2013年03月25日

●「中国のGDP統計にはウソが多い」(EJ第3512号)

 中国には「保八」という言葉があります。この言葉の直接の意
味は「8%を保つ」です。何の8%であるかはいうまでもないで
しょう。実質経済成長率で、前年比8%を切らないようにすると
いう意味です。
 中国ではこの数字が8%を切ると、雇用などに重要な影響が出
るので、この数字を切らないよう経済を運営するということが、
ひとつの節目になっています。
 2008年からの中国のGDP成長率を日本と比較すると、次
のようになります。
―――――――――――――――――――――――――――――
               中国     日本
      2008年  9.6%   −1.0%
      2009年  9.2%   −5.5%
      2010年 10.5%    4.5%
      2011年  9.2%   −0.8%
      2012年  7.8%    2.2%
     http://www.brics-jp.com/china/gdp.html
―――――――――――――――――――――――――――――
 2011年まではなんとか「保八」は守られてきたのです。し
かし、2012年2月に温家宝首相は、目標を7.5 %に引き下
げると表明しました。この時点では、とても8%乗せは困難との
予測があって、目標を大幅に落としたのです。結果は、2012
年は7.8 %になっています。
 それでは、政権が交代した2013年度はどうなるのでしょう
か。2013年2月22日付の日本経済新聞は、次のように報じ
ています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 【ニューヨーク=伴百江】米格付け会社スタンダード・アンド
 ・プアーズ(S&P)は21日発表したリポートで、2012
 年に7.8 %だった中国の実質経済成長率が2013年には6
 %程度に低下するリスクがあると指摘した。近年の過剰な設備
 投資がたたり、投資収益率が低下しており、新たな設備投資を
 抑制する傾向が強まると見ている。
         ──2013年2月22日付、日本経済新聞
―――――――――――――――――――――――――――――
 S&Pによると、6%台という予測です。しかし、6%でも大
変な成長率です。ところが、中国のGDP統計にはウソが多いと
いうことがよくいわれるのです。
 なぜ、そういうことがいわれるのかというと、今回の全人代の
人事で首相に就任した李克強氏の発言にあるのです。李克強氏が
遼寧省書記をしていた2007年頃のことですが、駐中国米国大
使に「中国のGDP統計は『人為的』で、参考程度にしかならな
い」と告げていたことが、ウィキリークスで暴露されたのです。
 大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は、中国の統計作成
者について、自著で次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 筆者が中国の専門家から入手した情報によれば、中国では経済
 統計作成担当者は閣僚級のポストであるという。通常の先進国
 ではせいぜい数ランク下の局長級であるのとは対照的である。
 その理由は、「中国における経済統計の作成には『高度な政治
 的判断』が要求されるから」であるらしい。つまり、その数字
 を発表したときに、グローバルな金融市場参加者やエコノミス
 トがどういつた反応をするかを見極めたうえで──要するに、
 この専門家の言葉を借りれば、「鉛筆をなめながら」統計を作
 成する必要があるというのだ。──熊谷亮丸著「パッシング・
   チャイナ/日本と南アジアが直接つながる時代」/講談社
―――――――――――――――――――――――――――――
 中国の経済は強いといわれますが、それは為替市場の調整など
のために、外貨準備高を多く持っているということがあります。
その大半は米国債なのです。日本も2004年頃までは、多くの
米国債を保有していましたが、それ以降は20%程度減らしてい
ます。そして今や中国の外貨準備高は世界一になっています。
 中国は輸出によって多くの外貨を稼いでいますが、外貨は国内
では使えないので、外貨と同じ量の人民元を中国国内で流通させ
ているのです。こういうこと続けていると、中国国内では不動産
や株のバブルが生み出されることになります。
 輸出を伸ばそうとするには、為替市場をコントロールして人民
元を低く抑える必要があります。しかし、人民元が安いと、その
分中国が輸入品を買う力が弱くなります。
 輸出が増加し、経済が成長して給与が10%増えたとしましょ
う。しかし、同じ期間に人民元が20%安くなったとすると、お
金の価値は実質的に下がることになります。これでは中国人は、
海外の通貨を持つ人に比べると、それだけ貧しくなるのです。
 それに中国は、日本と違って付加価値の高いものを輸出してい
るわけではないので、それをカバーするために輸出量を増やそう
としています。つまり、質よりも量で勝負しているわけです。
 中国は「13億人市場」といわれ、凄い個人消費を生み出す市
場というのが売りです。しかし、輸出を促進するために中国人民
の所得水準を低く抑えてきているので、GDPに占める個人消費
の比率は非常に低いのです。
 国家統計局によると、1990年代以降、GDPに占める個人
消費の比重は低下傾向を辿っているのです。そして現在、中国の
個人消費は世界平均を下回っており、2006年には38%とい
う非常に低い水準になっています。
 この数字は、日本や米国など先進国はもちろんのこと、インド
ブラジル、ロシアなど他の新興国のそれよりも低い数字です。こ
れでは13億人市場が色あせてしまいます。
 なぜ、個人消費が低いかにはいろいろな理由がありますが、社
会保障制度が十分でないこともその原因のひとつです。もし、病
気で入院すると、多額の医療費がかかるので、貯蓄をして消費を
抑えているのです。         ── [新中国論/10]

≪画像および関連情報≫
 ●中国GDP統計は信頼できない/李克強氏/ロイター
  ―――――――――――――――――――――――――――
  内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電に
  よると、李克強副首相(当時)が、遼寧省党委書記を務めて
  いた2007年、中国の国内総生産(GDP)統計は「人為
  的」であるため信頼できない、との見解を示していたことが
  明らかになった。当時のクラーク・ラント駐中米国大使が李
  氏と食事をした際の発言として記録されていた。これによる
  と、李氏は遼寧省の経済評価の際、電力消費、鉄道貨物量お
  よび銀行融資の3つのデータだけに注目すると発言。公電は
  「李氏は、これら3つの数字を見るだけで、経済成長の速さ
  の相対精度を測ることができる、と述べた。他のすべての数
  字、とくにGDP統計は『参考用にすぎない』と李氏は笑顔
  で語った」と伝えている。中国外務省の広報担当者は特定の
  外交文書へのコメントを拒否するとし、公電流出に関連した
  問題について米国に「適切な処理」を求めた同省の洪磊報道
  官のコメントを繰り返した。在中国米国大使館の広報担当者
  からのコメントは得られていない。中国の経済統計、とくに
  省やそれ以下のレベルの地方政府の経済統計については、ア
  ナリストが以前から疑わしいと指摘していた。
  http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-18493420101206
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posted by 平野 浩 at 03:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新中国論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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