2013年03月27日

●「ハードランディングする中国経済」(EJ第3514号)

 中国のGDP統計は信用できない──現職の中国の首相李克強
氏自身の言葉です。もちろんこの発言は、李克強氏が遼寧省の書
記時代の発言であり、ウィキリークスによって暴露されたもので
す。本人はもちろん中国共産党もこの発言については、一切無視
していまが、内心穏やかではないと思われます。
 その李克強氏が「GDP統計よりも信用できる」としたのは次
の2つのデータです。これらのデータは改ざんするのが困難だか
らと思われます。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.電力消費量の推移
         2.貨物輸送量の推移
―――――――――――――――――――――――――――――
 これら2つの統計データは、添付ファイルにしてあるので、以
下、それを参照しながら、説明を読んでください。なお、この分
析は津上俊哉氏によるものであることをお断りしておきます。
 2011年の前半においては、中国のGDPは9.5 %前後の
伸びを示していたのですが、その頃の電力消費量は10〜15%
貨物輸送量は15〜20%の伸びを示していたのです。
 しかし、2012年の第2、第3四半期になると、電力消費量
は5%以下、貨物輸送量は10%以下にダウンしています。つま
り、伸び率が2分の1から3分の1に減っているのが分かると思
います。いずれもマル印の部分です。
 しかし、同じ時期のGDPは、7.9 %、7.4 %と、電力消
費量や貨物輸送量にリンクしているとはいえないのです。これら
が2分の1から3分の1に減少したのであれば、2012年の夏
頃は、実質GDPの伸び率は5%を切っても何ら不思議ではない
のです。それが7.9 %〜7.4 %というのは、整合性がとれな
いということになります。
 もっとも中国のGDPの伸び率の低下を欧州向けの輸出の不振
を原因としてとらえる考え方もあります。しかし、2012年1
月〜9月の輸出額を見ると、前年同期比7.4 %、貿易黒字は実
に36.1 %も伸びているのです。また、外需低迷は2011年
からはじまっており、GDPを押し下げてはいるものの、その押
し下げ幅は、同時期のGDPのせいぜい0.4 %程度に過ぎず、
景気減速の原因とはいえないのです。
 津上俊哉氏は、2013年3月1日(金)に「BSフジ・プラ
イムニュースに」に出演され、2時間にわたりこの問題について
話をしています。私は、この番組を見て、津上氏の本を購入して
今日のEJを書いています。
 この番組は、たとえ見逃しても10日間は動画が残されており
それ以後については、文章でサマリーが長期間残されています。
津上氏の話の動画は既にありませんが、サマリーは次のURLを
クリックすると読むことができます。
―――――――――――――――――――――――――――――
  2013年3月1日放送:BSフジ・プライムニュース
  ◎津上俊哉氏/現代中国研究家
  「中国台頭はも終わり?少子高齢化で急減速か」
  http://www.bsfuji.tv/primenews/text/txt130301.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の経済統計数字が操作されていることはあるにしても、公
開されている数字を分析するだけでも、そこに驚くべき中国経済
のハードランディングを読み取ることができるのです。とくに北
京五輪の行われた2008年のGDPの数字に注目する必要があ
ります。中国経済に何が起きているのでしょうか。
 中国の2008年通年の実質GDPは9.0 %ですが、この数
字だけを見ていても中国の経済情勢は把握できないので、四半期
ごとの数字を見て分析することにします。
 いうまでもないことですが、第1四半期は1月〜3月、第2四
半期は4月〜6月、第3四半期は7月〜9月、第4四半期は10
月〜12月です。
―――――――――――――――――――――――――――――
    2008年第1四半期 ・・・・ 10.6 %
    2008年第2四半期 ・・・・ 10.1 %
    2008年第3四半期 ・・・・  9.0 %
    2008年第4四半期 ・・・・  6.8 %
    2008年通年GDP ・・・・  9.0 %
     ──石平/三橋貴明著「中国経済がダメになる理由/
         サブプライム後の日中関係を読む」/PHP
―――――――――――――――――――――――――――――
 2008年は、第2四半期までは2桁成長だったのです。しか
し、北京五輪開催中の8月をはさんだ7月〜9月の第3四半期に
成長率は1桁の9.0 %になり、その年の最後の3ヵ月間は、成
長率が9.0 %から2.2 %ダウンして6.8 %になってしまっ
たのです。6%成長は2002年以来6年ぶりのことです。
 この第1四半期の10.6 %と第4四半期の6.8 %の落差は
3.8 %です。たった1年で3.8 %も下がるというのは、尋常
ならざることです。
 昨日のEJでご紹介したように、中国は2007年通年の成長
率を11.4 %から13%に訂正しています。そうすると、20
07年の13%から、2008年第4四半期には6.8 %にダウ
ンしたことになり、まさに半減です。
 この2008年における中国経済のハードランディングを裏付
ける数字があるのです。新華社通信によると、2008年の中国
の自動車販売台数は前年比6.7 %増の938万500台になっ
ているのですが、その伸び率は2007年の21.84 %から実
に15.14 %減って、6.7 %になっているのです。たった1
年で3分の2以上も下落しているのです。
 これは自動車産業だけではなく、多くの関連産業にとって大打
撃であったはずてあり、同時に国内消費の急激な落ち込みも意味
しています。明らかに中国経済に何かが起きていることは確かで
あると思われます。         ── [新中国論/12]

≪画像および関連情報≫
 ●楽観論と悲観論が交錯する中国経済/コラム/DIR
  ―――――――――――――――――――――――――――
  中国経済は、現在、多すぎる統計とコンセンサスの欠如に悩
  まされているが、少なくとも今回は、2008年のリーマン
  ショック後に打ち出された4兆元規模のような大型財政刺激
  策はなく、また適当でもないという点では、当局も含めて大
  方の共通認識があるようだ。その理由は、第一に、リーマン
  ショック後の大型財政刺激は景気を急速に回復させはしたも
  のの、過剰流動性からインフレや不動産のバブル的状況、さ
  らには地方融資平台を通じる地方政府債務の積み上がり、そ
  の不良債権化が懸念されるといった深刻な副作用をもたらし
  たという反省があること、第二に、すでに低い投資効率をさ
  らに低下させるおそれがあること、第三に、財政刺激を通じ
  て引き続き投資主導の成長を図ることは、中期的に成長パタ
  ーンの転換を図ろうとしている政策に逆行すると考えられる
  ためだ。http://www.dir.co.jp/library/column/120706.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

「電力消費量の推移/貨物輸送量の推移」.jpg
「電力消費量の推移/貨物輸送量の推移」
posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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