゼロのものを10
    00万円で売るのですから、中国経済はその分丸ごと大
    きくなります。国が私有財産を認めるとは、そういうこ
    とでしょう。こう考えると、中国経済は急速に成長して
    当たり前なのです。     ──石平/三橋貴明共著
           「中国経済がダメになる理由」/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 実は不動産バブルを煽り立てているのは地方政府なのです。石
平氏によると、朱鎔基首相のときに税制改革をやって、税金はほ
とんど中央政府の方に持っていかれる仕組みになってしまったの
で、地方財政は土地で支えるしか方法がなくなったのです。
 そこで地方政府は、不動産開発業者たちに土地の使用権を譲渡
してカネを作り出したのです。その総額は三兆元に及ぶといわれ
ています。農村や地方の土地は集団所有であり、地方政府がその
使用権を譲渡できるのです。
 これによって、三橋貴明氏のいう「1000万円で売買する場
合、原価がゼロのものを1000万円で売る」わけで、中国経済
はその分丸ごと大きくなり、高度成長を遂げたのです。
 中国はこれを繰り返しやってきたのです。しかし、このような
ことが、いつまでも続けられるはずがないのです。その結果、中
国に何が起きたのでしょうか。それが生み出したものが「鬼城」
(グイチェン)なのです。      ── [新中国論/13]

≪画像および関連情報≫
 ●中国ビジネスの法律知識/著者:何連明
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国の『土地管理法』(1998年8月29日第二次改正、
  1999年1月1日施行)及びその関連法規の規定により、
  外商投資企業の土地使用権の取得方法として、払下げ方式を
  取り上げることができます。土地使用権の払下げ(以下「払
  下げ」と言います)とは、国が国有土地使用権を土地使用者
  に期限を限って払下げ、土地使用者が国に土地使用権払下げ
  金(以下「払下げ金」と言います)を納付する行為を言いま
  す。払下げ金の金額の確定方法として、当事者による交渉、
  入札、競売等の三つの方法がありますが、政策上では、入札
  と競売の方式を勧めています。払下げによって、取得した土
  地使用権の年限は、その用途により以下の通りです。1)居
  住用地は70年、2)工業用地並びに教育、科学技術、文化
  衛生及び体育用地は50年、3)商業、観光、娯楽用地は、
  40年です。払下げ方式において充分留意すべき点として、
  以下の二つの問題が挙げられます。1)払下げの対象になり
  うる土地は、法律上、国有土地に限られ、集団所有土地の直
  接払下げは違法です。集団所有土地を払い下げるためには、
  先ず、国が当該土地を収用して、その所有権性質を国有に変
  更させなければなりません。係る手続を経ず、集団所有土地
  の直接払下げを内容とする払下げ契約は無効であり、法的保
  護を受けることができません。2)国を代表して、払下げ契
  約を締結する権限を有する部門は、県級以上の土地管理部門
  (又は国により適法な授権を受けている経済技術開発区管理
  委員会等の部門)に限られています。これ以外の如何なる政
  府部門又は企業と締結した払下げ契約は、当事者の欠格事由
  により、無効な契約でとなります。
  ―――――――――――――――――――――――――――

熊谷亮丸氏.jpg
熊谷 亮丸氏
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。