2001年10月15日

●思春期前の子どもを主人公とする映画(EJ第721号)

 先週のことですが、時間を作って「千と千尋の神隠し」を見に
行きました。1996年の「もののけ姫」に続く宮崎駿監督のア
ニメーション映画です。EJの読者の中には、まだご覧になって
いない方も多いと思いますが、何回かこの作品について考えてみ
たいと思います。この映画はお勧めです。
 この映画の主人公である「千尋」は10歳の女の子です。この
主人公のキャラクタは、今までの宮崎作品とは大きく異なってい
ます。「もののけ姫」のサン、「風の谷のナウシカ」のナウシカ
「天空の城ラピュータ」のシータ――いずれもひたむきで前向き
であり、大きく澄んだ瞳を持つ美しい強い心を持つ人たちばかり
なのです。
 それに対して「千と千尋の神隠し」の主人公の千尋は、とりた
ててかわいいわけでもなく、どこにでもいるような普通の女の子
であり、今までの宮崎作品の主人公とは大きく異なるのです。
 それは、冒頭のシーンで車(アウディ)に乗っている千尋の姿
を見れば一目瞭然です。やる気がなさそうに学友からお別れにも
らった花束をかかえてゴロンと横になり、不満げな表情をうかべ
ている――そんな感じの女の子なのです。
 千尋はセロファンに包まれたスイートピーの花束がズリ落ちる
と、自分の靴先を見つめ、「初めてもらった花束がお別れじゃさ
びしい」と嘆くようにつぶやくのです。宮崎監督は、この千尋を
現代っ子の象徴としてとらえているのです。
 車には、千尋の他に車を運転する父親と助手席には母親が乗っ
ています。現代日本の典型的な家族であり、サラリーマンの父親
は、リストラにあって田舎の勤務地に一家揃って引っ越しする途
中なのです。
 この10歳の女の子を主人公とする設定について宮崎監督は、
あえて思春期前の子どもを何とか取り上げたかったといっている
のです。
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 『思春期のように、自分が自分をコントロールできない不安定
 な時期のことというのは、みんな覚えているし、僕も覚えてい
 るから、そういう時期の映画は作ることができるのです。でも
 思春期前になると、みんなあまり覚えていないのですよ。
  ただその時期の子どもを見ていると、ずいぶん律儀なんです
 よ。お父さんとお母さんをちゃんと大事だと思っているし、だ
 から問題に取り上げられることも少ない時期なんだけども、非
 常に大事で不安定な時期でもあることがわかるんですね』。
 (宮崎駿監督のことばより)
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 この映画を見て、感じたことは、これは宮崎風の「不思議な国
のアリス」の日本版だということです。私は、学生時代に「不思
議な国のアリス」に凝っていて、ずいぶん研究したものです。も
ちろん映画も見ました。
 アリスは、懐中時計を持ってぶつぶつ喋る変なうさぎを追って
異世界に入って行くのですが、「千と千尋の神隠し」は、引っ越
しの途中で道に迷い、好奇心が強い両親に引きずられて異世界に
入っていくのです。
 宮崎監督は、当初、神様たちが通る山道に造成業者が家を建て
そこに千尋たち一家が引っ越してきたことでいろいろあって、結
果的に異世界に入り込むという、非常に現代的な展開を考えてい
たといっています。
 さて、現代っ子の象徴である千尋は、両親が無鉄砲にも気味の
悪い森の中のトンネルをくぐりぬけようといるのを必死になって
とめようとします。もともと千尋は何かというと、「気味がわる
いよ」「やめようよ」「よそうよ」という積極性のない子なので
両親の行動にブレーキをかけようとします。
 「トンネルを抜けると、そこは不思議な町でした」というのが
映画の宣伝コピーですが、まさにそのコピーの通り、そこは奇妙
な町だったのです。忘れられた駅舎のような建物があって、そこ
からかすかに電車の音が聞こえるのです。その建物を抜けると、
夏草に蔽われている空間にまるで漂流物のように建物群があるの
が見えます。
 そしてどこからともなく食べ物の匂いが運ばれてくるので、両
親はそれに誘われてどんどん歩いていきます。そして、食べ物屋
の屋台を見つけます。奇妙なことに、屋台のカウンターには大皿
に料理が盛られていたのですが、店にはだれにもいないのです。
 両親は屋台に入り、料理を食べはじめます。千尋も誘われます
が、彼女は恐れて店に入らず、両親を必死になって止めようしま
すが、両親は何かに憑かれたように食べ物を口に入れます。
 千尋は仕方がないので、一人で石段を登ると、眼前に「油屋」
と書かれた巨大な銭湯のような建物があらわれます。手前の橋を
渡ろうとすると、そこに12歳くらいの美少年があらわれます。
これが「ハク」です。
 「ここに来てはいけない。すぐ戻れ!じきに夜になる」とハク
が叫びます。あわてて千尋は戻ろうとするのですが、周囲は急速
に黄昏ていきます。来た道の飲食店街には一斉に灯がともり、怪
しげな影が行き来しています。しかし、両親はまだ食べ続けてい
るのですが、近づくと何とブタに姿を変えられています。
 悲鳴をあげて千尋は来た道を戻ろうとすると、来るときはなか
った川が行く手をはばんでいます。思わずうずくまってしまう千
尋――「ここは夢だ。みんな消えろ!」とうめくのですが、何と
自分の手足が透明になっていくのです。
 ここから千尋にいろいろな恐怖が襲うのですが、この最初のシ
ーン――映画は実によくできていると思います。千尋の心細さが
観客によく伝わってきます。大人が見ても身を乗り出して見てし
まいます。このテーマは明日も続きます。
−− [千と千尋/01]

千と千尋@

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは

「ハウルの動く城」に続き「千と〜」の作品も興味深く拝見させて頂いています。
ごくごく平凡すぎるといってもよい日常から
異世界に迷い込むスピード感、テンポは
圧感ですよね。
千尋だけでなく私達もごく自然に
駿さんの世界に迷い込めるんです!
Posted by 実好摩衣子 at 2011年12月06日 18:33
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